第5話 墨西哥山椒魚の呪い! チャプター1 マジ!?ックショー

 射撃場


 数十メートル離れた的を前に、僕は変身後の姿で立っていた。少し離れた場所で勝賀瀬さんが腕組みをしてジッと見つめている。


 一度深呼吸。一拍置いて右手に持った銃を強く握り、銃に設けられたパスの挿し込み口へパスをセットする。


『マキシマ・オーバーブレイク』


 システム音が鳴り、銃内部のエネルギーが加速度的に高まっていく。的に向けて構えようとするが……


「うおっ! ちょっ……あぁっ!」


 エネルギーが充填された銃は、暴れ馬のように右へ左へ、上へ下へと僕を振り回す。そしてチャージされたエネルギーは的ではなく、天井に向けて放たれてしまった。


 反動からか、僕の変身が解除される。


「う~ん、やっぱりまだ早いみたいだね」


「銃が言うことを聞かずに暴れて……照準が全然定まりませんでした……」


「自分の体内のアルカナ粒子を活性化させてその粒子を一点に集中させるマキシマ・オーバーストライクと違って、マキシマ・オーバーブレイクはパス内部のアルカナ粒子データを武器に送って武器内部のジェネレーターを稼働させるから、武器自体に負荷がかかるんだよね。

 だから武器を扱い慣れていないと上手くいかないんだよ。その分、身体への負荷やアルカナ粒子の乱れは軽く済むっていう利点があるんだけど」


 アルカナ粒子の乱れが少ないこの必殺技は是非とも身につけたい技なのだが……


「銃に身体を振り回されている様じゃ先は遠いですね」


「ま、これが使える様になったらアルカナとして一人前みたいなところあるからね。一先ずの目標として頑張りなよ」


  勝賀瀬さんも、奏さんも、この技を上手く使ってマグニたちを難なく倒している。この先長期戦を強いられることもあるだろうし、この前みたいな強制解除は非常に危険だ。何としてもモノにしなくては。


「おっ、いい時間だね。そろそろトレーニングルームの方へ移動するよ」


「はい」

 

 

 トレーニングルーム


 射撃訓練を終え、格闘訓練のためにいつものトレーニングルームへと足を運ぶ。


 先に使用している我妻さんたちと交代する時間なのだが……


「この前の戦闘、お前がバックファイアを起こして相沢が危うく死にかけたらしいな」


「ぐっ……はい」


 時間が来たことにも気づかない様子で訓練が続いていた。富加宮さんの持つ訓練用の槍が鋭く我妻さんに迫り、我妻さんはそれを何とか躱している。


「焦ると視野が狭くなる癖が残っているからそうなるんだ。

 お前たちコンビの要はあくまでお前だ。常に状況を見て的確な判断ができるようにしろ。お前のミスは二人分のミスだ。二度とこの前のような無様なミスは犯すな!」


「はい!」 


 二人の訓練は更に勢いを増していく。これでは、時間が来たので場所を変わってくださいとは言い出しづらい。


「あ~、こりゃしばらくは無理そうだね」


「射撃場へ戻りましょうか?」


「でも私たちの後は第二分隊が使う予定になってたから今戻っても使用中だと思うよ。

 う~ん……いいや。ちょっと早いけど午前中の訓練は終わりで。午後の訓練まで気分転換してきなよ」


 これで一旦解散か。昼食の時間までまだあるし、何をしようか……



 トレーニングウェアから着替えた後、特にやりたいことも思いつかなかったので蒼空君たちの元へ足を運んだ。相変わらず活気があって安心するなぁ。


 蒼空君の教室に向かう途中、見慣れない女の子を見かけた。


 ほとんどが小学生未満の子ばかりの中で小学校中学年くらいの背丈をした少女。赤い髪のサイドテールで小さく輪っかを作った特徴的な髪型をしている。


 運動場の隅に長いテーブルを引っ張り出し、袋から様々な小道具を取り出してはテーブルの上に並べていく。


 取り出した小道具の数々に興味を持った子が手に取ろうとすると「こら、取っちゃダメ。面白いものみせてあげるから大人しくして待ってなさい」と優しく叱り、テキパキと準備を進める。


 小道具を手に取った子も、少し残念そうにしながらも「は~い」と元の場所に返す。


 何というか、ちゃんとお姉さんしているって感じのほほえましいやり取りだ。


「さぁ、準備ができたわよ。集まってらっしゃい」


 呼び込むとテーブルの周りを囲うほどの子どもたちが集まり、少女へと視線が集まる。


「はい、まずはこれ」


 取り出したのは透明なカップとコイン。


 カップの底にコインをトントンと軽く当て、仕掛けが無いことをアピールした後、今度は強くぶつける。


 するとコインはカラカラと音を立て、コップの中へと入っていた。俗に言うコイン貫通マジック。子どもたちからは歓喜と驚きの声が上がる。皆すっかり興味津々だ。


 なるほど。あの子は多分芸道衆の子だ。まだ小さいからこの間こっちに寄った際にそのまま残ったってところだろう。本部には門藤さんの張っている結界があるから支部より安全だろうし、見慣れないのも最近来たばかりの子だからだろう。


 次のマジックが始まった。


 今度はテーブルに並んだ小物を手の平で包むと、シャボン玉に覆われてプカプカと宙を舞い出した。


 これには僕も驚愕した。コイン貫通マジックとはわけが違う。


 例えどんな種や仕掛けがあっても物を包んで宙に浮くシャボン玉なんて考えられない。こんなのファンタジーの世界にしかないぞ!?


 どうやって浮かせてるんだ? そもそも割れないというのがわからない。普通なら触れた途端消えて無くなるだろうに……


「どうなってるんだ……?」


「あ、おにいちゃん!」


 シャボン玉マジックに驚いていると、背後から蒼空君に声をかけられた。


「おにいちゃんこれよんで」


 手渡された本は生物図鑑。もちろん辞典のような分厚いのではなく子ども向けの物だが、絵本とかじゃなくて生物図鑑か。


 こっちじゃ動物は一緒に飛ばされてきた犬とか猫とかのペットか虫しか見ないからな。いろんな動物に興味がわくのだろう。僕も小さい頃、こういうの何気なく読んでた記憶あるし。


 シャボン玉マジックが気になるけど、元々は蒼空君たちに会いに来たんだし、読むとするか。


「いいよ、どの動物が見たい?」


「みずにすんでるの!」

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