第2話 青い空の記憶 チャプター1 勝賀瀬莉央
「第一分隊は周辺の見張りと調査。第二、第三、第四分隊は食料の確保。第五分隊は日用品の確保。第六分隊は生き残った人々への説明。第七分隊は死体の処理だ。かかれ!」
「「「了解!」」」
「あー、第五分隊は子ども用の服をいくつか確保しといてくれない? 大きめの奴。成長して大きいのが欲しい子結構いるんだよね」
「だそうだ。頼んだぞ」
突如電気が使えるようになり、さっきまで怪人と戦っていた彼女と大柄な男性が大勢の武装集団に指示を出していく。
生き残った人々は一か所に集められている。さっき生き残った人への説明って言っていたな。僕らも――
「はいはい、君たち二人はこっちね」
僕たちはいきなり彼女に突然手を握られ、他の人たちとは逆の方向へと連れて行かれそうになる。
「え? えっ?」
「ちょっと! 何するんですか!?」
我妻さんは握られた手を振りほどくと両腕を使って少女を包むように抱きかかえて警戒の色を剥き出しにする。
振り払われた彼女は、キョトンと不思議そうな表情で我妻さんの方見ていたが、次第にゆっくりと僕の方へ首を曲げる。掴んだ手に目線を落すと少しだけ、ゆっくりと持ち上げ途中で手を放した。僕も嫌がっていると思ったのだろうか。
「色々訊きたいことがあるだろうから説明してあげようと思って。二人ともアルカナみたいだから他の人とは別に私が直々にね」
「さっきから何なんですかアルカナって!?」
「僕も気になってたんです。それにこの場所のことや、あの霧やさっきの怪物のこととか、それにあなたたちのことも全然わからないですし、この電気も何で点いたのか……」
自分でも驚くほど、まるで雪崩のように訊きたいことが溢れてきた。
それを途中で彼女が制止する。手を僕の顔の前まで持ってきて、「ストップ!」と少し大きめの声で僕の疑問の雪崩を断ち切った。
彼女は少し思案顔になり、「ん~」と小さく唸った後、僕の疑問に答えだした。早口で。
「ここがいったい何処なのか、どういった場所なのかは私たちにもわからない。
地球とは別の惑星かもしれないし、並行世界かもしれない。まぁとにかくこの世界、私たちは《ミストピア》って呼んでいるんだけどさ、このミストピアに飛ばされてきた人々、確か地球では神隠しって呼ばれてるんだっけ? その神隠しにあった人々を助け出しに来たってわけ。私たち《
で、AGE、正確には《Arcana Girl Escapers(アルカナガールエスケーパーズ)》ていうんだけど、それがさっきの怪物共と戦う戦闘部隊ってわけ。まぁ部隊って言っても今この場には私一人しかいないんだけどさ。本部やいくつか点在している支部にも何人かいるから安心して。
そして、そこにいる兵頭さんとか今あちこちで各々の仕事をしているのがAGE‐ASSIST。文字通り私たちAGEの手伝いをしてくれる部隊で、主に戦闘時の援護や物資の輸送、人命救助や野営準備とか見張りとか色々やってくれている。
で、私たち全員を取りまとめてくれてるのが、本部の《
そんでもって霧のことなんだけど、私たちがミストピアって呼んでるだけあって、この世界では各地で頻繁にあの忌々しい霧が発生してはそこに潜んでいる怪物が人々を襲っているんだ。コブだらけの奴は《コブリン》、動物みたいなのは《マグニ》って呼んでる。
コブリンの方は鍛えてる人間や武器を持った人間でも多少応戦できるけど、マグニの方は《アルカナ》って呼んでいる特殊な人間。要は私やあんたたちみたいな人間じゃないと対処が難しいから厄介なんだよ。
アルカナってのは何かって言うと、さっきのあんたたちみたいに人間離れした身体能力や人間に本来備わっていないような特殊な能力を行使できる存在で、眼が変色したり発光したりと変化があるよ。さっきあんたたちも片目が黄色になっていたし、なにより二人掛かりとはいえマグニを一体倒すところちゃんと確認したし、疑いようはないよ。
今までは女性しかいなかったんだけど君男の子だよね? 童顔気味だけど男装女子ってわけじゃないよね? 多分本部に戻ったら色々質問されたり検査されたりすると思うから、そのつもりでいてね。
でもその前に、ここの物資を本部に持っていきたいからちょっと手伝ってくれるとうれしいかな。色々一遍に起きて何が何だかってなってるところ悪いんだけどさ、ここにいつまでもいるより本部にいた方が安全だし、食材とか日用品とかこっちも欲しくてさ、特に肉や魚は中々食べられないからみんな食べたいはずだし、鮮度的にも早く食べてしまわないとね。飲み物も確保したいし。
あっ! そうそう、君たち着替え持っていないよね? 自分に合う服や下着は何着か選んでおいてね、こっちも替えは少ないし、作るのも楽じゃないからさ。後は本とかゲームとか色々暇を潰せる物もね。アルカナと言っても気晴らしや自由な時間は必要だし、あんまり元の世界とギャップのある行動ばかりしていたら落ち着かないだろうから、遠慮せずに好きなの確保しておいて。あまり大きい物とかは運ぶのが大変だから考え物だけど、そこは常識の範囲内でね。後……」
「ストップ! ストップ!」
えーっと、ミストピアでAGEでそれで……?
