24.寝てません、瞑想です!

「なんで朝からお風呂なの!?」


 服を脱がされ、スッポンポンになった私は声が反響する浴場で叫ぶ。

 ロニーは頬を少し染めながら、私と目線の高さを揃えるために膝をついた。

 というか、赤面するくらい恥ずかしいなら、なんでここに連れてきたんだろう。

 それにどっちかと言うと、恥ずかしいのは私じゃない?


「お嬢様、それは本気で言ってますか?」

「本気も何も」

「じゃあ聞きます。お嬢様は昨日部屋を出ましたか?」

「……い、いいえ」

「昨日は部屋から一歩も出ずに、ベッドの上にいましたよね?」

「……はい」

「お風呂には入りましたか?」

「……いいえ」


 私が悪いんだな、多分。

 素直にロニーの言うことを聞いておこう。

 私はその後は逆らわず、ロニーにされるがまま洗われた。

 人に頭を洗ってもらうのって気持ちがいいよね。

 面倒だけど、寝起きでまだ眠いけど、これは悪くないと思ってしまうよ。


「お嬢様、手が止まってますよ」

「あぁ、はいはい」


 流石に体は自分で洗ってる。背中は届かないからやってもらっているけど。

 要するに同時進行、と言うやつだ。

 効率がいいけど、私は頭を洗ってもらっている時くらいはポワ~っとしていたいよ。

 なんかロニーはいつもと違って急ぎ気味だ。もしかして、そんなに時間が無いのかな。

 最後に頭からお湯を被り、泡を流す。

 ふぅー。さっぱりしたよ!


「ではお嬢様、私は着替えの準備をしてきますので、湯船に浸かって体を温めておいてください」

「はいよ~」


 ウチのお風呂は和風ではなく、洋風の大きなお風呂だ。

 10人くらいなら余裕で入れそうな無駄に大きなサイズで、ドラゴンの口からお湯が流れ出てくるというよく分からない彫刻もある。

 雰囲気で言うなら私はお風呂は和風の温泉って感じが好きだけど、そもそもお風呂に入るのが面倒だからあまり気にしたことはなかったな。

 体についた泡を流し終わった私は、浴場にペチペチと足音を響かせながら湯船に入った。


「ふぁ~~」


 朝は嫌い。

 お風呂も好きじゃない。

 けど、一度入ってしまうとたまらないものがあるよね。

 ぎもぢぃ~。


      ※


「お嬢様? ……あ、あの」

「……」

「寝てます?」

「んぐっ!? い、いや寝てないよ!」


 ロニーの声に私は体をビクつかせた。

 していたら、いつの間にロニーが戻ってきていたようだ。


「少しだけ、ほんのすこーしだけのぼせちゃって、浴場の床で横になっていただけ。だから、決して寝ていたわけじゃないよ。私は寝るなら布団の中でと決めているんだから!」


 だから怒らないで!


「は、はあ? よく分かりませんけど、とりあえず一度シャワーで全身を流しましょうね」

「う、うん。分かった」


 怒ってなさそう。もう私にはロニーの沸点がわかんない。

 寝て良いのか悪いのか。今はいいのに、さっきはダメで……。

 ロニーが私の手を引き頭の先から足の先まで軽く流した後、私は脱衣所に戻った。

 その後も素早く体を拭き、炎と風の生活魔法レベルの術式を組まれた魔道具、端的に言うならドライヤーのような仕組みの魔道具で髪を梳かしながら乾かされた。

 腰くらいまである長い髪の毛を乾かすのは一苦労だ。

 前世じゃ髪はタオルで拭くだけでそのままだったのに、私の生活も変わったもんだよね。

 もっとも、ロニーがいなきゃ変わらなかったけど。

 そして、次に着替え――…のはずなのに私は下着姿のままロニーにバスタオルに包まれ、また抱き抱えられた。

 もう抵抗はしませんよ。大人しく運ばれます。

 ロニーは無抵抗な私を再びお姫様抱っこして、走り出した。


 下ろされた私は、予想通り採寸や試着が行われた部屋に運ばれていた。

 そこには試着の時に一度着た、私の銀髪に合いそうな藍色がメインカラーのノースリーブのワンピースがあった。

 ノースリーブと言っても、肩が隠れる程度の少しの袖はある。

 袖や裾にはフリルが、スカート部分には空色の横ラインがあり、外出用であるならいい感じだと思うよ。

 それと、試着の時にはなかった肩から羽織る用の淡い黄色のカーディガンと、同じ色のバッグがあった。

 正直、あんなちっこいバッグに何を入れるの? とは思うけど、せっかく準備してくれたみたいだから、口を慎みます。

 自分で着替えられるのに、させてもらえず、着替えさせられ。

 私はいらないと言ったのに、髪を編まれ。

 そうして身支度の整った私は、応接間へと引っ張られた。

 そう言えば、私ご飯食べてないんだけど……?

 私、ご飯を食べるために部屋を出ようとしていたんだけど、あれ?

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