小話6 第三支部を去る
「もう帰っちゃうのかー」
「色々とお世話になりました」
「最後だし何か聞きそびれたことはない? なんでも訊ねてくれて構わんよ!」
「なんでもですか?」
「遠慮せず先輩に話してごらん。何が知りたい?」
「えっと、これ訊いてもいいのかな……。あの、カサユリって結局なんだったんで……」
「ふんっ!」
「
「今度その言葉口にしたら、セクハラ・パワハラ・モラハラ・その他ハラハラで訴えるかんね! まったく……何がカサユリか……」
「なんでも訊けって言ったのに……」
「何をしているのかしら?」
「後藤さん。金城さんに何でも訊いていいって言われたので例のカサユリについて訊ねたら怒ってどこかへ行ってしまいまして……」
「それはあの子からしたら面白くないでしょうね」
「そんなに嫌がるカサユリって何なんですか? ……って、訊かない方がいいですよね?」
「そうね。あまり吹聴する類の話ではないわ」
「やっぱり」
「それより憐人、あなたに渡しておく物があるわ」
「えーっとこれは……何ですか?」
「あなたたちのデータよ。本部長からの通達でね、私の持つアルカナの力でより詳細に解析したのよ」
「解析とデータ更新なら本部でも定期的にしてるのに……。それと本が何冊も」
「それは選別よ。これでマーロウには困らないでしょう?」
「確かに『大いなる眠り』以外も読もうとは思っていましたけどしかし……」
「それと、私なりに言葉を贈るわ。何かに迷うことがあったらこの言葉を思い出しなさい」
「迷った時に、ですか」
「迷うな。悩め。これがもう一つの選別よ」
「えっと、それもフィリップ。マーロウの言葉ですか?」
「私がいつもマーロウを引用すると思わないでほしいわね。さっきも言ったでしょう、私なりに言葉を贈ると」
「でも迷うなと悩めって矛盾してませんか?」
「してないわ。迷うことと悩むことは違う。全く別のことよ。
迷うというのは、自身がどこへ向かえばいいのか、どこへ向かおうとしているのか、今の状況、状態、方法、その他が判然としていない状態のこと。
一方悩むというのは、自身が向かうべき地点への道筋、手段、またその過程で降りかかる問題や出来事にどのように向き合うか、どのように解決するのか、そういったものを悩むというのよ」
「はぁ……」
「いまいちピンと来ていないみたいね。かいつまんで要点をまとめるなら、自分を信じろ。というのが近いかしら」
「かいつまみ過ぎでは……? 多分もっと複雑なことを言っているはずですよね?」
「そう思うなら自分で何度も考えて答えを出しなさい。それも悩むということよ。……本来ならこんなに言葉の意味を解説させないで自身で気付いてほしいくらいなのよ」
「すみません。思わず聞き返してしまい……でももし自分で考えた結果間違った答えを出したら本末転倒じゃないですか?」
「それは結果論でしかないわ。大丈夫よ。よっぽどのおバカさんでなければ真面目に問題に向き合って出した答えは少なからず正解に近いものになるはず。
それにもし道を間違えたとしても誰かが教えてくれるわよ。あなたは一人ではないのだから」
「そうですね。僕の周りには頼りになる方ばかりです。困った時には相談してみます」
「心配なさそうね。……少ししゃべりすぎたわ。私もまだまだ甘いわね」
「本当にありがとうございました。また会う時にはもう少し胸を張れるようになりますから」
「楽しみにしてるわ」
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