第11話 星冥獣覚醒 チャプター4 エルマグニ

 僕たちは兵頭さんの運転する車に乗り、長い荒野をひたすら走り続けていた。


 車内は終始無言。重苦しい雰囲気が漂っている。


 このまま何も知らないままではいられない。気まずかったが、何とかさっきのことを兵頭さんに訊ねてみた。


「あの、兵頭さん」


「ん? ああ、何だ憐人? って、決まってるよな。お前ら以外明らかにおかしかったもんな」


「いやまぁ、そのことなんですが……言いにくいことなら無理には……」


「つっても、どうせこの先話しておかねぇとだし、お前らも気になるだろ?」 


「はい。かなり」


 これには我妻さんが答えた。我妻さんも、さっきから自分の知らない事情前提で勝手に話が進んでいくことに不満があったみたいだ。


「皆さんのあの乱れ様……ただ事とは思えません。いったい何が?」


「その答えは三年前のある事件が原因だ」


「三年前の」


「事件?」


「そうだ。ちょうど早瀬の奴がこっちに来たばかりの頃か。俺たちは転送反応をキャッチして現場へと向かった。

 そこは異様な状況だった。普段なら同種のマグニが一から四体、多くても六体くらいだろ? あの灰色の群体タイプの奴は別だが。けど、そこで待ち構えていたのは夥しい数と種類のマグニだ。蛇にトカゲ、亀にワニ。とにかくとんでもない数のマグニとの戦闘になった。もちろん、コブリンのおまけ付きでな」


 聴いてるだけでゾクッとする話だ。それだけの数のマグニを一度に相手取るだなんて……しかもそれぞれマグニの種類が違うとなると適切な対処も取りにくいだろうし、しかもコブリンまで。


「負傷者を出しつつも、なんとか数を減らして救助のために退路を作った。最悪救助さえしちまえば、さっさと撤退しちまって後は無視決め込んで放置なり、作戦を立て直して後日改めて攻め込むなりと選択肢はあったからな。無理する必要はなかったさ。

 だが……最悪な奴が出てきちまった」


「その最悪って?」


 ゴクリと唾を飲み込む。


「突然マグニ共が霧の中に消えていっちまった。当初は撤退まで追い込んだと思ったよ。これで安全に救助に向かえるって。そう思っていた。

 だがな、霧が晴れた瞬間、そこに奴がいたのさ。体長30メートルはある巨大なマグニが」


「なっ!?」


「30メートルのマグニ……?」


「そうだ。俺たちAGE‐ASISSTの攻撃だけでなく、莉央を含めた当時任務に参加していたAGE九名の攻撃すらものともせず、俺たちはただただ蹂躙された。

 救助に向かった隊員は、救助対象諸とも殺され全滅。誰一人救助できず、むしろ死傷者を増やしただけの結果となり、俺たちは命からがら、尻尾撒いて撤退した」


「そんなことが……」


「酷い……」


 とんでもない話だった。今でも信じられない。


 勝賀瀬さんを含めたアルカナ九人とAGE‐ASISST隊で勝てなかっただなんて……


「その際に、俺たちを逃がすために俺の前任者だった当時のAGE‐ASISSTリーダーの有田さんが一人囮となって俺たちを逃がしてくれた。アルカナだけは、死なせるわけにはいかないってな。

 AGE‐ASISSTはリーダーを始め多くの隊員を失った。そのせいもあってAGE‐ASISSTを中心にTAROT内部は分裂。内紛がエスカレートしてここでも多くの仲間を失った」


「そんな!」


「仲間割れだなんて……」


 有田って人は聞いたことがある。以前兵頭さんと勝賀瀬さんが墓標前で拝んでいたあの人だ。


 それに仲間割れだなんて、初耳だ。まさかそんなことが過去に起こっていただなんて、考えたことも無かった。


「そんなこんなでそのマグニ、《エルマグニ》って呼んでいるんだが、そいつは組織を立て直した後の調査で一体だけじゃなく何体かいることがわかった。

 奇妙なことに、通常のマグニとは違い大々的な移動はせずに一定の範囲内にとどまる習性があることも確認された。

 TAROTはそれぞれのエルマグニの縄張りを中心にエリアを区分し、その縄張りをポイント0とした。

 今向かっているエリアSポイント0はその俺たちが大敗北を期し、有田さんを失った因縁のエルマグニの縄張りなんだ」


「因縁のエルマグニがいる場所……」


 エルマグニが複数体いることにも驚いたが、まさか僕たちが今向かっている場所が正に件のエルマグニの縄張りだなんて……


 気が付けば手の平は汗ばんで湿っていた。額からも冷や汗が止まらない。そんな奴のいる場所へこれから乗り込むと考えると、悪寒さえするようだった。


 胸の鼓動が、まるで危険信号のように加速していた。

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