第3話 フルムーン
イオアイ市に新しいライブハウスができたのは二月だった。
どうしてそんな時期に? と思った。二月三月に学生の卒業ライブがよく開かれるのでそれを狙ったらしい。
そこはグラビティから三十分以上歩くだろう。高級焼肉店の隣にあったバーを改装してライブハウスにしたらしい。名前はライブハウス・フルムーン。満月か、かっこいい。
私が最近好きになったバンドがフルムーンでライブをやるので見に行った。
まず重厚感のある扉が高級感を
グラビティは地上二階にあるけれども、フルムーンは地上一階だった。ライブハウスにしては珍しい。地上二階も珍しいみたいだけれども。都会に行くとほとんどのライブハウスが地下にあるらしい。実際そうだった。
フルムーンの扉を開けるとすぐに受付がある。初めて来たけれども特に迷うことはなかった。ライブハウスは基本、どこも似たようなものだと思っている。
受付をすませ、もう一枚の扉を開けて中に入る。防音扉だろう。
目の前にカウンターがある。元バーだけあって本領発揮といった感じがする。
「こんにちは」
カウンター店員のいかしたお兄さんが私を見て声をかける。
「なんにしますか?」
「ジンジャエール」
車で来ているのでソフトドリンク一択だった。
ガラスのコップに氷とジンジャエールが注がれる。すごい、ガラスなんだ。他のライブハウスはプラスチックのコップが当たり前だ。さすが、元バー。
右を見るとステージがある。何人かお客がいる。先日カフェで会ったバンドマンもいる。みんな愉しそうに談笑している。
どこのライブハウスに行ってもこの光景がある。不思議だ、ここは新しいライブハウスだけれども誰もそんなことは気にせず「いつも通り」過ごしている。
つまり、私たちが「いつも通り」過ごせる環境や空気作りができているということだ。
けれども私はまだ「いつも通り」ではなかった。初めて来たのでそれはそうなんだろうけれども、それだけじゃない。
会場内は人工的な灯り。私はひと通りきょろきょろする。
カウンターの対面には通路を挟みテーブルと椅子が幾つかある。そこから左を向くとフロアとステージ。キャパは二百人だと聞いている。
ライブハウスのキャパを聞くといつも「そんなに入るのかな」と思ってしまう。多分ぎゅうぎゅうに詰めると二百人は入るのだろう。
「
今日の私のお目当てのバンド、サイコロジカルのメンバーに声をかけられる。
「お疲れさま。私フルムーンに初めて来たよ、バーっぽくてかっこいいね」
「僕らも今日初めて来ました、かっこいいですよね」
二言三言交わして、サイコロジカルのメンバーは演奏の準備をしに行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます