第6話 命を繋ぐもの チャプター2 神隠しの恐ろしさ

 憐人SIDE


「各隊配置につけ!」


「「「了解!」」」 


 前回と同様、生存者への説明、及び物資の確保を行うため、このデパートへと集まった。


 兵頭さんの号令で各隊が持ち場へと散開する。


 今回のデパートは僕たちと一緒に飛ばされてきた田舎のショッピングモールとは違い、かなり規模の大きいものだった。


 天井が高く、広い。屋内テナントの数もちょっと数えきれないし、種類だって豊富だ。テレビでしか見たことのない専門店や、今都会で流行りと耳にしたお店なんかもあった。


 おそらく白を基調に鮮やかだったであろう店内の煌びやかな雰囲気の面影も感じられる。


 だが、それも今は残骸となっていた。


 壁や店は所々破壊され、瓦礫や商品が乱雑に散らかり、被害者たちの返り血で赤黒くペイントされていて見るも無残な状態だ。


 外観も、それは立派だった。


 田舎の、大きな建物! 広い駐車場! といった感じのショッピングモールではなく、ガラス張りのビルにも似た、何かのオブジェとも感じる様な、田舎にはない、都会特有の建物が聳え立っていた。


 建物の周辺も、見るからに交通量の多そうな道路や高いビル、噴水のある公園と、とにかく僕の地元とは生活ランク? とでもいうのだろうか。そういった設備や利便性、豊かさは数段上に感じられる。


 今やそれも、神隠しに遭ったせいでこの様だが……


 建物の外観こそ、窓ガラスがいくつも割れている以外は少しの傷や返り血程度で目立つ大きな損傷こそない。が、その周辺はひどく散らかり、周辺道路や駐車場には破損した車がいくつも転がっている。


 噴水は稼働していない、ただの人工的な水たまりに。他の店や住宅も、窓やドア、壁の破壊された物件が目立つ。


 当然人的被害も前回の比じゃない。


 前回は規模も小さかったし、平日の田舎のショッピングモールとその周辺ということで近くの住民や他の店にいた方たちを含めても千人は超えていないだろう。


 今回は前回より規模も大きく、都会ということもあって、千人程度は確実に超えている。


 それなのに現在確認できている生存者の数は、前回と比べても大差がないとのことだった。


 数にしても、比率にしても、とんでもない被害だ。


 今にして、ここ十年近くの日本はそんな大規模な土地や建築物、公共機関、それに人間を一ヶ月から数か月に一度の頻度で消失していたという事実に改めて気づき、よく国が滅びないもんだとさえ思う。


 閑話休題。


 今回僕は第三分隊と食用品の整理を任された。


「それじゃあ憐人君、よろしく」


「よろしくお願いします。高橋たかはし分隊長」


 第三分隊長の高橋翔太たかはししょうたさんの補佐が僕の役目だ。


 さわやかな甘いマスクと柔和な人柄の二十三歳。本人曰く、元々は代神子原さんと同じアナライザー(分析者)志望だったらしい。


 高橋分隊長は隊員にテキパキと指示を出しながら各所を回る。僕はメモや確認作業がメインだ。


「君が来てから隊員たちも変わったよ。君がAGEとして頑張ってくれているから、彼らのモチベーションも以前より高水準を維持し続けている」


 作業も終わりかけの頃、高橋分隊長からそう告げられた。


「いや、僕は何も」


「君のおかげだよ。正確には君たちのおかげ。か。

 俺たちは男って言うだけでアルカナとして戦えない。そのことを力不足と感じ、歯痒い思いをする者も少なくなかったんだ。

 でも、同じ男である君がこうして前線で戦っている。これは君が想像している以上にみんなの心を動かしているんだ」


 そう……なのだろうか? そんな嘘を言うような人じゃないのはわかっているけど、あまり実感がわかない。自分が誰かを奮い立たせているなんて……


「みんな早く元の世界に戻るために、マグニやコブリンから人々を守るためにAGE‐ASISSTに入ったからね。少しでも力になりたくてウズウズしてるのさ。今まで莉央や他のアルカナたちに重荷を背負わせてきた分余計にね」


「それは僕も同じです。勝賀瀬さんやTAROTの皆さんに助けていただいて、今度は僕もって。我妻さんの協力なしじゃ何もできないですけど」


「そうやって謙虚さを忘れず目標に挑めるのは君のいいところだよ。それができず、自分を見失う人だって、いるんだから……」


「高橋分隊長?」


 何故か乾いた笑いを浮かべる高橋分隊長。その目は笑うどころか、むしろ悲し気を帯びてさえいた。


 気になったが、間の悪いことに高橋分隊長の無線に通信が入る。いつもの表情へ戻り、応答する。相手は所長のようだ。


「こちら高橋。はい……はい……了解」


 途中メモを取りながら十数秒ほどで通信を終えた。


「何の通信だったんですか?」


「少し頼まれ物をね。今造っている物に必要な部品をいくつか。

 大きなデパートだから少し珍しい物もありそうだし、それで急いで連絡してきたのかもね」


「そういえばこの無線通信機器はどうやって機能してるんでしょう? こっちには高い電波塔とかも無いし」


 以前から気になっていた通信機のことについて、思い出したのように訊いてみた。


「それは水嶋みずしまさんの力を利用しているんだ」


「水嶋……? その方もアルカナなんですか?」


「そう。水嶋美乃里みずしまみのり。№3女帝エンプレスのアルカナ。今は第一支部の支部長も兼ねている。

 彼女の“高速思念態通信”の力を応用して限定的に力を再現したのが俺たちが使っているこの無線。

 原理は別物だけど、効果としては君たち恋人ラヴァーズの力と少し似ているかな」


「アルカナの力を限定的に……そういえばアルカナチェンジャーやAGEドライバー(変身時に転送され装着されるベルト)には富加宮さんの力が転用されてるって」


「こっちでは使えない地球の技術も多いから、いくつかはアルカナに力を元にした技術で補っているんだ。

 君たち恋人ラヴァーズの力も、近いうちに何か転用されるかもしれないね」


 その場合は我妻さんの力のみ転用になるんだけどな。と、少し複雑な気分になる。


「それじゃあ憐人君。俺たちの隊は所長に手に入れてほしいものを頼まれたから、それを調達しに行ってくるよ。君は第四分隊のヘルプに向かって。量が量だから人手が欲しいと思うからね」


「わかりました」

 

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