第14話 判定開始

ワールドルージュ――アフタヌーン

マグネット――レター

サイコロジカル――ペイルカラー


 いつの間に、誰が書いたのか。

 出演順に、ブロック表が書かれた紙が掲げられた。


「では第一ブロック、ワールドルージュが良かったと思う方は声援をお願いいたします」


 刹那、本当に一瞬、沈黙があった。みんな、すぐには受け入れられないのだろう。

 フルムーン側なので私は黙っていた。ごめん、ワールドルージュ。ライブは良かったのに。

 沈黙は刹那で、すぐに歓声があがった。「うおー」とか「いいぞー」とか。一度叫ぶととまらない連鎖。一発目なので比較ができない。


「ありがとうございます。ではアフタヌーンが良かったと思う方は声援をお願いいたします」


 わーわーと言った若い声がたくさん聞こえた。アフタヌーンの友達だと思われる。

 私は叫んだ。とりあえず「おー!」と叫びながら手を叩いた、思いっきり。痛かった。こんなに手が痛いのに、明らかな差だった。アフタヌーンがちょっとかわいそうだった。


「では審議します」


 そんなことしなくても明らかにワールドルージュが勝っている。

 けれどもさすがにそれを出してはアフタヌーンの立場がない。一応気を遣っているのだろうか


「第一ブロックはワールドルージュ、フルムーン側の勝利です」


 フロアからは歓声と落胆の声が同時にあがる。

 もしかしてグラビティに勝ってほしい人でも、正直にバンドで判定した人がいるのかもしれない。どちらが正解かは分からない。

 今日はグラビティが移転するかどうかの勝負の企画だ。私は全面的にグラビティが勝つ選択をする。それよりも……。


「やばいね、もう一つも落とせない」


 若い男の子が話していた。グラビティでよく見る顔だった。そう、それ。万が一、次のブロックもフルムーン側が勝ったらそこで終了なのだ。

 どうしよう、ものすごく緊張してきた。頭のなかにグラビティの階段が見えた。

 まずガラスの扉を開けて建物に入る。目の前にはすぐに階段がある。かろうじて手すりがある。手すりにはステッカーが貼ってあり壁にはポスターやフライヤーが貼ってある。貼りっぱなしかと思いきや、きちんと更新されている。今年のツアーで来るバンド、そろそろ発売の新譜のポスター。ちゃんと見ると、変わっている。


「ワールドルージュのみなさん、おめでとうございます。それでは代表してボーカルの方、ご感想をお願いいたします」


 司会者が、ステージにいるワールドルージュのボーカルにマイクを向けた。最悪だ。それ、いる? ただ単にバンドのトーナメントじゃないんだから。ライブハウスの移転問題がかかっているのだ。そんなどこかの地域のカラオケ大会みたいなノリで進行するなんて。

 けれども今、この進行を仕切っているのは司会者のあいつだ。私にはそんな力はない。どんなに安くさい展開をしても、今この場を仕切る権利があるのはあの司会者なのだ。


「あ……ありがとうございます」


 ワールドルージュのボーカルはそれだけ言った。

 そりゃそうだ。それなのにあの司会者は「あとなにかコメントは」などと言っている。そんなものは誰も求めていない。フロアがしらけている。わざとらしいため息も聞こえる。

 空気に気づいたのか気づいていないのか、ようやく次に進む。

 スマホで撮影している人がいた。めったにない企画だ、記念に撮影しているのだろうか。


 そういえばライブで写真を撮る人が増えたな。昔は撮っちゃだめな空気満載だったのに。

 バンドは許可をもらったら撮影してもいいのだろうが、観客はそうはいかない。一人一人に許可をもらうなんて現実的ではない。ライブ動画をネットにあげる人は観客の顔が映っていることを気にしているのだろうか。

 いけない、落ち着け。関係ないことを考えるな。

 落ち着こうと思ったら頭のなかにフルムーンの扉が見えた。平地、地上一階のライブハウス。ここも地上一階だ。


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