第5話 墨西哥山椒魚の呪い! チャプター5 手札

 メジャーベース内休憩所


 無理を言って《笑顔》から借りてきた生物図鑑。それとここに来る途中に立ち寄った図書館で借りてきた生物図鑑の二冊を両腕に抱え、三人のいるこの場所まで走ってきた。


 図書室で借りた方の図鑑は分厚く、その上重いから結構大変だ。


「皆さん、わかりましたよマグニの秘密が」


「本当に?」


「ええ、あのマグニ、何体も出てきたんじゃない。我妻さんが言ったように最初の一体が何度も復活していたんです」


「ちょっと、マグニの再生力が高いって言っても爆散して木っ端みじんになってんのよ? さっきも言ったけどいくらなんでもそこまでの再生力はあり得ないわよ」


「それがあいつならあり得るんです」


 僕は借りてきた生物図鑑のサンショウウオのページを開く。


「サンショウウオは身体を半分に裂いても生きている程生命力が強いと言われることから、別名ハンザキと呼ばれています」


「半分に裂いても!? それは凄いね」


「ウーパールーパーの再生力はそれをはるかに上回り、心臓などの臓器や脊髄をも再生することができるんです」


 今度は図書館から借りてきた分厚い本格的な生物図鑑を取り出し、ウーパールーパーのページを開いてテーブル置く。


「心臓や脊髄も!?」


「なるほど。ウーパールーパーの元々高い再生力がマグニの再生力に上乗せされているというわけね。だから普通に倒しても、一日で再生して毎日のように出現してると」


「てっきり地中への潜水があのマグニの力だと思っていたけど、それだけじゃなかったってわけね」


 今までコブラマグニの異空間に繋がる胃袋や今回の潜水能力など、超常的な能力に引っ張られて盲目的になっていたけど、ジャガーマグニの速さやタートルマグニの頑丈さ、以前勝賀瀬さんの話に出た糸を吐くスパイダーマグニ、飛行するバットマグニみたいに、もっとその生物に紐づいた特徴や習性に目を向けるべきだったんだ。


「でも、だとしたらどうやってそいつ倒すのさ?」


 そうだ。再生してるってことがわかっても、結局は再生させない方法がないと対処はできない。


「流石にほぼ全ての細胞を焼却してしまえば再生することはないと思いますが、先輩の魔術なら炎で焼き尽くせませんかね?」


 以前の戦いで火の魔術を使っていた先輩なら燃やして倒すこともできるんじゃないだろうか。


「普通にやるだけじゃ無理ね。細胞を燃やし尽くす前に爆散して辺りに散らばってしまうわ」


「マグニは許容量を超えるダメージを与えると爆発しちゃうからね」


 そうだった。あいつらどんな方法で倒してもいつも爆発してしまう。蹴っても斬っても撃っても、倒れる時はいつも爆発だ。


「なんとか爆発させずに倒すことはできないのかしら?」


「どうだろう。今まで倒したマグニの死骸が原型留めたことはないから。それが原因で解剖ができなくて、結局あいつらのことは未だによくわからないままだし」


 皆う~んと考え込む。そんな中、先輩が自信なさげながらも何かを思いついたようだ。


「一つ、方法がないではないわね」


「本当ですか!?」


「流石アルカナ一手札の多い女! 頼りになるね」


「ただあまり実践向きの方法じゃないし、結構繊細な魔術だから上手く戦闘用に調整できるか……そもそも攻撃を掻い潜りながらマグニ相手に使ってちゃんと当てられるかどうかもあまり自信ないわね」


「そうですか……」


「ちょっと、誰も無理だなんて言ってないでしょ。やりようによっては、いくらでも確度を上げられるわよ」 


「作戦を考えてそれを詰めていくのが、今からやるべきことだよ」


「あんたらルーキーも、手札の内の一つなんだから、ちゃんと働いてもらうわよ」


「もちろん。私たちもAGEの一員ですから。マグニ討伐のためなら手は惜しみません」


「僕もです」


 こうして、先輩を軸に作戦を立てることになった。


 だがその最中に――


『エリアSポイント26にミスト反応! エリアSポイント26にミスト反応!』


 マグニ出現を知らせるアナウンスが入った。


「また? 今日これで二回目だよ? しかもこんな時に」


「エリアSポイント26……今朝マグニを倒した地点に近くないかしら?」


「まさかもう再生を?」


「敵の再生力も上がっているってことかしらね。なんにしても行けばわかるわ。丁度いいからこれで終わらせましょ」


 だが僕たちの出撃を待たずして再びアナウンスが入る。


『エリアBポイント3にミスト反応! エリアBポイント3にミスト反応!』


「もう一体!?」


「二か所同時か。う~ん、仕方ない。そっちは私が受け持つよ。三人はエリアSの方をお願い」


「莉央さん、いいんですか?」


「もし本当に復活してるんだったらそっちにはハヤミが必要でしょ。サポートに人数もいるし、二人はまだ半人前だから私もハヤミも抜きでマグニを任せるわけにもいかないし。だから三人共、そっちは頼んだよ」


「わかりました」


「気をつけてください」


 勝賀瀬さんと別れ、僕たちはおそらくウーパールーパーマグニがいるであろうエリアSポイント26へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る