25.ハンブルブ伯爵家来訪

 ご飯に関しては後でロニーを問いただそう。そうしよう。

 いっつも私ばっかり説教されてたんだから、一回くらいそういうことがあってもいいと思うんだよ。

 そして、あわよくば食事を理由に祭りをサボろう。

 我ながら名案だな。

 とりあえず私はロニーに促されるがまま、扉を叩いた。

 ”コンコンッ”

「ルーナか?」

「うん」

「入っていいぞ」


 流れで察しているよ、この中に私の従妹がいるんでしょ?

 ダメって言われても入るつもりだったんだから。

 私は重い扉をロニーに手伝ってもらいながら開いた。


「これが成長した私の娘だ」


 早い早い早い!

 私がまだ部屋の敷居を跨ぐ前に、お父さんは知らない人たちに私を紹介する。

 あれが、ハンブルブ様? おじさん? の家族か。

 ってか成長って……。


「あ、初めまして。ルーナです」


 いけない、いけない。

 お父さんのフライング自己紹介のせいでポカンとしちゃった。


「お嬢様……」


 私が見たことのない人たちに軽くお辞儀すると、ロニーが小声で囁いた。


「もう少し、伯爵令嬢としての振る舞いを」

「……?」


 今のじゃダメ? 他家と言っても、親族じゃないの?

 はぁ、仕方ない。

 前世も今世も含めて演劇はしたことないけど、校外学習で見に行ったことがある。

 そんな体験を活かして、イメージできる限り一番上品なお辞儀を見せてあげよう!

 私はワンピースのスカートの裾を掴み、ふわりとお辞儀を見せる。

 足は縦に少し間隔を開けて揃え、膝を少し曲げてかかとを気持ち上げる。


「申し訳ございません。私は――」

「あぁ、いいんだよ別に。改めて畏まる必要はないぞ」

「……」


 ハンブルブ伯爵は私に優しい微笑みを向けていた。

 おい、ロニーさんや。話が違うんじゃないか? 

 ハンブルブ伯爵のその優しさが、今はすごく恥し辛い。


「ルーナもそんなところで固まっていないで、こっちにおいで」

「……はい」


 私の渾身のお辞儀は無かったことにされました。

 応接間にいるのは私と両親、ハンブルブ伯爵とその奥さんと私と同い年くらいの女の子と、奥さんに抱えられている赤ちゃんだ。

 伯爵は赤っぽい濃い茶髪で、かなりがたいが良いお父さんと同年代くらいの人だった。

 奥さんはお父さんと同じ金髪で、お母さんとはまた違ったタイプの美人さん。

 そして同年代の女の子は、こんな外見の私が言うのもなんだけどお人形さんみたいに可愛い。肩下まで伸びたお父さん譲りの赤っぽいセミロングの茶髪。

 赤ちゃんも同じ髪色で、クリクリうるうるな瞳を私に向けている。

 上の同年代の女の子はハンブルブ伯爵の隣にちゃんとした姿勢で座っているところを見るからに、私よりも何倍もしっかりしているだろう。

 というか、イヤイヤじゃなくこの場に出席している赤ちゃんにも私は負けている自信がある。


「ではまず、自己紹介といこうか」


 私が腰を下ろすと、ハンブルブ伯爵本人が口を開いた。


「私は貴女のお父様、バン・フォン・ゾルブ伯爵の義弟。ホルネ・ルード・ハンブルブだ。覚えていないかもだが、家族ぐるみでそれなりの付き合いがあってだな、ルーナ嬢が生まれる時にも立ち会ったのだよ?」

「ど、どうもです」

「そして私がその妻で、貴女のお父さんの妹のサリネ・フォン・ハンブルブね」

「ど、どもです」

「私はハンブルブ伯爵家が長女のカリネだ。そして、この子が妹のチム」

「は、はい。私はルーナです」


 私はどうすればいいの? 何をしたら正解なの?

 ここに連れてきたロニーはいつの間にかいなくなっているし。

 あと、従妹ってもしかしなくても赤ちゃんのチムちゃん?

 まさかのノット コミュニケーション ベイビーでしたか。

 ツンデレだのなんだのといった属性云々、以前の話だよ。

 可愛いけどね、可愛いんだけどね。


「ルーナ、呼んでおいて悪いが、子供どうしで遊んできなさい」

「う、うん?」


 一応返事はする、けど……。

 私呼ばれていたの? ご飯は? 私の朝……じゃなくて、昼ご飯は?


「行こうか」


 カリネちゃんが、妹のチムちゃんを抱えながら私に手を差し出してきた。

 それを、とりあえず握っておく。


「じゃあ、お母様行ってきます」

「はーい」


 あ、あの……。

 もしかして私は、知らない間にハンブルブ伯爵家の屋敷に連れてこられた的な感じ?

 家を案内したり、遊びに誘ったりって、普通は招待した側の人間がやることじゃない?

 やれる自信はないけどさ。

 同年代なのに、私よりも遥かにしっかりしたカリネちゃんに手を引かれながら、私はその部屋を後にした。

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