第6話 命を繋ぐもの チャプター5 生きているということ
西側駐車場
現場には今回
「おぉ、来たか。生存者の何人かが家から持っていきたい物があると言って聞かなくてな、護衛としてお前らを呼んだんだ」
「護衛ですか」
「お前たちには第一分隊と共に同行してもらう。もう少しで準備が終わるはずだ。頼んだぞ」
バスの周りに生き残った人たちと第一分隊の方々が集まっている。護衛用のバンも二台用意されていた。
「
「ああ……」
第一分隊長
冷静沈着で寡黙。年齢は兵頭さんより上で四十二歳。地球にいた頃は警察官だったらしい。ちなみに兵頭さんは元警備員。
「兵頭さん、準備ができるまでに一つ訊きたいことがあるんですが」
「何だ?」
「手塚さんと八坂さんのことで」
話題を出した途端、二人の表情が渋面になる。兵頭さんはともかく、普段表情の変化があまりない池田分隊長まで渋ったのは意外だった。
というかこの話題はそんなにおかしなことなのだろうか? その割には誰もごまかさずスラスラと答えてくれるが……
「だれから聞いた?」
「早瀬先輩と堀内分隊長から。人柄については大庭竹分隊長から既に聞きました」
「そうか……」
「手塚さんは何故か単独行動をしていると。いったい何をしているのか気になって。八坂さんに至っては今何をしているのかもまだわからなくて」
「私も気になります。TAROT、それにAGEの黎明期を支えた方がどんな人なのか」
頭をかき、ため息をつきながらも、兵頭さんは渋々答え始める。
「手塚はなぁ……正直何をやっているのかは俺にも、いや、俺も含めたTAROTの全員が把握してねぇだろうな。
唯一水嶋は知っているかもってところだが、話さねぇところから察するに何か事情があんだろう」
「事情ですか」
「誰にも告げずに単独行動をする事情っていったい?」
「さぁな。だがあいつは意味のない行動をする奴じゃねぇ。あいつなりに何か考えがあるんだろうよ」
手塚っていう人、単独行動の理由は気になるけど、誰に訊いても信頼されているようだし、強くていい人なのは間違いなさそうだな。
「じゃあ、もう一人の八坂って方は今何をしてるんです?」
この話題を振った途端、なぜか気まずそうな空気になる。だがその意味はすぐに分かった。
「……八坂は亡くなった」
「「えっ……」」
池田分隊長の口から衝撃的な言葉が聞こえた。亡くなった……?
「今から三年前にとある事件があってな。それで八坂は亡くなったんだ」
どんよりとした空気がのしかかる。そうか、だから先輩たちもあの時……
「だからまぁ、お前らも油断するなよ。アルカナっつっても普通の人間。不死身じゃないんだ。ひょんなことで死んじまうし、死んだら生き返れねぇ」
「……そろそろだ」
話をしている間に、乗り込みがほぼ完了した。僕たちは池田分隊長と同じバンに乗り込んだ。
住宅街
住民と一部の隊員が荷物を運ぶ中、僕たちは他の隊員たちと周囲の警戒に当たっていた。
またいつ霧が来るかわからない状況のため油断はできない。しかも今は勝賀瀬さんや先輩と分断している状況。もしも襲撃があった時には僕と我妻さんが何とかしなければならない。緊張感は普段の二割増し。いや、五割増しだ。
そんな集中しなければならない状況だというのに、頭には死んだという八坂さんのことが常に浮上していた。
「相沢君」
我妻さんが話しかける。
「何? 我妻さん」
「亡くなった八坂さんのことを考えてるんでしょ?」
「あれ? もしかしてアルカナの力使ってた?」
「使わなくてもわかるわよそれくらい。もう結構一緒にいるんだし」
「そう……だね。もう二か月だもんね」
我妻さんがほほ笑んだのを見て、僕も少し笑う。
ふぅーっと長いため息をついて、まるで自分の中の不安を吐き出すかのように、僕は胸の内を打ち明けた。
「わかっていたつもりだったけどわかっていなかった。僕たちがどれだけの人の努力と犠牲の上に生きているかって」
「そうね。私も、わかっているつもりがわかっていなかったのかも」
「
「今日、改めて
それにいろんな話を聞いて、私たち以外の人たちだって、今ここに生きていられるのはある意味奇跡なんだって」
「僕らは幸運だったんだ」
「うん。でもそれってただ運が良かったってだけじゃない。莉央さんたちが懸命に生きているからこそ、私たちまで繫がって来たんだって」
「……だったら、今度は僕たちが……」
そのとき――
ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!
チェンジャーに本部からの緊急通信が入った。代神子原さんの緊迫した声がチェンジャーから聞こえてくる。
『エリアBポイント46にミスト反応! 反応はポイント49方面へ移動中! 各員警戒してください!
繰り返します! エリアBポイント46にミスト反応! 反応はポイント49方面へ移動中! 各員警戒してください!』
僕たちは目を見開いて互いを見る。
「エリアBポイント46って」
「すぐ近くだ。しかもポイント49へ向かってきてるって」
「つまり……ここへ来るってわけね」
ゴクリとつばを飲み込む。新たに通信が入る。兵頭さんからだ。
『こちら兵頭。第一分隊各員へ。生き残った人々を連れて即刻退避しろ。第二、第三、第四分隊は至急現場へ急行!』
『愛美! 憐! 敵に追いつかれそうになったら引き気味に戦ってバスを逃がしながらなんとか耐えて。今そっちへ向かうから!』
続けて勝賀瀬さんからの通信が入る。僕たちは再び目を合わせると、互いに力強く頷いた。
「池田分隊長、皆さんを先に逃がしてください」
「……お前たちはどうするつもりだ?」
「僕たちはここで敵を迎え撃ちます」
『何言ってるの二人とも!?』
「一緒に退避するより、ここで二人で食い止めた方がバスの安全は確保できます」
「荒野と違って、住宅街は入り組んでいるせいでまっすぐ走れないし、その分退避にも援軍にも時間が掛かります。私たちで足止めした方がリスクは低いかと」
「それに勝賀瀬さんがこっちに来たら病院の方はどうなるんです」
『そっちはハヤミに任せるよ! ショッピングモールの方にはAGE‐ASISST隊が大勢残っているし、いざとなれば第三支部から援軍だって要請できる』
僕たちと勝賀瀬さんは互いに譲らなかったが、池田分隊長が方針を決定する。
「……全員退避しろ。敵は俺と我妻、相沢の三人で食い止める」
「池田分隊長!」
「ありがとうございます」
「……お前たちの案の方が現実的だと判断したまでだ」
『現場の紘樹さんが言うならそれでいい。ただし、絶対に死ぬなよ』
「「了解!」」
『……仕方ない。でも無茶はしないでよ! 私もそっちに向かうから!』
さて、気を引き締めるとしようか……!
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