第4話 皇帝へのプレリュード チャプター3 リピート
あの後、更に二、三組の演奏を聴いて、ようやく住民区のレストランへ来ることができた。
「いや~今回も盛り上がったね。デモも収まったしナイスなタイミングで来てくれたよ」
「まさかこっちであの猿渡夫妻の生コンサートを聴けるとは思ってなかったですよ」
「中にはあの二人のコンサートが定期的に聴けるからこっちに来てよかったなんて言ってる人もいるくらいだからね。どこまで本気なのかわかんないけど」
「混じりけなしの本気よ、きっと。確かに猿渡夫妻の生コンサートが聴けるなんて命を危険に晒す価値は十分にあるわ。こちらに来てから失ったものは多いけれど、今回の歌が聴けただけで来た価値は十分にあった。過去の私がこのことを知っていればきっと何とか神隠しに会おうとしていたでしょうね!」
「おっ? 何、愛美も二人のファンなの?」
「当然です! ファンクラブにも、ほら!」
今となってはあまり用途の無くなってしまった財布から一枚のカードを取り出し、僕たちに見える様に翳す。
ファンクラブの会員証だ。姉さんのを見たことがあるからすぐに理解できた。
「全国ツアー中に神隠しにあったニュースを見た時は、ショックで三日三晩寝込んでしまったけれど、こっちで変わりなく活動されているようで一安心よ。本当に良かった」
姉さんと同じだ……
「しばらくは
「いいんですか!?」
「心のケアも生き抜くためには必要だからね」
「あの、一つ訊いていいですか?」
「ん? 何、憐も休み欲しいの?」
「いえ、そうじゃなくて。芸道衆の方々って本部や支部を周っているんですよね?」
「そ、ここ本部と三つの支部。計四ヵ所をね」
「だったらマグニはどう対処しているんです? 結構な人数と荷物を五台ものトラックやバスで移動していれば、マグニが襲ってこないわけがないと思うんですけど」
以前、まだマグニという名称も知らない頃、臭いか何かで人間を感知しているのではと仮設を立てたこともあった。
結果、そういう面もあるかもしれないが、決して目が見えないわけでも音が聞こえないわけでもないことは既に分かっている。
大所帯での移動なんて視覚的の聴覚的にも目立つ行為、移動したのが一回や二回なら運が良かったのかもしれないと思うこともできるが、猿渡夫妻が芸道衆を作ったのが三年前。支部への遠征を始めたのがいつかはわかっていないが、勝賀瀬さんの反応や住民たちの出迎えの手際の良さを考えたら、どう少なく見積もっても四、五回は本部にやって来てるように思える。
支部を含めた四か所を行き来しているのなら、単純に考えて二十回前後は移動を経験しているはずだ。その間、一度もマグニと遭遇しなかったとはとても思えない。
「それなら心配ないよ。
「誰です?」
「
「聞いたことがあるわ。猿渡夫妻には一人娘がいるって」
「バスやトラックより先に金色のバイクが入ってきてたでしょ? あれが奏だよ。奏は強いよ。ガチでやりあったら私でも結構危ないかも」
「そんなにですか」
「奏も誘いたかったんだけど、あの子いつも到着したらすぐに休んじゃうからな~。積もる話もあるし、二人に紹介もしたかったけど」
「私もお会いしたかったわ。あの二人の血を引き継いだ娘さんだなんて、まさに奇跡の子よ! いつか彼女の音楽も聴いてみたいわ」
「奏の音楽か……でも私が知る限り、奏が歌っていたり楽器を演奏しているところを見たことがないんだよね」
意外な答えが返ってきた。あの二人の子どもなら当然音楽の道を歩んでいると思っていたから。
確かにどのメディアでも二人の娘が音楽活動で話題となっているのを見たことも聞いたこともない。ファンや業界、マスコミからしたら格好のネタだろうに。
ファンクラブに入っている程熱狂なファンである我妻さんですら、一人娘がいる程度の認識だし、姉さんからも話題が出た記憶がない。
まぁでも、両親がある道で有名だからといってその子どもが同じ道を歩む道理もないか。
そうこう話し込んでいる内に、最後の一口を食べ終え、僕たちはレストランを後にした。
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