第2話 青い空の記憶 チャプター6 恋人《ラヴァーズ》
メジャーベース
「と、いうわけでやっぱり二人は戦うことになったから」
「すみません! やっぱり僕たちにも戦わせてください。お願いします!」
「私も、お願いします!」
「おいおいおいおい……何だ急に!? どうした? この短時間に何があった?」
本部の廊下ですれ違った兵頭さんに懇願する。単刀直入だったため兵頭さんは何が何やらと言った感じだ。
僕が戦いたいと思った経緯を話すと、兵頭さんは真剣な様子で聴いてくれた。
「なるほどな。理由はわかった。ま、お前らが戦ってくれるってんなら俺たちも助かるし、願ったりかなったりだけどよ」
廊下を移動しながら話し、指令室前にやって来た。中に入るとみんな巨大なメインモニターを見上げていおり、そこには先日のマグニが二体と夥しい数のコブリン。それと戦うAGE‐ASSIST隊員たちの姿が映し出されていた。
「あら? 相沢君。それに愛美ちゃんも、いったいどうしたの?」
「こいつらやっぱり戦いたいんだとよ」
「え?」
「本当かね」
「何でまたすぐに心変わりを?」
みんな何があったとこちらに身を乗り出して訊いてくる。わかってはいたけど、やっぱり非常識だったよね、舌の根も乾かない内にとはこのことだもん。
「何と言いますか……」
「簡単に言えば、戦う理由ができたんです」
僕が言いよどんでいると、我妻さんがキリっとした声と表情で簡潔にそう言い切った。一種の気迫すら感じさせるそれに、皆は納得。とは少し違うが腑に落ちたように「なるほどね」「そういうことか」と小さく漏らしながら腰を掛けた。
「頼子君。あれを」
「はい」
所長が指示を出すと、頼子さんは何処からともなく取り出した二つの腕輪を僕たちの目の前に差し出した。今着けているデータ収集用の腕輪ではなく、勝賀瀬さんが使用している者と同型の腕輪だ。
「《アルカナチェンジャー》。これを使えばアルカナの力をより安全に、より効率よく、そしてより強力に行使することが可能になるわ。このパスにあなたたちのデータを取り込んであるから、合わせて使ってみなさい。使い方はまず……」
使用法を一通りレクチャーしてもらい、左腕に装着する。
「それじゃあ早速実践といきますか! 現場に向かうよ!」
「お前はぶっつけ本番ばかりさせんじゃねぇよ。今回はお前だけで行け」
「いや、僕たちも行きます!」
「ここで行かないなら戦うと決めた意味がないですから」
僕たちの押しに、兵頭さんはヤレヤレといった感じに表情を崩す。
「ったく、しょうがねぇ連中だ。車出してやるからついて来い。所長、かまわないでしょう?」
「ああ、二人とも、十分に気を引き締めてな」
「「はい!」」
僕たち二人は大きく返事をし、兵頭さんの後に続いた。
エリアSポイント04
現場につく頃には戦いは激しさを増し、大勢のコブリンに隊員たちが分断されていた。隊員たちはかなり苦戦しているようで負傷者も何人か出ていた。マグニはというと奥の方で高みの見物を決め込んでいる。
「みんな! 援護に来たよ!」
勝賀瀬さんの登場で隊員たちは歓喜の声を上げる。活気づいた隊員たちは勢いを増して奮闘する。
「さ、二人とも準備と覚悟はできてる? 変身の仕方、覚えたよね? いくよ!」
「いくわよ相沢君」
「うん。よし!」
戦う決意を胸に、アルカナチェンジャーの宝玉にパスを翳す。そしてそれを下部のスロットへセット。機械音声が鳴り、宝玉が黒色と黄色に交互に点滅し、チェンジャーから待機音が流れ出す。それにワンテンポ遅れて目が光り出した。前の二回と同じく左目が黒く、右目が黄色に。
