第5話 墨西哥山椒魚の呪い! チャプター6 連鎖を切るaction

 エリアSポイント26


 荒野の中にポツンと存在する森。草木のほとんどが枯れかけているこの森の周囲に霧が立ち込めていた。


 案の定襲い来るコブリンの大群。けどもう流石に苦戦することはない。先輩もいるし、僕も我妻さんもこっちに来たあの頃からいろいろ経験を積んでる。後方からはAGE‐ASISSTの援護もある。


 敵をあらかた倒すと少し霧が晴れる。見通しが良くなると、奥に見覚えのあるシルエットが見えた。顔からエラを生やしたあの姿、ウーパールーパーマグニだ。


「先輩、あれ」


「よし、追うわよ!」


「皆さん、ここはお願いします」


 AGE‐ASISSTの皆さんに後を任せて、僕たちはマグニの影を追った。


 枯れた木々の間を走り抜け、開けた場所へ出ると濁りきった上、ほとんど干上がりかけの小さな池があり、奥には古い橋が見える。元はハイキングコースか何かだったのかもしれないな。すっかり荒れてしまっているが、昔は適度に整備されていたであろう名残がそこかしこに感じられる。


 池の前でマグニが項垂れている。


「追い詰めたわよ。さあ、今度こそ終わりに……」


「待って! 何か変よ」


 我妻さんが制止する。見るとマグニは具合が悪そうに身体をフラフラとしている。枯れそうなうめき声を上げながらこちらに顔を向けるが、その動作もどこか億劫そうだ。


 そして頭から倒れ、地面に伏してしまった。


「……何!? まだ何もしていないのに」


「何度も復活しすぎて体調不良……てことはないですよね?」


「……あんたたち気を引きしめなさい。経験上、こういう時はあまり状況が良くないことが多いわ」


 先輩のその言葉を聞いて息を呑む。


 僕たちは瞬時に身構え、意識をマグニに集中させるも、たまに小さく身体が揺れる程度で何も起こらない。


 すると――


 ピシピシッ! っと小さな音を立てながらマグニはふらつく体をゆっくりを起こし、立ち上がる。


 ピシャッ! という音と共に右腕の皮膚に大きくヒビが入った。それを左手で無理やり引き剥がす。


 すると内側から出てきたのはさっきまでの白っぽい皮膚ではなく、黒く染まった皮膚だった。腕の外側にはごついブレードのような物が新たに生えている。


 左腕も同じく皮膚が剥がれ、こちらもブレードの生えた黒い皮膚が剥き出しに。


 胴体、足と次々に剥がれていき、中の黒いボディが露わになっていく。


 最後に顔の皮もはがれ、特徴的だったエラが無くなっていた。


 さっきまで病人の様だったマグニの様子は、全身の黒いボディを身震いさせ、グギャアアアォ! と大きく咆哮し、こちらをにらみつけている。すっかり体調不良は収まったようだった。


「変化した!?」


「なんか……一気にかわいくなくなったわね。各所のコブもいっそう蠢いて気味が悪いわ……」


「たまにこうやって脱皮する奴がいんのよ。厄介なことにパワーアップしてることがほとんどだから、油断するんじゃないわよ」


 後になって調べたが、このときのウーパールーパーは脱皮したのではなく、成体になったといった方が正しいのかもしれない(脱皮もしないわけでは無い。マグニが成体になる際に脱皮のような変化をしたことからマグニの場合は脱皮と成体のプロセスが一体化しているのだろうか?)。


 ウーパールーパーは成体になると体色が黒くなり、陸上生活ができる身体に変化するそうだ(そのため、陸化ともいうらしい)。その際に、陸の環境に対応するため肺呼吸へと変化し、エラが無くなり、手足が大きくなり、水かきと背びれが消失するとあった。


 ちょうどマグニに起きた変化とほぼ同じだった。腕に生えたブレードはマグニ特有の変化だろうが。


 マグニが襲い掛かる。


「来たわよ! 手筈通り任せたわ」


「「了解」」


 僕と我妻さんが同時に応え、前に出る。


 ――仕掛けるわよ!


 ――うん。


 テレパシーを介した合図で二人同時に剣を振るう。


 我妻さんの剣を腕のブレードで弾くも、僕の振るった剣は腹部を切り裂いた。しかし、傷口を確認する頃にはもう傷口は完治していた。


 追撃に入るが防がれ、代わりに僕も我妻さんも腕のブレードで反撃を喰らってしまう。負けじと挑むも、いなされ、まともに攻撃が入ることはない。


「今朝よりも明らかに強くなっているわね」


「ならこれで」


『マキシマムチャージ』


 銃を取り出し強化された銃撃を放つ。数弾が命中し、手応えはたしかにあったが、瞬時に再生され、ブレードから放出された斬撃波が僕たちを襲う。


「ぐあっ」


「きゃっ」


「あんたたち! ……やっぱり私が!」


「ダメ! 早瀬さんは後のことに集中してください! こいつは私たちがなんとかしてみせます!」


 そうだ……いつまでも先輩たちにおんぶで抱っこじゃいられない。僕たちで何とかするんだ!


