第13話 発動!マグニウェーブ作戦 チャプター3 救出開始

憐人SAID


 『5……4……3……2……1……』


 通信が入り、カウントダウンが始まった。


 直後に霧が一か所に、まるで繭のように集まりだし、中から地響きと共にエルマグニが出現した。


 こっち側からは霧で半分以上姿が隠れているが、その針山地獄のような後ろ姿から妙な寒気を覚える。


 いつ見ても痛々しくおぞましい姿だ。


 「行くぞ」


 離れていくエルマグニを確認し、富加宮さんが合図を出す。


 兵頭さんがエルマグニを引き付けてくれている内に勝賀瀬さんの元へ急がないと。


 救出メンバーは富加宮さん、池田分隊長と部下である第一分隊の隊員から二名。それと我妻さんと僕。


 あまり時間をかけられない上、こっちに人数を割くと目立つから少数精鋭だ。


 「……待て富加宮」


 「わかっています」


 少し進むと池田分隊長が立ち止まって腕を出し、止まれと後続の僕たちに合図を送る。先を行く富加宮さんにも声をかけたが、当人もわかっていたようでそう返事をする。僕には何があったのか分からないけど……


 その疑問はあっさりと解決。前方、廃墟の陰からマグニが現れた。それも三体。蜥蜴トカゲのマグニだ。


 「シャシャー!」


 三体のリザードマグニが向かってくる。僕と我妻さんは応戦しようとパスを取り出すが――


 ダンッ! ダンダンッ!


 銃声。一瞬遅れてまた二つの銃声。池田分隊長とその部下の二人がそれぞれマグニの眉間を撃ち抜いていた。


 怯んだマグニの一瞬の隙をついて富加宮さんが飛び出す。


 「変身」


 黄色と紫色の粒子が舞い、富加宮さんの身体へと収束していき装甲となる。


 それと同時に長い槍も召喚され手元へと収まる。


 『マキシマムチャージ』


 変身完了とほぼ同時にシステム音声が鳴り、槍を横一閃。三体のマグニは一瞬で爆発し、黒い靄へとなった。


 「えっ……!?」


 「実戦だとここまでなんて……」


 何が何だか、思考が追い付いていない僕。その横では我妻さんが唸っている。ずっと富加宮さんと訓練をしていた身からすると思うところがあるのだろう。


 それにしてもあの一瞬でとは……まるで無駄が無かった。池田分隊長も、他のお二人も素早く的確に隙を作っていたし、手練れという表現がよく似合う。少数精鋭の救出メンバーに選ばれたのも頷ける。


 「手早く済ませるぞ」


 富加宮さんは息をつく暇さえ返上して先へ進んでいく。僕たちもそれに続いた。

 

 それから十数分後。


 何度かマグニが出現したが、どれも手間取ることなく、流れ作業のように消滅していった。


 富加宮さんが前線に出るとこうなるんだ。そりゃ門藤さんの手助けや本部の守護を一手に引き受けるだけのことはある。と思うと同時に、もっと前線に出てくれれば任務や調査も捗るんじゃないかとも考えてしまう。


 「毎回富加宮さんがいてくれたらマグニなんて目じゃないね」


 「本人にそれ話したらきっと「お前たちがこれくらいできるようになれば済む話だろう」って怒られるわよ」


 我妻さんに話すと、彼女はクスッと笑ってそう答えた。普段一緒に訓練しているだけあって熟知している。


 「……反応はこの辺りだな」


 池田分隊長の言葉に、緩んでいた気持ちを引き締める。


 辺りを見渡すと、倒壊したビルの残骸や建物の瓦礫などでどこに何があるのか皆目見当がつかない。自力で見つけ出すのは困難だなこれは……


 「エルマグニも遠くにいるし、呼びかけてみてもいいんじゃないでしょうか?」


 「……そうだな。各員警戒は怠らずに」


 「勝賀瀬さーん! どこですかー?」


 「莉央さん居たら返事して下さーい!」


 全員で叫び、呼びかけた。破壊の後だけが残るこの場所に木霊する声。


 返事が来ず、もう一度叫ぶ。繰り返すうちに嫌な考えが脳裏に過ぎる。もう生きてはいないんじゃ……そんなはずない! 不安を振り払うように僕たちは何度も何度も、大きな声で呼びかけた。


 「勝賀瀬さーーん!!」


 「莉央さーーん!!」


 何度も何度も……


 「勝賀……」


 「ちょっと待て!」


 遮ったのは富加宮さん。途端他の皆も声を上げるのを止め、富加宮さんに視線を向ける。


 時が止まったかのように皆の動きが静止し、沈黙がしばらく続いた。すると――


 「お~~い!」


 小さいが確かに聞こえた! 誰かの声が!