僕たちは同時に言った。
「「変身」」
黒色の粒子と黄色の粒子、二つの粒子が我妻さんの周囲にドーム状に出現した。
我妻さんの服装が黒のアンダースーツに変化する。そして粒子がいくつかの塊となり、装甲としてアンダースーツの上に装着されていく。
腰にはゴツ目のベルトも装着され、完全に装着が完了すると衝撃波が生じ、我妻さんの変身が完了した。
そして僕はと言うと、我妻さんから生じた衝撃波を受けると粒子が発生して先程の我妻さん同様、黒いアンダースーツと黄色と黒の装甲、ベルトも同様に纏い電撃が迸った。これで僕も変身完了だ。
「おおっ! 二人とも決まってるね~」
コブリンたちが僕らを警戒しているのがわかる。僕自身、湧き上がってくる力の量と密度に妙な高揚感や圧迫感を感じている。
目だけ光っていた時とは全然違う。それでいて、力のコントロールは以前よりも容易にできるという確信があった。
大勢のコブリンが押し寄せてくる。僕たちは正面からそれを迎え撃った。
「はぁっ!」
我妻さんの蹴りがコブリンにヒットし、盛大に吹っ飛んでいく。
僕もコブリンの顔面に回し蹴りを繰り出す。こんなに脚が上がるのも驚きだが、それ以上に腕で蹴りを防いだはずのコブリンがそのまま吹っ飛んで行ったことの方が驚いた。自分のことながら信じられない破壊力だ。
乱戦になりながらも、僕たちは押されてはいなかった。向かってくるコブリンを次々に退けていく。
「負けてられないね! 私も! 変身!」
赤と黒の装甲を身に纏った勝賀瀬さんも参戦した。僕たちとは違う方の、分断されたもう一組の隊員側へと飛び込んでいき、次々とコブリンを蹴散らしていく。
「二人とも! 武器使って武器!」
勝賀瀬さんのチェンジャーを指さすジェスチャーを交えてアドバイス。支持の通りに、チェンジャーにセットしたパスをタッチする。
宝玉から粒子が飛び出し、武器が転送される。細身の剣と近未来的なデザインの銃だ。我妻さんも同様の物を手に取っている。
右手に剣、左手に銃を握り、攻撃再開だ!
「てやっ! はっ! だぁ!」
向かってくるコブリンを次々に斬りつける。離れている奴には発砲! 銃口からレーザー弾が発射され、コブリンを打ち抜く。反動も少なく、銃なんて扱ったことのない僕でも何発かは命中した。
「はあああ!」
我妻さんも凄い気迫で次々とコブリンを斬り裂いていく。彼女の通った道には身体に深い切り傷を負ったコブリンが何体も倒れていた。内数体は限界を迎え、黒い霧となって霧散していく。
「二人とも! ベルトの右側にある出っ張りを押し込んでみて!」
ベルトの出っ張り……これか! 左右に着いたベルトの出っ張りの内、右側を押し込んでみる。
『マキシマムチャージ』
システム音声が鳴り響くと、身体全身にドッと力が溢れて来た。武器にもエネルギーが満ち満ちているのがわかる。
試しに銃の引き金を引くと、通常とは明らかに大きさもエネルギー密度も段違いの破壊光弾が多数射出された。
それぞれが獲物を狙う狼の様にコブリンたちに向かって飛んで行く。追尾性能も付いているのか。
命中したコブリンは一撃で消滅した。見た目通り破壊力も上がっているようだ。
「はあああああっ!」
我妻さんは、剣の刀身が伸びて撓り、まるで光の鞭を扱っているかのような変幻自在、予測不能な軌道で次々とコブリンを切り裂いていた。こちらも多数のコブリンを一挙に消滅させていた。
「やる~! おおっと! 二人とも! 金色のがそっちに行ったよ!」
