第6話 命を繋ぐもの チャプター3 ファースト・ファイブ

「はい、じゃあよろしくね」


「よろしくお願いします。堀内ほりうち分隊長」


 第四隊分隊長の堀内准ほりうちじゅんさんの指揮下に入った。


 クールな外見とダウナーなテンションでありながら以外と気さくな方だ。


 本部所属のAGE‐ASISST分隊唯一の女性分隊長。彼女率いる第四分隊は食品の中でも精肉や青果の鮮度重視の食材を確保するのが今回の役目だ。傍には先輩もいる。先輩も第四分隊を手伝っていた。


「それにしても、今回はかなり被害が大きかったわね」


「本部と第三支部のちょうど中間っていう微妙な距離だったから。もっとどっちかに寄っててくれたら早く来れたんだがな~。

 そもそも支部の数が少ない。支部の固まってる東側でこれだと、西側に来た時が思いやられるわ~」


「今までも西側はあまりいい結果を出せていないものね」


「支部を中心に活動エリアを広げている都合上、どうしても場所が偏るのは仕方ないけどさ~。何とかしたい気持ちはありますわな」

 

 作業を進めながら、先輩と堀内分隊長は今回の被害の甚大さを、ドライでありながらも憂いていた。


 前回僕たちがこっちへ転送されてきた時よりも、本部から遠い場所へ転送されたことで到着が遅くなってしまった。


 霧の発生も早く、現着した頃には既に阿鼻叫喚の地獄絵図となってしまっていた。


「仕方ないじゃない、“ロゴス”は解散しちゃったんだから」


「そういえば前にも言ってましたけど、ロゴスって何ですか?」


 先輩が本部にやってきた時、ロゴスがどうしたからとか言っていたのを思い出す。


 ロゴスってなんだ? その疑問には堀内分隊長が答えてくれた。


「この子が以前加わっていた特別調査チームのこと。新人君は知らないかもしれないけど、今は各支部がその周辺を少しづつ調査して活動範囲を広げているの。

 でもロゴスは安全性を度外視して至る場所へ飛び回り、目ぼしい施設や危険区域、マグニの生態なんかをスピード重視で調査していたの」


「各支部を中心に調べていたんじゃ、どうしても時間がかかるからね。危険だったけど、成果も上々でやりがいはあったわ」


 特定の拠点を構えずに未開の地を調査って……危険なんてもんじゃない。先輩よく無事でいられたな。


「何で解散してしまったんですか? やっぱり危険だから?」


「まあそれもある」


「あいつがわけわかんないこと言って勝手に抜けたからよ!」


 あからさまに不機嫌になる先輩。


「えっと、あいつとは?」


「ユイユイね。手塚結てづかゆい。№0愚者フールのアルカナ。その子とのぞみん、それに水嶋さん。この三人がロゴスのメンバーだったの」


 水嶋! ここでも水嶋って人が出てくるのか。


「あいつが突然『ちょっと調べてみたいことができた』なんて言い出してそのままどっか行っちゃったのよ! 水嶋さんも止めないで了承しちゃうし」


「ちょっと待ってください。その手塚って人、今も一人でいるってことですか!?」


 三人でも少ないのにたった一人で何か調べるなんて……正気の沙汰とは思えない。アルカナなんて粒子が乱れたら戦闘の続行が困難になってしまうのに。


 それにちゃんとした休息を取らなければ粒子の乱れはなかなか元には戻らない。単独行動なんてしていたら常に辺りを警戒してなければならないのにまともな休息なんて取れる筈がない。バックファイアが怖くないのだろうか?


「まあ死にはしてないでしょう。三ヶ月くらい前に本部に顔見せに来ていたし、支部にも足運んでるっていう話も耳にした」


「どうだか。それっきり連絡もよこさなければこっちの連絡にも応答しやしない。その辺で野垂れ死んでるんじゃない?」


「こら、また心にもないこと言ってこの子は」


 二人ともさして心配した様子はない。その手塚結って人、相当腕が立つんだろうか?


