第13話 発動!マグニウェーブ作戦 チャプター4 黄金のガード

早瀬SAID


 『マキシマムチャージ』


 「《マジカ・グレイトファイアボール》」


 エルマグニの放った光球目がけてぶっ放す! 私の力じゃ正面から撃ちあっても、防御しても簡単に押し切られる。


 角度つけてぶつけ、軌道を逸らすのが精いっぱい。あ~イライラする。もっと破壊力があれば、もっと頑丈な防御魔術を使えれば安全に対処できるのに! 自分の力不足がむかつく!


 「くそがっ! 調子のんじゃねぇ!」


 兵頭さんが青い波動を放射すると、敵の光球がそれに釣られてエルマグニ目がけて軌道を変えていく。所長の説明ではあの新兵器には、富加宮さんと愛美&憐人の力の他に、八坂さんの力も含まれているんだったわね。


 あまり絡んだ記憶はないけど、たしかあの人もああやって敵の攻撃の軌道を変えていたはず。たしかそのとき使っていたのが、今莉央姉が使っている銃。


 あの力をかなり再現できている。あれがなければ、既に何発か貰っちゃっているわ。


 『指令室より各員。救出班が勝賀瀬隊員、及び逃げ遅れた被災者たちを保護。救出作業に移ります。予想される時間は約二十分』


 「聞いた兵頭さん!?」


 「あぁ、しっかりとな! 安全圏に逃がす時間も考えると三十分はかかるか……それまで気張るぞ!」


 「言われなくても!」


 何としてでも凌ぎきる!


 『こちら第三分隊高橋、敵の高エネルギー反応を確認! 例の攻撃が来ます!』


 あのとんでもビームね。流石にあれは私にはどうすることもできないし、新兵器でも対処きれない。でも、対処はできなくたって対策は練ってあんのよ!


 「指令室、こちら早瀬。壮介、あの作戦やるわよ!」


 『了解。作戦コードVS‐01。各分隊は準備に取り掛かってください』


 『こちら第二分隊大庭竹、準備完了』


 『こちら第四分隊堀内、とっくに準備出来てるよ』


 『こちら第五分隊――』


 『第六分隊――』


 『第七――』


 『こちら第三分隊高橋、データを送ります』


 『カウント3で行きます。3……2……1』


 『撃てえぇーーー!!』


 潜んでいた各分隊からの一斉射! 攻撃がエルマグニの右脚、膝関節に集中する。


 皆の攻撃によりエルマグニの体勢が少しだけ崩れた。ここ!


 『マキシマムチャージ』


 『オーバードライブ』


 「《マジカ・ハードロックウォール》!!」


 マキシマムにオーバードライブを重ね掛け! 巨大で頑丈な土壁をエルマグニの右足の裏を押し返すように何枚も重ねて出現させる。


 「こいつもくらえ!」


 兵頭さんの援護も加わる。ランチャーから放射された光を浴びた途端じたばたしていたエルマグニの動きが緩慢に、むしろ力が抜けていくと言った方が正確かしら? とにかく抵抗力が削がれて背中から地面へと倒れこんだ。


 放とうとしていたとんでもビームは靄のかかった二色の空を切り裂くように、高く高くへ消えていく。


 倒れこんだ衝撃で重々しい衝撃音と砂塵が上がる。本当にこいつは何をしても迷惑ね。


 「グォォグガガッ!」


 大量の土をかぶりながら起き上がり、また光球を辺りに乱射し始めた。


 この量……ヤバいかも!


 「くぅ……っ! 《マジカ・フレイムブラスト》!」


 兵頭さん目がけて放たれた一つは軌道をずらす。他の皆への対処は無理! 距離も遠いし各々に託すしかないわ。


 あたしはこれ以上被害が拡がらないように――


 「こっち向きなさい! 《マジカ・ウインドカッター》!」


 空中で注意を引くのが正解よね。案の定、こっちに向けて無数の光弾が……って!


 「ちょっ! 殺意高すぎるのよ!」


 とめどなく襲いかかってくる光弾の間を縫って何とか回避! 弾幕を抜けて更に上空へ逃げても追うように放ってくる。あぁ~もう! しつこい! 


