第13話 ライブと判定方法

 六番手トリはグラビティ側から、ペイルカラー。

 今、県内で一番人気があり勢いに乗っているバンドだろう。全国ツアーも行っている。まさに大トリにふさわしい。

 メタル、ジャズ、ハードコアなど色々な要素を混ぜた楽曲。モッシュやダンス、ダイブが炸裂する。ハーフウェイでライブをやったことはあまりないかもしれない。

 叙情的で涙を誘うような美しいメロディーが奏でられたと思ったら一気にブレイクダウン。面白い。ずっとこの時間が続けばいいのに。


「ライブに遊びに来てね」


 私はそういう表現が好きだ。

 見に来てね、がスタンダードなのだろうが「遊びに行く」はリアルだ。音楽で遊ぶ。曲を聴いて踊ったりジャンプしたり黙って聴いたり、自分がしたいように愉しむ。それがライブの愉しみ方だと思う。ペイルカラーのライブはまさに「音楽で遊ぶ」「ライブで遊ぶ」面白いことの連続だった。


 観客が笑顔で踊ったり真顔でダンスしたり自由に「遊んでいる」


「今日はなんか勝負の企画みたいだけれど、メインはライブだと思うんで上がってくぞ!」


 ボーカルがMCであおる。歓声が沸き起こる。

 そうだ、この瞬間、勝負だということをみんな忘れていただろう。勝負のためのライブじゃない。勝負をするのにライブが選ばれてしまっただけだ。ライブハウスの勝負だから。事情はなんであれ。

 

 ペイルカラーのライブは最後まで盛り上がった。みんなすっきりした顔をしている。本日出演の全バンドの演奏が終わった。


 会場内の照明がつく。明るくなる。何かが変わる合図。


「では十五分の休憩をはさみ、勝敗を決める儀式を行います。みなさんいったん、お疲れさまでした。十五分後に再開します」


 ハーフウェイの店長からそう告げられた。情報だけを覚えて外に出る。

 たくさんの人が外に出ていた。もうすっかり暗くなっている。

 

 夜風はようやく冷たくなっていたが、それを上回る熱気が漂っていた。全バンドの演奏が終わり、みんな解放されていた。ライブ前の「愉しみ」は「愉しかった」になっていた。


 あの「箱」の中にこんなにも人がいたのか、どうやってまとまっていたのかと不思議になる光景。

 とてもごちゃごちゃしている。転換中に外に出たときと全然違う。



「そろそろ集計タイムです」


 スタッフが叫んだ。

 集計タイム? 投票でもするのだろうか? とりあえず会場内に戻った。


 ステージの上には各バンドから一人ずつメンバーがいた。


「ではこれから集計タイムに移りたいと思います」


 ステージ上で司会を務めているのはハーフウェイのスタッフだった。ハーフウェイの店長はフロアで伊吹さんと話をしていた。


「集計方法を発表します。まず一番手と二番手を務めたバンドをひとブロックとします。私が、一番手が良かったと思う方! と言ったら、一番手のほうが良いと思った方は歓声や拍手をお願いします。二番手が良かったと思う方! と言ったら、二番手のほうが良いと思った方は拍手や歓声をお願いします。

判定は、歓声や拍手の音が大きかったほうを勝ちとします。以降これをブロックごとに行います。二ブロック勝ちを取った側が優勝です」


 フロアが一気にざわつく。ステージ上のバンドマンも納得がいかない顔をしているのが分かる。

 なんだ、その勝敗の決めかた。しかも今になって発表って。ライブ中に思いっきり叫んで喉が痛い。これからさらに三回叫ぶことになるのか。


「測定方法は? なんか機械使うの?」


 フロアから質問が上がった。確かにそうだ。デシベル測定のアプリとかあるのかな。


「えーと、測定というか判定は、われわれスタッフが判断します」


 フロアがさらにざわつく。機械じゃないのか。

 スタッフの耳? 感覚? それって……ひいきのバンドやライブハウスを選んでしまうのではないか。フルムーンの店長はハーフウェイで働いていたのだから、公正じゃないのでは。


「自分が好きなバンドをひいき判定しないのか?」


 フロアから再び質問が上がった。やっぱりそう思うよね。


「そういった感情は含みません。みなさんも聞いてらっしゃるのであくまで公平公正に、スタッフは二人以上で審議します」


 フロアのざわつきは落ち着かないけれどもこれ以上つっこむ質問もないのか諦めたのか、その他に意見は出なかった。


「では他にご質問がなければ集計を行いたいと思います」


 とりあえず大声で叫んで拍手をしておけばいいのか。

 本来どちらのバンドが良かったかで決めなくちゃならないんだけれどもグラビティに勝ってほしいからグラビティ側で叫ぶことにした。

 お気に入りのサイコロジカルがフルムーン側なのが心残りだけれども……。ごめん、今日はグラビティを応援する。

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