「そんなわけで、あの子がいないとロゴスが機能しないし、今は支部の活躍に期待するしかないわ」


「別の人じゃ代わりになれないんですか? それに三人だけじゃなくて人員を増やした方が……」


「バカね。大所帯じゃあっちこっち飛び回れないでしょ。色んな状況に対処できる少数精鋭のチームが都合いいのよ」


「ユイユイの代わりとなると、もう我らが英雄・勝賀瀬莉央大将軍様と富加宮さんしか無理でしょ」


「むしろあんなのより莉央姉や富加宮さんの方が断然いいんだけど」


 勝賀瀬さん凄い呼ばれ方してるな。


「その手塚って方も凄いんですね。あの二人と同等だなんて」


「ファースト・ファイブの一人だし、潜ってきた修羅場の数からして違うわ~。同い年なのに、脱帽……いいや、ドン引きだわ」


 ファースト・ファイブ? また知らない単語が出てきた。


「その“ファースト・ファイブ”というのは?」


「TAROT創設にかかわった五人のアルカナのこと。

 さっきの三人、勝賀瀬莉央大将軍、富加宮さん、ユイユイ、それに加え我らが守護神の門藤さん、後、沙耶さやって子を含めた五人のアルカナ。それがファースト・ファイブ。

 始まりの五人なんてネーミングそのままでしょ」


「私たちはまだ幸運よ。ミストピアこっちに飛ばされても、こうやって保護に来てくれるAGEやAGE‐ASISST、住む場所や食料を提供してくれるTAROT、安全に戦えるためのシステムや人員が揃っていたんだから。

 その五人は、何も無い中でここまで築いたんだからね」


「うむうむ」


 やっぱり凄まじいな勝賀瀬さんたちは。


「そういえば私が将軍に助けられたときも、こんなデパートだったわ」


「僕もです。堀内分隊長も勝賀瀬さんに助けてもらったんですね」


「五年前にね。てか本部所属のAGE‐ASISSTの隊員はほとんど将軍に助けられたといっても過言じゃないから」


「そうなんですか?」


「門藤さんと富加宮さんはさておき、ずっと本部で活動してるの将軍だけだし。転送反応があれば、支部の方が近くても必ず飛んで行くからあの子」


「もしかして先輩も?」


「あたしは旧第一支部に拾われたから。莉央姉と出会ったのは一段落してから。

 でも莉央姉には世話になったわ。何度も戦線で助けられたし、TAROTにいるみんな莉央姉には返しきれないくらいの借りがあるのはたしかね」


「将軍だけじゃなく、ファースト・ファイブの皆にね。特にあんたはユイユイに世話になったでしょ」


「どこがよ! むしろあたしが世話してやってたんだから!」


 先輩や堀内分隊長の話を聞けば聞くほど気になるな。手塚結って人のこと。


 ファースト・ファイブ。今の僕たちの礎を築いた人たちか……


 そういえばもう一人いるんだっけ、ファースト・ファイブ。


「あの、そういえばもう一人の方は?」


「沙耶ね。八坂沙耶やさかさや。あの子は将軍の相棒だったの。将軍に次いで現れた二人目のアルカナ。№12吊るされたハングドマン


 勝賀瀬さんの相棒!? そんな人がいたんだ。


 それにしても吊るされた男ハングドマンか……奏さんの皇帝エンペラーといい、アルカナって女性しかいないから違和感があるな。


「どんな方なんです?」


「明るい子だったわよ。よく気が利くし、戦闘面も申し分なく強かった。将軍と組ませたら正に無敵だったね」


「私はあまり会ったことなかったからよくは知らないけど、周りに好かれるのがよくわかる人だったわね」


 やっぱり勝賀瀬さんの相棒ってだけあって八坂って人も凄いんだな。でも、なんかさっきから違和感が……?


 もっと八坂って人のことを詳しく聴こうとしたが、ここで通信が入る。


「相沢です。はい……こっちはもうすぐ終わりそうです……わかりました。すぐに向かいます」


「なんだった?」


大庭竹おおばたけ分隊長から。人手が足りないので積み込みを手伝えと。後、第四分隊からも男手を借りたいと言ってました」


「ん。そこの三人! 今から彼と第二分隊の所へ向かって!」

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