第10話 バディファイト! チャプター8 ミストピアの記録
それから数時間。軽く二十を超える部屋を探し周り、なんとか比較的状態のいい資料や機器をいくつか見つけ出すことができた。
計七つ。それが今回の成果の全てだ。
「集められたのはこれだけだったわね」
「案の定ほとんど壊れてて使い物にならなかったね」
「問題なのは中身よ。それにこれから更に使い物になるか確かめないといけないのよ。いくつ残るのかしら」
少ないとは思っていたが本当に少ないらしい。更にこれからまた数が絞られていくみたいだ。
「思っていたよりもよろしくない成果ですね」
「こんなもんだよ。二人は初めてだからわかんないかもだけど、生きてるデバイスやデータって意外とないから。
紙の資料となると余計にね。紙は見つけたら触らないで写真撮るか連絡してって言ったのは触った瞬間に粉々になる場合があるからなんだ。どれも数百年以上も前の物だから」
保存状態もいいとは言えないしなぁ。もちろん、中には厳重に保管されていた物もあったし、生き残った物の大半がそういったものなんだけど。
その生き残った七つの成果物のチェックに入る。丁度稼働可能な巨大モニターが残っていたためそれに持参した機器を繋げる。本来なら一旦本部や支部まで帰らないといけないから運がいい。改めて遠征って思っていたより面倒で大変だと思い知らされる。
持参した機器はTAROTがこちらの物を基にして改造したデバイス。司令室などでも使用されているパソコンに似た機械だ。この施設内にも、壊れてはいるがその基になった機械がいくつも存在している。こういったところからも遠征の大変さだけじゃなく必要なことなのだと実感する。決して無駄じゃないんだ。
成果物の一つを繋いで、モニターに映し出される。何かの資料データのようだ。読めない文字の羅列が映し出されている。レポートか何かだろう。ページをめくっていると、あるイラストが挿し込まれていた。大勢の人が光を浴びている絵。そして、十中八九マグニやコブリンだと思われる怪物と戦う人々の絵だ。
「あちゃ~、ハズレ引いちゃったか」
「中々上手くいかないもんだね」
金城さんがこの資料をハズレといい、勝賀瀬さんが苦笑いで同意した。確かに文字は読めないが、何やらマグニに関する重要な資料だと思うんだけど。
「これがハズレなんですか?」
「そうだよ。これ他の施設からも同じデータ回収されてるし」
「そもそもこれって、私たちの力に《アルカナ》って名付けるきっかけになった資料だからね」
そうだったのか。確かに言われてみれば光を浴びてマグニたちと戦うってまんまアルカナだ。さっきのイラストも、描かれているのは全員女性に見える。数を数えたら丁度二十二人。大アルカナの数と一致している。
資料の続きにはおそらく各アルカナについての詳細が掛かれているであろうページを見つけた。文字が読めないので内容はわからないが、各ページにはタロットカードに描かれている構図やポーズに似たマークが記されている。このミストピアにも、地球のタロットと似た思想や文化があったのかもしれないな。
その後、一通り確認が済み、本格的な解析は第三支部に戻ってから本部の研究班にデータを送って任せることになった。
任務は無事終了。作戦成功という形で終わった。
そして数日後、僕たちは本部へ帰還する日がやってきた。
「皆ご苦労だった。君たちのおかげで、このミストピアやマグニの謎解明へ大きく前進することだろう。ありがとう」
「さみしくなるな。本部の皆さんにもよろしくな」
「メルシ―(ありがとう)。いずれまたお会いしましょう」
「ゥワンッ!」
梧桐支部長、原田さん、ランベールさん、それに犬のライリー。みんなが見送ってくれた。その後ろには第三支部所属のAGE-ASISST隊員の方々や食堂のおばちゃんや清掃員の皆さんなど、この支部でお世話になった人たちの姿があった。
「また気軽に呼んでよ。すぐとんでくるからさ」
「久しぶりに来たけど、みんな変わりなくて安心したわ。また来たときはよろしくね」
勝賀瀬さんと先輩は別れの挨拶を済ませてそれぞれバイクと車に乗り込んだ。
「愛美ちゃん! 本部に戻っても頑張ってね」
「ありがとうございます金城さん。お元気で」
「憐人」
「後藤さん……」
「長いお別れ。なんてことにはならないわ。また会いましょう」
「はい!」
車のドアに手が触れた瞬間、僕たちは全く同じ行動に出ていた。
「「皆さん、ありがとうございました!」」
皆に向かって一礼し、車へと乗り込む。門が開くと、車は勢いよく走りだした。殺風景な荒野をひたすら走っていく。次第にみんなの姿は見えなくなっていった。
「本当に、色々あったわね。第三支部では」
「うん。なんだかもう懐かしく感じるよ」
「何言ってんのよ。アルカナとして一人前になったからには、これから本部で今まで以上に働いてもらうんだから、覚悟しときなさいよ」
一人前……自分には程遠いと思っていたが、それもこれも第三支部のみんなのおかげだ。
今度は僕たちがみんなの助けになれる様にならないとな。きっといつか。またいつか。
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