 『はやちゃん、今座標を送ったわ。二十秒後にこの地点を通過できるように逃げ回れる?』


 「頼子さん。了解! やってやるわ!」


 座標は……あそこね。ならこのままの速度でルートは……


 『座標通過まで5……4……3……2……1……』


 「一斉射!!」


 座標を通過した瞬間。入れ替わるようにAGE‐ASISSTの総攻撃がエルマグニの口内へと発射された。

 光球を放つために大口開けてたもんだから次々とロケット弾やグレネード弾が放り込まれていく。


 当然口の中で大爆発! 少しは効いたかしら?


 ブォン! 


 「っ! あがっ!」


 ミスった! 唐突な大振りの腕を避けきれなかった。かすった左足に響く強烈な痛み。


 痛みと衝撃で空中での姿勢制御の術を失ったあたしは、地面に叩きつけられる。地面に落ちた衝撃もかなりの痛みだった。


 「ぐくっ……! やったわねあのデカブツ……」


 軋むような全身の痛みに圧迫感を覚えるこの感覚。左足は上手く動かないし、下手撃ったわ……


 「退避しろ!」 


 「下がれ下がれ!」 


 「指令室! 指示を!」


 AGE‐ASISSTが狙われてるわね。ぐっ……どうにか奴の注意を……


 「おいこら! お前の相手はこっちだろが!」


 AGE‐ASISSTへの攻撃がピタリと止んだ。兵頭さんがランチャーを使ってエルマグニの注意を引いている。


 今あたしと兵頭さんとの距離はかなり離れてる。このままじゃ防御が……!


 「ゲラァァァァ!」


 兵頭さん目がけて火炎放射。ランチャーによって炎の軌道を変えられるけど、返ってきた自身の炎のダメージなんて気にならないかのように火炎を吐き続けながら兵頭さんに迫っていく。


 「くそっ! ここまでかよっ!」


 兵頭さんの周りに影。エルマグニの右脚が頭上に被さり、靄に遮られ僅かしか漏れない日の光から影を生み出している。


 そのまま踏みつぶされたら兵頭さんは……そうはさせ……


 「うっ……! なによ! 動きなさいよ!」


 痛みで思い通りに動かせない身体。こんな時に……いや、この距離じゃ万全な状態でも……なんなのよもう!

 

 大樹より大きく太い脚が振り降ろされた。兵頭さんはエルマグニに踏みつぶされて……


 キキ―ッ! ガンッ!


 突然のブレーキ音。唐突に聞こえたバイクの急停止した音。


 エルマグニの作った影に侵入した黄金のバイクは、兵頭さんの目の前に滑り込むように急停止し、迫りくる巨大な脚に目がけて手を翳す。


 半透明の壁が二人とエルマグニの間に出現した。空中で固定されたその壁は、何千トン何万トンもあるはずの脚を阻んだ。


 「急いで!」


 影から脱出した二人。黄金のバイクに乗った人物がフルフェイスのヘルメットを脱ぐと……


 「お前……猿渡か!?」


 その正体は猿渡奏。アルカナ№4皇帝エンペラー猿渡奏さわたりかなでさんだった。


 嘘っ、何で奏さんがここに?


 「なんでお前がここに……って訊きたいところだがそんな暇はねぇか」


 「グェブルルルルゥアアァァァァァァァ!!!」


 「まずはここを切り抜けましょう」


 エルマグニの猛攻は二人を襲う。次々と放たれる光球の弾幕。その巨体から繰り出される薙ぎ払いや踏み潰し。尻尾による攻撃もあったけど、それら全てを奏さんは防ぎきっていた。


 「早瀬ちゃん!」


 第三分隊分隊長の高橋さんが数人の部下を引き連れて駆け寄ってくる。


 「大丈夫?」


 「少し休んだら普通に動けると思う。けどなんで奏さんが……」


 『それは私が説明するわ』


 指令室からの通信。頼子さんからね。


 『皆が出撃した後に響也さんから連絡があってね。本部に来るついでに奏ちゃんをそっちに向かわせるって。

 戦闘が始まる直前だったし、間に合う保証がなかったから連絡に待ったをかけていたのだけど、いいタイミングで到着してくれたわね』


 「先に言ってよぉ」


 けど、本当にいいタイミングだわ。奏さん防御や防衛に関してはピカイチだし、兵頭さんの護衛ならあたしより適任。あたし今こんな状態だし……


 「今は回復に専念して、早瀬ちゃんは休んで」


 「わかったわよ。もうすぐ皆も戻ってくるはずだし、撤退時に足手まといになるわけにはいかないからね」

 

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