第6話 命を繋ぐもの チャプター6 私たちが/僕たちが
人々を乗せたバスがこの場を離れてから数分後。遠くの方から迫りくる霧を視認した。
ほどなくして、霧は百メートルあるかないかといった距離まで接近し、中から多数のコブリンとマグニがその姿を現す。
今回のマグニは狼の特徴を多く残したウルフマグニ。
直立二足歩行なことと胸板の厚さから、狼そのものというよりは人狼といった方がイメージに合うか。左胸に埋め込ませたように存在する黄色い発光器官が怪しげに光る。
池田分隊長は建物に隠れ、ライフルで援護の構え。いざとなれば撃ってくれるが、主な戦闘は僕たち二人の役目だ。
ある程度の数が姿を見せたところで、同時に変身する。
「「変身」」
黄色と黒の粒子が舞い、装甲となって身体へ装着され、二色のボディが完成する。漲る力を勇気と決意に乗せ、僕たちは言葉を投げかける。
「私たちが」「僕たちが」
「「ここで倒す!」」
投げかけたその言葉が呼び水となり、戦闘が開始される。
見た目通り狼の遠吠えのような咆哮をマグニが上げ、コブリンたちが声にもならない奇怪な音を上げながら迫りくる。
僕たちも走って間合いを詰める。
この二カ月、訓練と実戦を重ね、随分と思い描く通りに身体を動かせるようになった。
数体程度のコブリンなら余裕をもって相手にできる。危なげもなく、順調に次々に倒していった。
指令室
「
「これは……二人が圧倒している」
「失礼するよ」
「「所長!」」
「あの二人だけでマグニとの戦闘に入ったと聞いてね」
「戦えるようになってきたとはいえ、二人はアルカナとしてはまだ半人前。厳しいかと思ったのですが」
「二人のアルカナ粒子、通常時の270%まで活性化しています」
「ふむ、二人が同じ強い想いで戦っている証拠だ。
数々の訓練や実践。それを経て互いの信頼が以前より強固なものになっているのだろう」
(それにしてもこの数値、やはりこの
「はぁっ!」
「だぁ!」
あっという間にコブリンは殲滅完了した。以前では考えられないことだ。心なしかいつもより力が湧いてくるような……
「後はあいつだけね」
ワオォー! と大きな遠吠えを上げてマグニが迫りくる。
僕と我妻さんはそれを迎え撃ち、剣で斬りかかる。
強靭な爪で斬撃は捌かれるが、尚も休まず斬りかかる。二人掛かりなのもあって防戦一方のマグニは徐々に捌き切れなくなってきていた。
――三秒後、顔!
――了解!
我妻さんの剣ととマグニの爪が鍔ぜりあう。その三秒後、我妻さんは姿勢を屈めた。それとほぼ同じタイミングで僕の振るった剣がさっきまで我妻さんの顔があった場所を通過した。
当然マグニにはこの攻撃を避ける術はなく、マグニの顔を切り裂いた。……と思ったのだが。
ガギンッ! という鈍い音が響く。マグニの牙が僕の剣を捉え、攻撃を防いだのだ。
「なっ!?」
一瞬の戸惑い。その隙にマグニの蹴りが僕を突き飛ばす。
剣は僕の手を離れ、喰らえたままのマグニが後方へと吐き出した。
「相沢君! これ!」
我妻さんはマグニの攻撃を避けながら銃を僕目がけて投げる。自分の銃も転送してもらい、投げ渡された銃と合わせ二挺拳銃スタイルとなり、発砲。
マグニへダメージが入る。その間に我妻さんは僕の剣を拾い二刀流スタイルに、二本の剣で果敢に斬りかかっていく。
ガキッ! ガキンッ!
剣と爪の衝突時に発生する音と火花が辺りに飛び散る。
「ハァッ!」
右手の剣で爪を受け、身体ごと回転させながら左手の剣でマグニの胴を斬る。
そのまま二つの剣を同時に振るい、マグニの頭部に斬りかかる。爪で防がれるが、その際にマグニ自慢の爪は欠けて使い物にならなくなった。
大きく後退りするマグニ、我妻さんから離れたところに……
「今だ!」
僕が銃撃を叩き込む。
銃撃のシャワーを喰らったマグニは盛大に仰け反った。
怒りの形相でマグニは僕を睨むが、そう気にしてばかりはいられない。
「どこ見ているの!」
我妻さんの容赦ない追撃! 察知して躱すも、次々と繰り出される剣技にマグニはたじたじだ。
さっきの流れで迂闊に距離を取れば僕が撃つことを理解したらしく、チラチラと僕を意識しながら我妻さんの剣をなんとか凌いでいる。
けど、別にそっちが離れなくてもいいんだよ。
――今っ! 撃って!
――了解!
斬りこむ! と思われた我妻さんは突如距離を取った。マグニはそれに反応しきれずに体制が少し崩れる。
そこを逃さず、僕は銃を連射。弾幕がマグニを捉える。
もう随分とマグニには余力がない。対して僕たちは余裕をもって対処に当たれている。最初の頃に比べ、確実に強くなっているのが実感できる。
いける! このまま押し切れる! そう思った矢先。
ワオォォーーー! と、一際大きい遠吠え。そしてこちらに顔を向けたかと思うと……
バシュッ! という奇妙な風切り音と共に口からエネルギー弾が発射された。
「ぐぁっ!?」
咄嗟の出来事に対応しきれず、エネルギー弾を食らってしまった。爪や牙といい、さっきまで狼の特徴に沿った攻撃だったのに、いきなり関係ないファンタジーな攻撃。これだからマグニは対処がしにくい。
「相沢君!」
我妻さんの気が僕の方に逸れた隙をつき、マグニはエネルギー弾を我妻さん目がけて発射する。
「くっ!」
応戦するも、次々に発射されるエネルギー弾によってまともに接近できないでいた。こうなったら。
『マキシマムチャージ』
片方の銃を地面へ置き、マキシマムを発動。残したもう一挺の銃をしっかりと両手で握り、マグニ目がけて引き金を引いた。
複数の破壊光弾が一斉にマグニに襲い掛かる。マグニはいくつかをエネルギー弾で相殺。撃ち落とすが、対処しきれなかった光弾が尚もマグニを狙う。
だがそれらは命中することなく、マグニの俊敏な動きで躱され、振り切られてしまう。狼の敏捷性が反映された動きだ。
でもこれで我妻さんが距離を詰める隙ができた。
「やぁっ!」
先回りしていた我妻さんの剣、マグニは咄嗟に腕でガードする。
『マキシマムチャージ』
腕を斬りつけた剣撃にマキシマムを上乗せし、ガードした腕を力任せに切断! そのままもう一歩踏み込み、もう一本の剣と同時に横薙ぎを繰り出す。
火花と気色の悪い汁を吹き出しながら、マグニは盛大に吹っ飛んで行った。
満身創痍ながらも立ち上がろうとするマグニ。だが、途中で片膝をつき、そのまま崩れる様に地面へと沈み、爆散した。
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