第13話 発動!マグニウェーブ作戦 チャプター5 暗躍する少女

エリアS ポイント0のある地点。


 「グェブルルルルゥアアァァァァァァァ!!!」


 エルマグニの姿を、遠見にだがしっかりと確認できるこの場所に、ある人物はいた。


 咆哮を上げたと同時に、その主であるエルマグニの姿を横目でチラリと見る。しかし、彼女の注意は正面を向いていた。


 崖と言うほどではないが、そこそこに聳え立つ段差。普通なら回り道を行くであろう、そんな自然の壁。


 しかしどこか違和感を感じるその空間に、彼女は手を翳した。


 すると、それまでに見えていた景色は霧となり、蜘蛛の子を散らすようにして霧散していった。


 霧の去ったその場には、先程まで無かったはずのものが。ボロボロに廃れた遺跡のようなものが存在していた。


 「グェブルルルルゥアアァァァァァァァ!!!」


 遺跡が出現したと同時に、エルマグニが咆哮を上げる。ただ吠えているわけではない。これまでと違い、遠く離れた位置にいる彼女の存在を確かに確認し、威嚇しているような様子だ。


 彼女もそれに気づいているようで、エルマグニの方を向いて警戒を強める。


 しかしエルマグニの注意はすぐさま逸らされた。彼女からは確認できないが兵頭のマグニウェーブランチャーによって意識を強制的に彼の方に向けさせられる。


 エルマグニの注意が逸れたことがわかると、彼女も警戒を解いて遺跡の中へ足を踏み入れた。


 かなり下へ下へと潜っていく。


 螺旋階段のような道を歩き続け、随分と時間が経過した。


 その終着点には、赤いガラス玉のような物体が祀られるような形で存在しており、それを支えている聖杯にも似た形状の土台の周りには、破壊された何らかの機器が散乱している。


 「これか……」


 彼女はその空間を一通り流し見た後に、赤い玉を注視して呟いた。


 玉に近づこうとするが、数歩進んだ途端、どこかからか霧が出現し一か所に、彼女と赤い玉の中間に集まっていく。


 次第に霧の中に影が見え始め、外からもそのシルエットがはっきり確認できるようになると、霧は散り散りになって消えた。


 その霧の中から現れたのはマグニ。通常のマグニとは違い、胸部の赤い発光体から毛細血管のような組織が伸び、角や爪は胸の発光体と同様赤い光を帯びていた。


 その姿も、サイズこそ成人男性ほどの大きさだが、外見的特徴は西洋の龍、所謂ドラゴンを想起させる風貌をしていた。


 「グオオオオオォ!」


 マグニが唸り声を上げ、威嚇する。


 しかし、この異様な状況にも彼女は全く動じず、平常心のままであった。


 彼女はゆっくりと左腕を構える。その腕にはアルカナチェンジャーが装着されており、取り出したパスをゆっくりと挿し込んだ。


 「変身」


 「グオォォォオォ!」


 角、両手両足の爪、そして胸の発光器官を強く光らせて咆哮を上げ、マグニは彼女へと向かっていく。


 『マキシマ・オーバーブレイク』


 右手に持った斧にパスを装填し、空を切るようにそれを振るった。


 彼女とマグニの距離はまだ数メートルほどあり、互いの間合いの外、少なくとも、彼女の持つ手斧のような片手で振るうサイズの斧では、投げつけでもしない限りは当たることはない。


 しかし――


 「グギュオッ!?」


 彼女が斧を振るったと同時に、間合いの外にいたはずのマグニの身体は、右の腰から左からにかけて光のラインが走り、切断。


 ズレ落ちた上半身が地面に着くと同時に、下半身と共に爆発! マグニ――ドラゴンマグニコアガードはいとも簡単に消滅した。


 マグニが消滅した際に発生する黒い靄や爆煙の残余をかき分け、祀られた赤い玉の傍まで来ると、斧を振り上げて赤い玉を叩き砕いた。


 「よし。後は確認かな」


 それだけ言うと彼女は走り出した。


 下りてきた階段を駆け上がり、途中何度も大ジャンプで大幅にショートカット。


 下りてきた時とは比べ物にならないスピードで遺跡の入り口へと戻ってきた。


 彼女は視線の先にエルマグニを捉えて斧を構える。


 「ゲブラアアァァァァ!!」


 「さあて。上手くいくかどうか……」


 『マキシマ・オーバーブレイク』


 「セイリャー!」


 背を向けたエルマグニ目がけて斧を振る。左肩から右の腰にかけての袈裟斬り、それは当然だが届きはしない。エルマグニとの距離は随分と離れている。高性能ライフルや大砲でもなければ届きすらしないだろう。


 だが先程と同様、絶対に届くはずのないエルマグニの背中を大きく切り裂いた。


 「グオオォォォォォォォッ!?」


 切り口から火花を盛大に吹き出し、悲鳴にも似た咆哮を上げてエルマグニは倒れこんだ。


 そしてその背中の傷は、今までのように瞬時に塞がることはなかった。


 「よし!」

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