27.軽食はサンドウィッチ

 応接間を後にした私とカリネは、食事をとりに食堂に向かっていた。


「チムちゃんが空腹なのと同じくらい、私お腹空いていたんだよ?」

「だからなんだ?」

「私が泣かせたんじゃないからね?」

「……言われなくても分かっている」


 私は基本、『自分は悪くない』の精神で生きているから、その上での発言だったけどカリネは違うみたい。

 まったく、赤ちゃんは泣くのも仕事なんだから、そんなに悔やむことないのに。


「なんでそんなに落ち込んでいるの?」

「ネーネって、どっちに言ったと思う?」

「……」


 この子とは仲良くやっていけそうだよ、本当に。

 私の心配は杞憂だったみたいだ。

 しばらく廊下を進み、先導していたロニーが食堂の扉を開いた。

 やっとご飯、ようやくご飯だよ。

 まだ、起きてからそんなに時間が経ってないのにすごく長く感じるのは、この後に控える収穫祭のせいだな。

 間違いない。

 私はカリネを置いて、素早く自分の定位置についた。

 一方でカリネは、例の生首の標本が盾の形をした木の板に張り付いている壁飾りを見ている。


「では、軽食をお持ちしますね」

「えっ、軽食?」

「はい、収穫祭でお食事は出されますので」

「いや、そういうことじゃ……」

「では少々お待ちくださいね」


 ロニーはそのまま食堂から出て行ってしまった。

 軽食かぁ。

 私はガッツリ食べたいんだけどな。

 お肉とかお肉とかお肉とか。

 ロニーの口振りから察するに、今日の夜ご飯は収穫祭で出る。ウチでは準備されない。

 要するに、祭りに行かなきゃご飯にありつけない、ということだろうね。

 はぁ、ため息が出るよ。


「なぁ、ルーナ」

「ん?」


 中途半端に長い鼻、大きく開かれた口の上下から2本ずつ伸びる鋭い牙と、鼻よりも長い蛇のような舌。つぶらな瞳だけどその数は四つ。体毛は白で赤い斑点がある。

 そんな気味の悪い生首の壁飾りを見ながら、カリネは口を開く。


「これは、なんだ?」

「さぁ。分かんないけど、やっぱ変だよねー」

「……」


 返事がない。

 正直食事するところには相応しくないと思うし、子供には強烈な見た目だ。

 目を覚まして半年くらい経ったけど、いまだに慣れない。

 それが数秒でなれるはずもないよな。

 妙に生き生きとした形で標本にされているし、今にも動き出しそうだもん。

 怖い、とか感じているのかな?


「ねぇカリネ? 怖いなら別に」

「……素敵だな」

「は?」

「ん? いや、なんでもないぞ?」


 振り返るカリネの頬は若干赤く染まっていた。

 私は聞き逃して”は?”と言ったのではないんだよカリネ。

 小さな声だったけど、しっかりと聞こえたから”は?”って言ったんだよ。

 だからね、なんでもないことないと思うんだよ。


「わ、私の顔に何かついているのか?」


 んー?

 私が半開きの目でカリネを凝視していると、私から顔を背けた。

 カリネがここまでテンパる姿は初めて見た。と言っても、今日会ったばかりだが。


「まぁ、誰にでも知られたくないことはあるだろうから、別に聞かないけどさ」

「な、なんのことだか分からんが、助かるよ」

「うん」


 あんなのが素敵と言ったカリネの目はおかしいんじゃないかな、と思いながら私は私のベッドでゴロゴロしていたチムちゃんの姿を想像して、顔を綻ばせた。

 それから数分後にロニーがやってきた。

 出されたのは、蒸し鶏とレタスと私考案のタルタルもどきを挟んだサンドウィッチだ。

 ロニーも私の性格がわかってきたのか、食事にしちゃ少ないが、軽食にしては多い、そんなメニューが出された。

 これなら、私が文句を言わないだろうと踏んでのことだろう。

 見透かされている感じがあって、気に食わないけどありがたくサンドウィッチはいただきます。

 私は空腹を我慢して、先にカリネが食いつくのを待つ。

 そして、

「美味いな」

「でしょ!」

 サンドウィッチに食いついたカリネに、私は身を乗り出して肯定した。

 そんな私を横目で見るカリネ。


「なんでルーナが我が物顔しているんだ?」

「ふっふーん! 実はこれに使われているソースは、私が作ったのだよ!」


 少しはウチの料理人が手直ししたけどね。ほんの少し。小指の爪の先くらい。

 私は自慢げにサンドウィッチを開き、タルタルもどきを指差す。


「ふーん」


 しかし、カリネは私の方には目もくれずサンドウィッチを黙々と食べ進めていた。

 作った私としては嬉しいんだけど、もう少しリアクションが欲しいところだよ。

 私たちは格二個ずつのサンドウィッチををぺろりと平らげ、おかわりを要求したけどロニーに断られた。

 そして、タイミングを見計ったかのように食堂に私とカリネの親が現れた。

 地獄フェスティバルへの招待か……。

 私は外出する覚悟を決めるのであった。

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