「ほら、一度に説明してもわからないでしょ? 焦らなくても全部説明するしちゃんと把握してもらうから、順番にね?」
意地悪そうにクスッと笑いながら彼女はそう言った。
「取り敢えず積み込みを手伝いながら話すからさ、飲料コーナーの場所教えてよ、場所わかるでしょ? 案内してくれない?」
「わ、わかりました」
「私はもう少しここに残るわ、この子が落ち着くまでね」
「そう? まあいいけど……よっ!」
一瞬、彼女の視線が上空で何かを捉えたように見えた。すると右目は赤色に変わった。
そしてジャンプ。人間の跳躍力を遥かに越えた大跳躍で天井付近まで一気に上昇し、何事もなかったかのように元の場所へと着地した。
「はい、落ち着いたらこのお姉ちゃん少し貸してね」
手には赤い風船、先程の騒動で少女が手放してしまった風船がそこにはあった。さっきの大ジャンプはこのためか。
「私の名前は
「……
「平賀和花……平和を
「……お揃い」
ずっと怯えていた少女、和花ちゃんに笑顔が戻った。
「じゃ、案内よろしくね!」
そんなこんなで、彼女と二人になってしまった。食品売り場へ向かう。
向かう途中で倒れている人、つまりはさっき怪人に殺された人たちの死骸が至る所に転がっていた。
あの時は自分たちの身を守るので精いっぱいだったし、店内も暗くて気にする余裕なんてなかったが、お年寄りから小さな子どもまで、老若男女大勢の人が犠牲になったのだ。死体は次々と武装した人たちによって運ばれていった。
「……」
「大丈夫?」
「ちょっと……なんていうか、動転して」
「ゆっくりでいいからさ、あんまり無理しちゃだめだよ。それにしてもあの子やるね~、君と一緒に戦っていた子」
「我妻さんですか? 確かに和花ちゃんを咄嗟に庇ったり怪人に果敢に立ち向かったり凄いですけど」
「ああ、そっちも凄いけどそっちじゃなくて、彼女が和花ちゃんと一緒にこっち来てたらこの光景を和花ちゃんが目撃しただろうからね。自分も混乱してるだろうにしっかりしてるなって」
確かにそうだ! まだ小さい、しかもついさっき目の前で両親が亡くなった和花ちゃんがこんなのを目の当りにしたらどうなっていたか。我妻さんそこまで考えて……?
「あがつまか……何て字書くかわかる?」
「えっと、
「下の名前は?」
「愛美です。愛と美」
「ほほう? 随分と愛らしい苗字と名前だね。君は?」
「相沢憐人です。可憐とか哀憐の憐に人と書いて憐人」
「ちなみに私はさっき紹介したけど、どんな字を書くかわかる?」
「しょうがせりおさんでしたよね? 下の名前はわかりませんが、しょうがせは勝って
「すごい! よくわかったね! 私の苗字珍しいからよくどんな字か訊かれるのに」
「好きなテレビシリーズの助監督さんに同じ苗字の方がいて、確か四国の方に多い苗字だった気が……」
話していて気づいた、すっかりあのやるせない気持ちや頭のモヤモヤ、緊張が無くなっていることに。
「どうやら落ち着いたみたいだね。じゃ、再び案内よろしくね!」
……我妻さんも他人への気遣いすごいけどこの人も凄い。二人ともよく他人を見てるんだ。そしてどう行動すればいいのかを瞬時に理解できる。こんな状況下であっても。
敵わないな……僕にはとてもそこまでできない。
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