23.お祭り当日の朝でも通常運行です

「お嬢様、今日は収穫祭ですよ。早く起きてください」

「……やだ」


 とうとう来てしまったみたい、収穫祭が。

 でも、やっぱ眠い。寝てたい、動きたくない、静かにして欲しい。


「”やだ”じゃありません。またそんなこと言って……。今日はハンブルブ伯爵家がいらっしゃる日ですよ。お嬢様が会いたがっていた従妹の方もお見えになりますよ」

「んー。私が起きたら会うよ」


 昼過ぎから夕方までには起きるから、それまでそのなんとか伯爵様には祭りにでも行っててもらって。


「だから、もう朝なんですよ! 起きる時間です!」

「……わかったよ」


 はぁ、相変わらずロニーは我儘だな。

 ここは私が大人の対応をするときですか、そうですか。

 私は体をむくりと起き上がらせ、まだ眠い目を擦る。


「んー」


 これは、あれだ。ダメなやつだ。

 超眠い。力が抜けるぅ~。


『お嬢様!』

「わかった、わかったって! ジョークだよジョーク」


 ちょっと二度寝しようとしただけなのに、そこまで怒らなくてもいいじゃん。

 別に悪いことをしようとしたわけじゃないし……。

 私は口を尖らせて、私の布団を奪ったロニーを見る。


「なんですか?」

「……なんでもない」


 ふんっ、今に見てなよ。私が成長してトレーニングして、ゴリマッチョになった時には吠え面かかせてやるんだから。

 ま、今日は従妹ちゃんに会える日だし、起きるのもやぶさかではないから起きてあげよう。


「いつごろ、そのなんとか様は来るの?」

「ハンブルブ伯爵様ですか?」

「そそ。ハンブルブ、ハンブルブ」


 私の言い草に何か思うところがあるのか、ロニーが私にジト目を向けてきた。

 ハンブルブ様って言えばいいの? それともおじさん?

 ってか、従妹ってことは私たちの血筋がいるんだよね。

 どう言う関係図なんだろう……。

 いずれ分かることだろうし、私には関係ないか。

 さて、気を取り直して朝ご飯でも食べに行こうかな。

 私はベッドから降りて、扉に手をかける。


「お嬢様、話は聞いてましたか?」

「なにが?」


 後ろに立つロニーから、いきなりそんなことを言われた。

 話は聞いてたよ。起きなさい、でしょ?


「今日はハンブルブ伯爵家御一行がお見えになるんですよ」

「それが?」

「その格好で会われるんですか?」

「え? もう来てんの?」

「いえ、まだですけど。直に到着されます」

「は? まだ早朝だよ!? いくら伯爵様でも、そこまで非常識じゃ」

「もう10時です! 早朝ではありませんよ!」

「……」


 そ、そうなの?

 そんな1,2時間の誤差なんて、私には分かんないもん。

 それに私にとって10時は十分早い時間だよ。


「じゃ」

「じゃって、どこに行くおつもりですか!」


 私が何事もなかったかのように扉を開けた瞬間、ロニーに抱き抱えられた。

 基本的に、私は朝には髪を梳かさない。理由はシンプルで面倒だから。

 基本的に、私は朝には服を着替えない。理由はシンプルで面倒だから。

 というか、朝じゃなくても髪は梳かさないし、一日中パジャマだけどね。

 だから、問題はないんだよ? 分かって、ロニー。


「お嬢様、お願いします。今日は他所の家の方がお見えになるんです。ご理解ください」

「うっ……」


 いつも通りの赤面しながらだが、いつになくロニーは下手に出ていた。

 そんなに恥ずかしいなら、まぁ、うん。

 着替えるよ。従妹ちゃんにも『立派なお姉ちゃん大好き』って言われたいし、それなりに身嗜みは整えるよ。

 私は踵を返し、いつもロニーに髪をいじられる鏡台前の椅子に腰を下ろした。

 はぁ。すぐに来るなら、今適当に挨拶だけ済ませて、その後で身支度でも何でもすればいい気がするんだけどな。


「……じゃあ、よろしくねええええぇぇぇぇぇぇっ!?」

「失礼します!」


 私はロニーに再び抱き抱えられた。お姫様抱っこだ。

 ちゃんと言うことを聞こうとした途端これだ! 恥ずかしいし、なんだこの状況!

 そんなに気に食わなかったのか! だったら寝かせろー!

 睡眠妨害反対、子供に十分な睡眠を!

 私は暴れた、暴れまくった。

 ぎゃあぎゃあ喚き散らしもした。

 それでもロニーが私を下ろすことはなかった。


 ロニーは走る。

 ルーナの部屋の時計の時刻を見た途端、慌ててルーナを抱えて走った。

 おかしい。私がお嬢様を起こしに行った時と時刻が変わっていない。

 少なくとも、お嬢様を起こすのに数分で終わるはずがない。今、何時なんでしょうか。

 魔石の効力切れでしょうけど、何もこんなタイミングで……。

 そのままロニーはルーナを連れて浴場へと向かった。

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