振り向くと金色のタートルマグニが目の前まで迫っていた。寸でで躱して剣で斬りつける。
「このっ! はぁ!」
だが小さく火花が散るだけでまともなダメージを与えられている様子はなかった。
反撃とばかりに平らな腕で殴られ、そのあまりの衝撃でコロコロと地面を転がる羽目になった。
殴られた箇所が熱い! そして重い……
「やぁっ!」
我妻さんも攻撃を仕掛けるが、やはりダメージは浅い。タートルマグニの攻撃を躱して距離を取った。
「相沢君、さっきのもう一度同時にやってみない?」
「わかった。よーし!」
再びベルトの右側を押し込みマキシマムチャージを発動させる。無数の破壊光弾と乱れ踊る光の刃がタートルマグニを襲う。
が、攻撃がヒットする直前でマグニはクルリと後ろを向き、攻撃は甲羅へと命中した。
拍子抜けするほどの軽い金属音が何度も鳴り、まるで「何かしたのか?」とでも言いたげな小馬鹿にした表情でこちらへと向き直る。
「そんな……」
マグニの口から水圧弾が発射される。地面へ命中すれば盛大な水飛沫を上げ、泥水と共に僕たちの視界を遮る。身体に命中すれば一瞬呼吸ができなくなるような衝撃と肌が捲れ、骨が砕けたような痛みが打ち所を中心に広がる。
「二人とも大丈夫!?」
勝賀瀬さんは逆に銀色のタートルマグニを追い詰めていた。
装甲の薄い部分を的確についてダメージを与え続け、敵の反撃は直前で躱すかそもそも反撃を許さないでいた。あちらのマグニは満身創痍といった雰囲気だ。
こっちの心配をする余裕すらあるのにワンサイドとは流石だ。
「こっちも何とかしないと……」
だがあの防御力を突破することができず、攻めあぐねているままだ。
いったいどうすれば……
――負けられない!
そう確かに聞こえた。
――和花ちゃんの為にもこんなところで足踏みしてる場合じゃない!
そうだ。僕だって蒼空君との約束があるんだ。こんなところで――
想いを胸に奮起する。すると、不思議と脚に、腕に、身体全体に力がみなぎっていく。
「相沢君、いけるよね?」
答えはもちろん。
「うん。いこう!」
僕たちは同時に地面を蹴って駆けだした。吐き出された水圧弾を躱して同時にパンチを叩き込む。今までにないほどの火花が迸り、マグニはフラフラと後退して殴った部分に手を当てている。かつてないダメージがマグニに入った。
『二人のアルカナ粒子が活性化しています。通常の二倍近い数値!』
「所長が言ってたじゃん? 感情が高まってアルカナの力が表面に出てきたって。
『それにしても一気にこれほど変動するとは……』
「有望なルーキーが入ってきて、お姉さんもうれしい限りだよ。そんじゃま! ぶっちぎっていきますか! 二人とも!」
勝賀瀬さんの声に振り替えると、ずっと腰に巻いて携帯していた銃を引き抜き、金と銀、二体のマグニの首元に向けて発砲し見事命中した。マグニが怯む。
「今度は左側、押してみ!」
次は左側っと。押し込むと今度は身体全身を熱い何かが高速で駆け巡っているような感覚を覚えた。
『オーバードライブ!』
システム音声が終わると、直感的に我妻さんが次何をしようとしているのか、それに何を合わせればいいのかが瞬時に理解できた。
迫ってきたマグニと取っ組み合いになる。同時に、僕の姿に隠れて我妻さんが後ろで剣を構えているのもわかった。剣を振るうタイミングがわかる。
そのタイミングに合わせて頭を下げると、後ろから我妻さんの斬撃がマグニの顔面に決まった。直接見たわけじゃないが、上手くいったと理解できた。
腕を振りほどいて……このタイミングだ!
