第4話 皇帝へのプレリュード チャプター9 皇帝
『マキシマムチャージ』
「はぁっ!」
アルカナの力を帯びた刀身がマグニの腹部を貫く。
引き抜いて蹴り飛ばすとマグニは地面を力無くコロコロと転がり、やがて爆発四散した。
これで僕の倒したマグニは四体目。マグニにしては弱めとは言われていたけど、コブリンと比べればずっと手強いわけで、しかも数は多く、コブリンたちだっている。消耗は激しい。
でもやっと終わりが見えてきた。マグニの数は残り十体程。勝賀瀬さんが十二体、我妻さんも六体倒している。
だけど油断はできない。こちらだって消耗しているんだ、何かのきっかけで一気に戦況が傾くことだってあるだろう。
『愛美ちゃん! もうこれ以上はマキシマムもオーバードライブも使用禁止! 一度下がって落ち着きなさい』
「でもこの状況じゃ……」
我妻さんの方にマグニが押し寄せていた。四体のマグニが我妻さんと近くの隊員たちに徐々に詰め寄る。
さっきのでこの辺りのマグニは片づいた。加勢に向かうか。
「これで一気に!」
『マキシマ・オーバーストライク』
我妻さんがマキシマ・オーバーストライクを発動させる。必殺技で一気に蹴散らすつもりだ。
僕もこれに合わせて援護を……そう思った瞬間、ドクンッと心臓が跳ねるような感覚が襲った。
直後――
「うあ……があぁ……ああぁ……!」
全身に激痛が走る。特に関節部は破裂するような痛みと鋭い痺れが襲いかかってきた。
「ひゃぁ……きゃあああああ!」
我妻さんからも悲鳴が上がる。装甲の隙間からは黒と黄色の粒子が蒸気の様に噴出し、周囲に稲妻がスパークしている。
僕と我妻さんの変身が同時に解け、膝をつく。
視界はかすみ、両腕は関節部から先の感覚がない。全身の痛みも引かないままだ。
これが……バックファイア?
「まずい!」
『オーバードライブ』
勝賀瀬さんがオーバードライブによる高速移動で、我妻さんに迫るマグニたちを蹴散らす。
だがすぐに起き上がり、再び進撃し襲い掛かっている。他のマグニやコブリンも集まってきて来ているようだ。
「兵頭さんは憐をお願い!」
「ああわかった! ボウズ、立てるか?」
肩を貸してもらうも身体中が痛み、中々立つことができない。もたもたしていると、黒い何かがこちらへ迫っているのが見えた。
あれはマグニだ。マグニの内一体が、こちらへ目がけて走ってきていた。
三体のコブリンも加わり、計四体で襲い掛かって来る。
まずい! でも痛みで身体が言うことをきかない。このままじゃ……
そのとき、遠くからブルンブルンと野太いエンジン音が轟いた。エンジン音は次第にこちらへ迫ってきている。
音に反応したマグニたちが振り返ると同時に、黄金のバイクが颯爽と現れ、マグニとコブリンをそのまま轢いてふっ飛ばした。バイクは僕のすぐ傍で停止する。
「憐人君」
バイクにまたがっていたのは奏さんだった。フルフェイスヘルメットのシールドを上げて僕の名前を呼んだことで気が付いた。
「奏さん……?」
「下がっていて。彼を早く」
「でかした猿渡!」
兵頭さんの肩を借りてこの場を離れる。
「いいとこに来た奏! そっちのは任せたよ!」
「うん」
先程バイクで轢いたマグニたちが起き上がり、奏さんへと向かっていく。
マグニの振るった腕を躱し、コブリンに蹴りを入れて逆に突き飛ばす。背後から襲い来る二匹目のコブリンにも、人間でいう溝内の位置にパンチを繰り出し、怯んだ隙に顔面を回し蹴り。突撃してきた三匹目のコブリンの足を払い転倒させる。
ここで奏さんの眼が発光する。今まではアルカナの力すら使っていなかった。
灰色と黄色のオッドアイになると、転倒したコブリンをサッカーボールのように蹴り飛ばし、他二体のコブリンにぶつける。
コブリンたちはたじろぎながらも再度奏さんに向かっていくが、ニュートラルな状態にすら敵わなかったんだ。アルカナの力を開放した奏さんには為す術もなく、躱され、殴られ、防がれ、蹴り飛ばされ、去され、突き飛ばされてしまい、呆気なく霧散してしまった。
その光景を見て先程のマグニが尻込む。他のマグニも集まり、残ったマグニは勝賀瀬さんが相手している四体と奏さんが対峙している六体の二か所に固まった。
奏さんがアルカナチェンジャーの宝玉部分にパスを翳し、下部のスロットへパスをセット。
「変身」
灰色と黄色の粒子が噴き出し、身体に収束していく。
黄金とシルバーグレーの装甲を纏い、肩から膝裏の付近まであるマントが風になびく。
威風堂々。右手に剣を携え、悠然と歩みだす。彼女の放つ威圧感にマグニたちもタジタジだ。
強い。これがあの奏さんなのか? それほどまでに普段の、あの繊細な雰囲気の彼女とはまるで別人のようだった。
「これが、奏さん……?」
「当然だよ!」
勝賀瀬さんから思いがけない応答があった。勝賀瀬さんの方は既に二体のマグニを倒していた。
あの乱戦でよく僕の声が聞こえたものだ。そういえば聴覚も強化されているんだったか。
「今まで誰一人犠牲者を出さずに、たった一人で芸道衆を守り抜いてきたんだよ、奏は!」
「はぁっ!」
あの触れたら壊れてしまいそうなほど繊細な歌声の主とは思えない勇ましい声が上がった。
華麗で鋭い剣捌きを以てして、自身に向かってくるマグニたちを通り過ぎ様に次々と斬りつけていく。六対一でもまるで敵を寄せ付けていない。
マグニの一体が口から濁った液体を吐き出した。奏さんが躱すと地面に落ちた瞬間に煙を上げて溶け出した。
蟻酸か! この間のコブラマグニの一件を思い出す。嫌な思い出だ。
再び蟻酸が吐き出される。奏さんに命中する直前、半透明の障壁が出現し、彼女の身を護った。
あれが奏さんの、固有の力なのだろうか?
蟻酸のへばりついた障壁は奏さんの合図と共に吐き出した本人へと向かっていく。
障壁に激突し地面に伏す。そのまま己の吐き出した蟻酸と障壁の圧力によって力尽き、絶命した。
尚も残りの五体が襲い来る。
奏さんはアルカナチェンジャーにセットしたパスを取り外し、剣の挿し込み口部分へと挿し込んだ。
『マキシマ・オーバーブレイク』
システム音声が鳴り、刀身に膨大なエネルギーが生じている。
向かってくるマグニへすれ違いざまに斬る。一体目。
剣を引き抜いた動きを利用し、一回転しながら二体目。
構え直し、袈裟斬りで三体目。そのまま剣を突き出し刺し貫く。四体目。
四体目を蹴り飛ばして剣を抜き、掲げて振り下ろす。頭から股下まで真っ二つに切断。五体目。
こうして全てのマグニが致命傷を負い、奏さんを囲うように五体同時に爆発四散した。
五つの爆発の中心で、爆炎によってオレンジ色に照らされた彼女の姿が一瞬だけ見えた。
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