 「聞こえましたね」


 「私も、幻聴じゃないわ」


 「……向こうからだな」


 全員、辺りを警戒しながら声のした方へと向かった。


 時折呼びかけると返してくる。進むにつれて声が大きくなっていき、男性のものだと判明。しかも一人じゃなく何人かいる。近くへ来る頃には女性の声も混じっていた。


 声の大きさから考えて、もう随分と近くまで来たはずだが、周囲は瓦礫ばかり。声の主はいったい何処に……


 「お~い! こっちだこっち!」


 声の主は倒壊したビルの、奇跡的にある程度原形をとどめていた一階にいた。


 周囲には瓦礫が高く積み重なっており、脱出は困難状況だったが、偶然にもシェルターのような役目を果たしたようで、そこにはその男性の他にも多くの人々が確認できた。


 「……指令室、こちら池田。被災者たちを確認した。救助する」


 「すぐに引き揚げます。怪我人は――」


 「皆さん慌てず――」


 一番分隊の隊員二人が呼びかける。被災者の何人かが奥から脚立や台なんかを運んで出てきた。ビル内にあった商品か備品だろう。いつでも抜け出す準備はあったというわけか。


 とはいえそれなりの人数だ。瓦礫周りは危ないし子どももいる。怪我をしてしまえば後々支障が出るし、安全を優先すれば時間もかかるだろう。警戒は怠れない。


 「そういえば莉央さんは?」


 我妻さんの言葉でハッとする。そうだ、被災者の方々はいたけど勝賀瀬さんは何処に? 反応はこの辺りなんだけど……


 「お嬢ちゃん! 迎えが来てくれたよぉ!」


 嬉々とした様子で中年の女性が駆け寄り話しかけた人物。その人の周囲には人だかりができている。


 その人物は勝賀瀬さんだった。壁に背を預けてぐったりとしている。


 「莉央さん!」


 我妻さんが僕より先に気づいて駆け寄って行った。僕も思わず駆け寄る。

 

 「勝賀瀬さん!」


 アルカナの力を開放したままの状態で座り込んでいた彼女は、見るからに疲れ切っていた。まさかあの時から今までずっと変身したままの状態で?


 「勝賀瀬さん、急いで変身を解除してください。このままじゃバックファイアで……」


 「だから変身解除しないんだ」


 割って入ったのは富加宮さん。呆れ顔で勝賀瀬さんの元へ近づいていく。


 「一度変身を解除すれば、もう再変身できないほどにアルカナ粒子が乱れている。更に乱れるのを承知でわざと変身状態を維持しているんだこいつは」


 確かに勝賀瀬さんが戦えなくなるとここにいる被災者の方たちは防衛手段を失うことになるけど。それにしたって無茶が過ぎる。バックファイアが怖くないのか?


 「この子はね、あの怪物ども相手にずっと一人で私たちを守ってくれたんだよ」


 「あんたらこの人の仲間なんだろう? あんたらにも不思議な力があるのか? だったらこの子は休ませてやってくれ。もうずっと戦い続けているんだ」


 被災者の方々の証言からも、ずっと変身は解除していないことがわかる。僕たちと離れてから既に三十時間以上が経過している。僕じゃただ変身しているだけでもその状態を保ち続けられる気がしない。


 しかも勝賀瀬さんはその前に既にマグニの大群と戦って消耗している。それからも度々戦闘を行っているとなると、何でいまだに変身を維持できているのかがわからない。というより信じられない。


 「相変わらず無茶をする奴だ」


 呆れてため息が漏れる富加宮さん。


 「へへ、でも無理じゃ無かったでしょ」


 そう笑って返す勝賀瀬さんに、富加宮さんはそっと肩を貸した。


 「これでもう少し持つだろう。本部までの辛抱だ。いけるな?」


 「大丈夫。このくらい。昔はもっとヤバい時沢山あったし」


 そうか。富加宮さんの持つアルカナの力節制テンパランスはアルカナ粒子の精密なコントロール。富加宮さん側で勝賀瀬さんの粒子の乱れを抑えているのか。


 「……我妻、相沢」


 「はい」


 「……勝賀瀬と富加宮は見ての通りだ。全員の救出までまだしばらくかかる。その間、周囲の護衛はお前たちに任せることになるが、いいな?」


 「もちろんです」


 「任せてください」


 現在、瓦礫の上に引き上げられた被災者の数は全体の七分の一程度か。怪我人の治療もあるし油断はできない。


 「莉央さんばかりに無理させられないわ。相沢君、私たちも役目を果たしましょう」


 「そうだね、ここは富加宮さんに任せて上に戻ろう」


 正直勝賀瀬さんは今まともに戦える状態じゃない。今度は僕たちが勝賀瀬さんの分まで頑張る番だ。

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