第11話 星冥獣覚醒 チャプター1 つかの間の平和

 憐人たちが第三支部から戻ってから数日後。


 マグニの出現しない日々が続き、各々は束の間の平穏を楽しんでいた。


 住民区では小規模な縁日が開かれ、模擬店にステージ、カラオケ大会など、皆が不安を忘れて賑わっている。普段娯楽の少ない人々の鬱憤を爆発させるかのように大いに盛り上がっていた。


 ステージには早瀬希望の姿があった。ジャグリングや手品など、持ち前の芸や魔術を用いたショーなどを披露してギャラリーを魅了している。


「3、2、1、ショータイム!」


 シルクハットを叩きながら3カウント。するとハットの中から炎が飛び出し、竜の姿を形成する。竜の炎は上空を舞う。派手でファンタスティックな光景に観客は沸き立つ。


 そこに憐人、愛美、美咲、綾芽が通りかかった。保育施設【笑顔】の子どもたちと先生を連れて。


 それに気づいた希望は更に張り切って魔術を披露。彼女がステージ上から降りるその瞬間まで歓喜の渦は沸き続けていた。


「どうだったチビたち。楽しめた?」


 ショーを終えた希望は憐人たちと合流した。その瞬間に子どもたちに群がられてんやわんや。一息つく暇もなく相手をする羽目になってしまった。

 

「こら、あんたたちちっとは落ち着きなさい。わかったわかったから! あたしも一緒に縁日回ってあげるから」


「相変わらず小さい子に人気ね希望ちゃん」


「背丈が近いですから、警戒心も薄れるのでしょう」


「ちょっと富加宮さん! 身長のことは言わないでください!」


「ふふふ、アヤちゃんがそんな風に他人をいじるなんて、明日は雨かしら?」


「先輩大人気ですね」


「あんなの見せられたら小さい子は興奮して我慢できないわよ。みんなくぎ付けだったもの」


 愛美の言う通り、まだ希望の魔術を見たいと言ってきかない子たちが希望と先生方を困らせていた。説得をしても、見たい見たいの一点張りで収拾がつかない。


「そう言えば莉央姉は? 一緒じゃなかったの?」


 子どもに群がられながら、希望は憐人たちに訊ねる。元々は莉央を含めた五人で希望を迎えに来る手はずだったのだ。


「勝賀瀬さんが手伝っていた模擬店が予想以上に繁盛してしまって。人員を減らせないから後で合流すると」


「莉央姉らしいわね。だったらさっさと迎えに行きましょ。ほら、あんたたちいい加減にしなさい。莉央お姉ちゃんを迎えに行くわよ」


「「「はーい!」」」


 ようやく解放された希望。尚も先程のショーの感想を嬉々として話す子どもたちに、まんざらでもないようだ。



 一方模擬店が建ち並ぶエリア。


 莉央の手伝っている焼きそばの屋台は、ほんの数分まで長い列を成していたお客さんの波が途切れ、ようやく落ち着きを見せた。


「おじさーん。もやしが切れかかってるから調達行ってくるね」


「いいよ莉央ちゃん。お前さんもそろそろ縁日を楽しんでおいで」


「いいの?」


「何をバカなことを。本来ならとっくに皆と回ってる時間だろ。色々手伝わせちまってすまないね。助かったよ。ありがとう」


「そんじゃお言葉に甘えて。もやしの補充忘れちゃだめだよ!」


 身に着けていたエプロンを脱いで屋台を出ると、はす向かいの模擬店から女性から声をかけられる。


「ちょっと莉央ちゃん!」


「ん? どしたのおばさん」


「いつもみんな世話になってるからね。たまには礼をさせておくれよ。大した物は無いけど、好きなの持っていきな」


 その模擬店は手作りのアクセサリーが数多く飾られていた。店主の女性が趣味で制作した品々。素人ながらもミストピアに来てからの数年間、暇をつぶすためほぼ毎日制作し続けてきただけあって出来はいい。


「莉央ちゃんも女の子なんだからオシャレしないとね。こんなおばさんの作った物で悪いけど」


「オシャレか……」


 普段着ている服装などは年相応に自分の好みや流行(ミストピア内の)を取り入れている莉央だが、小物やアクセサリーの類にはこれまでほぼほぼノータッチだった。戦闘やトレーニングにおいて邪魔になっても役に立つことは無いという考えからだ。


 その為いまいちピンと来るものが無かったのだが、店主の熱心な対応もあって展示されている商品を眺めていると……


「ん!」


 あるものが目についた。黒と赤で編まれたミサンガだ。


「……よし、おばちゃんこれにする!」


「あいよ」


 右の足首にミサンガを巻き終えると、今度こそ莉央はみんなと合流するために走り出した。

 

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