第9話
ツチヤがやりたいと言って次のアトラクションに腰掛ける。
大きな円柱にそって椅子が設置してあり上下に動くアトラクションだ。
席に座ると係員が念入りに安全確認を始め全員のチェックが済むとピーっと起動するときに響く聞きなれた音が聞こえる。
キルキルとチェーンを巻き付けたような音を響かせながらゆっくりと椅子が上昇を始めた。
「ツッチー、このアトラクションを一言で表すなら全自動高い高いマシーンだよね。」
「そだね、赤子の時を振り返りながら楽しむといいさ。」
ミナトの視線の先には、展望台で見下ろしたような素晴らしい景色が広がっている。
いくら思い返してもきっと赤ん坊の頃にこんな高い高いをされた記憶はない。
ボケにしては、結構無茶なフリじゃないかな?
そう言おうとしたら一気に下に下りていく。
頭の天辺に圧迫されたような不思議な感覚が。。
なんて考えていたら、ピタっとそんな感覚もなくなりふぅ…と油断して力を抜くと今度は勢いよく上に上がっていき、そして一気に下がるのを繰り返した。
これは幼少の記憶が蘇るって言うより一昔前に流行した、振ってから食べる飲食物を思い出した。
アトラクションが終わるとイキイキとした表情のツチヤがミナトに近いてくる。
「いやー偶に乗ると気持ちがいいね、しかも天気も良くていい景色だった。
ミーちゃんはどうだった、幼少の記憶でも蘇った?」
「いんや…今、ポテトとチキンに懺悔してる。」
思い切り振ってごめんね。
ミナトは良く分からない懺悔をしつつ、次のアトラクションに進む。
今度は王道のジェットコースター。
そう、グルグル回って進むあれだ。
落とすと洒落にならないので、アクセサリーや眼鏡を外すように指示を出される。
「ミーちゃん、眼鏡外して見えるの?」
「見えるも何も高速で回転するなら眼鏡があっても変わらないから問題ないでしょ。」
ミナト達がジェットコースターの発進を待っている間に、前の方には先程の学生達が乗ってきた。
高校生くらいの男の子達が六名ほどで、ビビんなよとかワイワイ楽しそうに席に乗り込んでいく。
発進の少し前の係員の説明をしっかりときき、冗談には合いの手をいれるなどいい子達だなーなどとミナトは眺めている。
出発の直前に係員の掛け声があったのだが…高校生グループは大きな声でその掛け声を復唱していた。
「これが、若さか。
もう私には無理だね。」
ミナトがそう悟ったような言葉を出すとジェットコースターは発進する。
ぶっちゃけてしまうと、ジェットコースターなんてミナトは人生で数回しか乗っていない。
結構Gが凄いな。
風の勢いが強くて目を開けるのもやっとだ。
ぅおおお、開けぇぇ我が眼ぉ!
などと思いながら目を開くと、メガネがないミナトにとって外の世界はフルモザイクのようなもの。
それがちょうどグルグルと回っているのだ。
これは、絶対酔うな。
そう悟ったミナトは、静かに瞼を閉じてアトラクションが終わるのを待った。
「いやぁ中々の迫力だったね。
ミーちゃんは、どうだった?」
「酔うかもしれないと悟ってからずっと目を閉じてた。
だって、私の視界フルモザイクなんだもん。」
艶々としているツチヤに対して、何処か悲しげな表情を浮かべていたミナト。
ヨシヨシと頭を撫でられたミナトは、次のアトラクションに向かって歩いて行った。
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