飛び上がって思いっきりキックすると死角から我妻さんも同じようにキックを繰り出していた。同時に炸裂する。
よろめきながらもマグニも攻撃を繰り出そうと向かってくる。僕も銃を手に取り構える。
ヒレのように平らな腕の手刀が迫る。でもそれが僕に届かないことはわかっていた。何故なら……
「せいっ!」
振り下ろそうとした手刀を横入りした我妻さんが剣で防ぎ、かちあげる。我妻さんが通り過ぎ、がら空きになった腹部に銃を乱射する。命中した箇所から火花が盛大に飛び散る。
「そろそろ決めるよ!」
勝賀瀬さんがベルトにある左右の出っ張りを押し込むのではなく、反対に横に引っ張った。展開した出っ張りを押し込んで元の位置へと戻す。
『マキシマ・オーバーストライク!』
システム音声が鳴ると共に銃口へエネルギーが収束し、膨れ上がっていく。腰を落とし、狙いを定め、引き金を引いた。
高純度のエネルギー弾が猛スピードで金色のタートルマグニ目がけて飛んでいき、着弾するとエネルギーが全身に染み込んでいく。激しく火花を散らしながら仰向けに倒れ、盛大な爆発を引き起こした。
「僕たちも!」
「ええ!」
同時にベルトの出っ張りを展開し、押し込む。
『『マキシマ・オーバーストライク!』』
全く同じシステム音声が全く同じタイミングで鳴り響く。それを危険と判断したのか、マグニは僕たちの足元目がけて強力な高圧水流を吐き出してきた。
勢いよく地面を垂直に蹴り、高くジャンプする。高圧水流が地面を抉るがそのしぶきさえ僕らには届かない。
そのままマグニ目がけて二人同時に必殺のキックを放った。狙ったマグニ目がけてまるで引き寄せられるように直線軌道で身体が向かっていく。
キックが当たる瞬間、マグニは先程と同様にクルリと背を向け、キックは甲羅へ命中した。衝撃で僕たちは少し跳ね返り、マグニは地面へ倒れこんでそのままズザザーッと数メートル吹っ飛んでいった。
数秒の沈黙。
マグニが起き上がった。余裕そうな表情でこちらへと歩み寄って来る。一歩二歩と近づき、暫し進んだところで急に苦しみだした。
マグニが背を向けると、甲羅に大きなヒビが入っていた。亀裂から強い光が漏れ、破片が零れ落ちていく。やがて甲羅の大半が破片へと変わり、崩れ落ちると、銀のタートルマグニは自身の光に包まれて爆発四散した。
『作戦終了ね。三人ともお疲れ様』
『やりましたね所長!』
『ああ、また新たな頼もしい仲間が増えた。皆でここを脱する日も、そう遠くないだろう』
「いや~二人ともお疲れ~。初陣にしては中々良い戦いっぷりだったよルーキーたち」
「……勝ったの?」
「うん……多分」
「多分じゃなくて、マジだよ!」
本当に倒したのか……? 僕たちで?
「ボーッとしてないで帰るぞ。変身解いてさっさと車乗れ!」
兵頭さんの声で我を取り戻し、車に乗り込んだ。高揚感とも、不安感ともとれない妙な気分のまま、車に揺られて本部への帰路についた。
戦いの後、疲労感と痛みが実感を帯びてきた。
気が抜けたのと、常時動いていた身体を車で休めたことで、麻痺していたもの全てを身体が自覚し始めたのだ。何とも言えないだるさが重くのしかかる。
そんな状態で何とか指令室まで戻り、報告を終えて解散となる。
本当は他にもいろいろ話さなきゃいけないことや聞かなきゃいけないこともあるんだろうけど、今の僕にはそんな体力は残っておらず、この日は風呂に入り食事を取るとすぐに眠ってしまった。
やっぱり戦いは物凄く体力を使う……
次の日
身体の疲れも残る中、僕たちは再び保育施設の《笑顔》に足を運んだ。
「おにいちゃん!」
聞き覚えのある声が僕を呼んだ。蒼空君だ。
「おはよう蒼空君」
「おにいちゃん、ピクニックの約束、わすれてないよね」
「もちろん。必ず行こう。一刻も早く叶えられるようにみんなでがんばるよ」
もう一度、今度は僕から小指を立てて蒼空君の前に差し出す。
「私たちも入れて貰えるかしら?」
我妻さんと和花ちゃんも小指を立てながらこちらへとやって来た。
「うん! みんなでいっしょにいこう!」
四人で指をからませる。指を離した後も、あの時固く結んだ感触はまだ指に残っている。きっと約束を果たすその時まで……。
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