 ――生半可な攻撃じゃすぐに再生される。大技で一気に決めよう。


 ――でも一度の大技だけでは倒しきれないと思うわ。再生しきる前に二の矢を放たないと。


 ――考えがある。我妻さんはいつでも大技が撃てるように準備しておいて。


 マグニに突っ込み、とにかく剣を振るった。ほとんど防がれるが、休まず振り続ける。


 相手も反撃するが、幸い腕のブレードは腕から肘の方に伸びているためリーチは乏しい。深く踏み込まなければまともに喰らう攻撃ではない。残撃波が怖いがあれは予備動作が大振りだ。逆にその時が懐に潜り込めるチャンス!


 僕は改めて集中し、剣を振るい続ける。やがてしびれを切らしたマグニは右腕大きく振りかぶった。残撃波が来る――


 「ここだ!」


 力いっぱい踏み込んでがら空きの腹部に鋭い突きを繰り出す。剣は胴体を貫き、マグニから苦悶の声が漏れた。


『マキシマムチャージ』


 マキシマムチャージのエネルギーを剣に伝わせ流し込み、内側からもダメージを与える。グリグリと刀身をねじりながら力いっぱい横に抉るように振るった。服部から脇腹を裂いて大量の液体が吹き出す。かなりのダメージだろう。ここに我妻さんが大技を叩き込めば――


 ――我妻さん、今……っ!?


 合図を送ろうとした瞬間、唐突に意識が飛びかけた。


「相沢君!!」


 我妻さんの叫ぶ声。その声に呼び戻されるように目が覚めると、抉れるような痛みが背中から感じられた。


 なんとか視線を後ろに移すと、マグニが腕のブレードを僕の背中に突き刺しているのがわかった。


「がぁ……くっ……」


 痛みが増してきた。あまりの痛みで剣を手放してしまった。このままじゃすぐに変身が溶けるだろう。しかもこの間に、僕がマグニに与えたダメージはほとんど再生されていた。腹部から脇腹にかけて掻っ捌いた傷がもう塞ぎかかっている。このままでは我妻さんが追撃をしても勝てない。


 視界の隅には攻撃態勢に入っている先輩の姿が見えた。先輩には例の魔術に集中してもらはないといけないのに……


 僕は先輩に向かって「待った」と手を突き出す。まだだ、ここから逆に大技を食らわせれば我妻さんの追撃で倒せる。


 パスをタッチし、銃を手元に呼び寄せる。そして銃についたスロットにパスを装填する。


『マキシマ・オーバーブレイク』


 銃内部のエネルギーが急速に高まっていく。照準を合わせることも困難なほどにエネルギーが膨張して、照準が定まらない程に銃が暴れ出す。


 けど、この距離なら照準は関係ない。僕は無理やりゼロ距離で銃を発射。強烈なエネルギーが僕とマグニとの間で弾け、爆発を起こす。


 ――我妻さん、今だ!


 反動で変身が解除されるギリギリの中これだけは伝えた。変身が解け、地面を転がる頃には――


『マキシマ・オーバーストライク』


「やぁーーっ!」


 我妻さんの必殺キックがマグニにクリーンヒットした。衝撃で盛大に吹っ飛ぶマグニ。身体に光のヒビが入り、血が噴き出すかのように火花が迸る。


『マキシマムチャージ』


「《マジカ・バブルキャプチャー》」


 この期を逃さず、先輩が魔術を放つ。作戦の第二段階だ。


 青色の魔法陣から放たれた虹色の薄い筋状の光が爆発寸前のマグニに命中し、大きなシャボンでその身を包む。


 直後、マグニは爆発するも、シャボンは割れず、マグニの破片はシャボン玉内部に留まった。これで破片を見失うことはない。


「相沢君、大丈夫?」


「うん……平気。変身中なら身体に穴が空いたって元に戻るし」


「あんたたちよくやったわ。後はあたしの仕事ね」


 そう言うと先輩はシャボン玉に触れ、充満した煙で何も見えなかったが内部が徐々に見えてきた。内部に展開された赤い魔法陣が爆炎や煙を吸い取っているんだ。


 内部がクリアになると、魔法陣から炎が噴き出し、もう再生し始めていた破片を残らず焼却処分する。


 これにて作戦終了。一先ずマグニの脅威は去った。



 翌日


 昼前のこの時間。いつもなら復活したマグニの反応がキャッチされ、代神子原さんのアナウンスが聞こえ始める頃だ。


 アナウンスは無い。


 昼過ぎ。昼食を食べ終えた頃。まだアナウンスは無い。どうやら本当にマグニを完全消滅させることに成功したようだ。


「どうやら、一件落着みたいだね」


「ん~っ! 久しぶりね、マグニが出ない日なんて」


「早瀬さんが本部に来てからは毎日でしたね」


「確かにそうだったわね。って、それじゃあまるであたしが疫病神みたいじゃない!」


「いや~でも今回はかなり手を焼かされたね。ハヤミがいなかったらどうなっていたか」


「私だけじゃなくて、憐人もでしょ」


「僕ですか?」


「そうよ、あんた以外に誰がいんのよ」


「相沢君がいなかったらマグニの特性を見破れなかったし、当然ね」


「聞いた話だと作戦中も活躍したみたいじゃん。順調に成長しているようでお姉さん嬉しいよ」


 そっか。僕のおかげか。ちゃんとみんなの役に立てたんだな。僕。


「ほら、何してんのよ。午後の訓練行くわよ」


「はい、先輩!」

 

 


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