第11話 星冥獣覚醒 チャプター6 地獄再来

 その後しばらく戦い続けるも、流石に数が多すぎるせいか少々押され気味だった。


 コブリンの数はかなり減っているがマグニの数はそうそう減っていかない。敵の強い駒が残っている現状は心身ともに厳しいものだ。


 負傷者も多く、このまま長引けばアルカナ粒子も乱れてくる。ジリジリと追い詰められている感じだ。


 けど、殲滅が今回の目的じゃない。


「……了解。救助対象を発見! もう少しの辛抱だ! 皆気張れぇ!」


 やっと来た! そう、何も敵を殲滅しなくても神隠しでこっちに来た人々を救助できればいい。


 物資の確保ができないのは残念だけど、こんなハードな現場で贅沢は言っていられない。負傷者の手当もしないといけないしさっさと撤退するに限る。


「もう終わりなら、出し惜しみしなくても良いってことよね!」


「よし、ぶっちぎりますか!」


 先輩と勝賀瀬さんが消耗度外視のラストスパートに入った。


『マキシマ・オーバーブレイク』


「みんな離れて! いっくぞぉぉぉおお!!」 


 勝賀瀬さんがスティックへパスを装填すると、エネルギーが収束・膨張して巨大な光の柱のようになる。AGE‐ASISST隊員が退避したのを確認し、それを横薙ぎに振るう。マグニたちは次々に爆散していく。たった一撃で気持ちいいくらいに数が減っていた。


『マキシマ・オーバーストライク』


「こっちも行くわよ! 《マジカ・クアドラバスター》!!」


 先輩も負けじと大技を発動。赤、青、緑、黄、四色の魔法陣がそれぞれ手の先に展開され、そこから火、水、風、土、四種のエレメントを帯びた光線が発射される。


 途中でぶつかり合った四つのエレメントの光線は重なり、白く輝く破壊光線となってマグニたちを跡形もなく焼き払った。


「私たちも行くわよ相沢君!」


「よし!」


 僕たちも負けてられない。僕は銃に、我妻さんは剣に、それぞれパスを挿し込む。


『『マキシマ・オーバーブレイク』』


 向かってきたマグニとコブリンの大群目がけ、我妻さんは剣を振るい、僕は引き金を引いた。


 剣の軌跡が光の刃となり、敵陣目がけ飛んで行く。その光刃は光の弾丸と交じり合い、一つの光となって次々とマグニとコブリンを打ち倒した。


「取りこぼしを拾えぇ!」


 僕たちの倒しきれなかったマグニはAGE‐ASISST隊員が取り囲み、一斉射でたたみ掛ける。既にダメージを負ったマグニやコブリンたちは四方八方から降りかかる銃弾の雨によって倒されていく。


「こっちだ! 急げ!」


「慌てないで! 冷静に! 落ち着いて!」


 AGE‐ASISST隊員の声。その後ろには大勢の人々が確認できる。神隠しにあった人たちだ。


「よし! 撤退するぞ! 長居は無用だ!」


 兵頭さんの号令が響く。僕たちは警戒を続け、時間を稼ぎながらもいつでもこの場から立ち去れるように準備を始めた。この人たち全員が、そして僕たちがいつでも本部へ戻れるように。


 でも、ここでマグニ側にも不可解な動きがあった。


 撤退の号令がかかってから、何故かマグニ側も霧の中へと撤退し始めた。


 神隠しに遭った人々全員を保護する前にマグニたち全員が霧の向こうへと消えてしまった。


 このまま霧がこの場から去ってしまえば全員安全に撤退することができる。今までもマグニ側の分が悪くなるとマグニたちは霧の中へと逃げ、そのまま霧ごと去っていくことはあった。今回もそれだと思った。


 だが――


 ズシン……!


 巨大な音と共に大地が揺れる。何か巨大なものが地面に落下したような揺れだ。


 ズシン……! ズシン……!


 尚も音は鳴り響く。それも次第にこちらへ迫ってくるようだった。


 ズシン……! ズシン……! ズシン……! 


 音が近づいてくるたびに、神隠しにあった人たちは騒ぎ出し、僕たちAGEとAGE‐ASISSTは緊張で固まった。


 そして気づいた頃には霧の中に何か巨大な影ができていた。音と揺れの回数が増えるたびにその影は更に大きくなっていき、シルエットも鮮明になっていく。


 そして遂にその影の正体が霧の中から姿を現した!


 最初に見えたのは手だった。ただの手じゃない。まず動物の手じゃない。爪まで赤く染まり、岩のようにゴツく、見るからに強靭な巨大な鬼の手。


 それが一瞬霧の中から見えたと思えば次は頭部、脚、胴体、尻尾と、そして嘘のように霧が晴れ、その全貌が見えた。


 全身はゴツゴツとした岩肌のような鱗で覆われ、頭部には剣のような角が五本も生えている。全体的に恐竜やドラゴン、怪獣を思わせる姿。その体長は目算で三十メートル程。深紅のボディの所々に黒や青の血管のようなものが浮かび、巨大なこん棒の様な尻尾は叩きつけるたびに地面にヒビを入れ、マグニの特徴ともいえるコブは大小様々、その巨躯の至る所に在りそのどれもが心臓のように鼓動している。


 見ているだけで恐怖すら覚える大きく鋭利な牙。口を開けると、小さな舌が無数にチロチロと蠢いており、触手のようにも見えた。


 眼つきは鋭くこれも鬼の様であり、更に血に染まったかのように真っ赤。胸部の赤い発光器官が禍々しくも煌々と光を灯していた。


 その赤く恐ろしい姿を敢えて一言で表すならば、「血の池地獄が化け物と化した」だろうか。もちろん別府にある温泉ではなく、血盆経けつぼんきょうとかに書かれている罪を犯した女性が身体の皮を剥がれて突き落とされ、こん棒や鞭でずっと叩かれ続ける沸騰した池の方のだ。


「グェブルルルルゥアアァァァァァァァ!!!」


 鼓膜を破壊する勢いで轟く咆哮。重く、腹に響いてくるようだ。


 咆哮が止むと、またズシン……! ズシン……! と大地を揺らしながらゆっくりとこちらへ向かって歩み寄ってきた。


「あれが……」


「そうだ……あれが……エルマグニだ!」

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