第4話 ハイライト
一人になった私は再び会場内を見渡す。
ステージの天井にミラーボールがあった。満月のようだった。そうか、店名にちなんだのだろうか。
ライブのスタート時間が近づくにつれて、お客が増えてくる。知っている顔が多くなる。友達も来た。
「あの人がフルムーンの店長だって」
フルムーンに何度か来ている友達が言う。
今カウンターにいる女の人がここの店長だと。おでこをだしてお団子を結んでいる。身長が高くてやせている、モデルみたいな体型をしている。
「ハーフウェイでブッキング担当してたんだって」
友達が続けて言う。
ハーフウェイは隣町にあるライブハウスで、有名なバンドがよくツアーで来ている。テレビに出ているレベルのバンドや歌手がよく来るのだ。
私はハーフウェイには、地元バンドの企画があるとよく行っている。けれども有名な歌手が来ているライブには行ったことはない。
けれどもたまたま近くを通りかかったことはある。ハーフウェイの入り口に、見たこともない行列ができていた。きっと場内はぎゅうぎゅうなんだろうなと想像した。
そうこうしているうちに、サイコロジカルのライブが始まった。
今日のライブも最高だった。サイコロジカルは最近好きになったバンドだけれども、見る度に進化している。気を抜いていたらこっちが置いていかれそう、そんな適度な緊張感があるバンドだった。
友達はこのあと飲み会に行くと言っている。夜十時、いい時間だろう。
周りからも「めし食ってこーぜ」などと聞こえる。隣の高級焼肉店に行くチームはいるのだろうか。
私は他に親しい人もいないので帰ることにした。
フルムーンから駐車場までは十分ほど歩く。本来もっと近くにホテルの駐車場があるのだが、今日はそのホテルで結婚式があるのか満車だった。
夜はまだ寒いな。人通りのない道はさらに肌寒く感じる。
この通りはお店が並んでいるのだがさすがに閉店している時間だった。車はときどき通るけれども、やっぱり怖い。早く駐車場に着きたい。
前から誰か来る。髪が長いので女の人かと思ったが様子が変だった。なんだかふらふらしている。酔っ払っているのだろうか。
「竹の子モラッテメヤグメヤグ」
なんだろう、歌っている? やっぱり酔っ払っているのかな。
距離が近づく。服の色が鮮やかだった。蛍光のピンクが見える、やっぱり女の人だろうかと安心しかけたときだった。
「さんじぇらっとマヨネーズナンボメダバテランドヨ」
頭はドレッド、服はどこかの民族服のようだった。足元はサンダル。手に持ったビニール袋からはなにかが突き出ていた。
怪しい。そして怖い。歌じゃない、呪文だ。どこかの国の呪文だ。
あの千鳥足は酔っ払っているのかなにかのまじないなのか。そうだ、催眠術かもしれない。私は本能的に逃げた。道路を渡り、そのままダッシュで駐車場に駆け込んだ。
車に駆け込みすぐにドアをロックした。
追ってきてないよね? とりあえずいつでも逃げられるようにエンジンをかける。スマホも一一〇番を表示しておこう。
とりあえず落ち着こう。事故ったら元も子もない。
あれはなんだったのだろう。暗くてよく見えなかったが、多分女ではなかった。
もののけ。それが一番しっくり来る。
ライブハウスフルムーンの帰り道、もののけに遭いました。それが今日のハイライト。
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