21.見返りが欲しいからちょうだいっ

 衣装の試着をばっくれた私はこっぴどくロニーに叱られました。

 しかも、出演者が私だけの第二回コスプレ大会も実施。その日は、肉体的にも精神的にも疲れた日だった。

 収穫祭まで残り一週間とちょっと。

 もう、私から準備する物が無いとは言え、伯爵家側が衣装やお金、書類や祭り進行その他諸々。

 準備が整いすぎて外堀を埋められている。

 こうなったら、やることは一つしかない。うん、見返りを求めよう!

 どうあがいたって、私の抵抗は骨折り損だ……と思う。

 それなら、私は見返りを求めるよ。

 行きたくないのに行くってことは、働きたくないのに働いている人と一緒だと思うんだよね。

 違わない? うん、違わないか。

 でもさ、結局働いている人は見返りとしてお金をもらっているわけであって、私が見返りを求めてもいいと思うのですよ。

 そこで、私が求めるのはただ一つ、唐突かもしれないけど妹が欲しいということ。

 お兄ちゃんはいるみたいだけど、未だに会ったことはない。

 学園が忙しいのか、はたまた帰ってこれないほど楽しいのか、その辺は分からない。

 ま、私に学園というのは無縁すぎて興味はない。お兄ちゃんには会ってみたいけどね。

 そんなことより、私は妹が欲しい。

 可愛いくて、私にべったりで、癒し成分の甘々な妹ちゃんが欲しい!

 私がこうも無性に妹が欲しくなった原因は、逃げていた時に読んでいた小説に出てきた主人公の妹が可愛すぎたからだ。

 前世でもアニメはそれなりにかじっていたし、そういう属性? についても認知していたつもりだ。

 しかし、それは認知していただけであって、嫌いじゃないけど好きでもなかった。

 だが、こっちの世界に来てから、そのような創作物に触れる機会がかなり減り、その数少ない属性の中で私は『妹』というものに魅了されてしまったのだ。

 はぁ、妹って超可愛いよね。

 リアルと創作は違うってよくネットやSNSで見かけたけど、そんなことないと思うんだよね。

 妹ってだけで尊いじゃん?

 ということで――


「お父さん、お母さん、お話があります!」


 私は家族が揃う食事中に話を持ちかけた。


「どうしたんだ?」

「なーに?」


 言うんだ私。勇気を振り絞って、言うんだ!


「私、本当はすごく嫌だけど、すごくすごく祭りなんかには行きたくないけど、行くことにしました」


 はぁ……。言ってしまった。

 もうすでに後悔している。すごく、すごーく後悔しているよ。

 超行きたくないんだけど。

 最終手段で仮病を使うことも頭に入れておこう。

 卑怯じゃなくて、戦略だ! 決して汚い手でも、卑怯でもない!


「そ、そうか」

「本当? じゃ、約束通り、何か欲しい物があったら買ってあげるね」


 お父さんが困惑と驚きが合わさった顔をしているのに対して、お母さんはかなり嬉しそうだ。

 確かにお母さんはお祭りのような行事ごとが好きそうな性格をしているもんな。

 それと、言ってもらいたい言葉は引き出せた。

 あとは、私が欲しいものを望むだけ。

 私は使っていたフォークをテーブルに置き、椅子からピョンと飛び降りた。


 ふぅ~、よしっ。


「妹が欲しいです!」

「「……」」


 ……。

 …………。

 ………………。

 どうしよう、この空気。

 なんかいたたまれない空気になってしまった。

 後ろに控えているロニーたちメイドも、食事風景を眺め研究に精を出す料理人も、お父さんお母さんも、みんなが静まりかえった。

 なして?

 なんですか、いけない話でしたか?

 それとも間接的にハッスルしてって頼んだのがダメでしたか?

 所詮7歳のお願いじゃんか、別に子供の作り方を聞いているわけんじゃないんだから、こんな空気を作らないでよ。

 ピュアかっ!


「お父さん? お母さん?」

「あ、いや、な……」

「……」


 ん?

 どうも様子がおかしいんだけど、本当にタブーだった?

 もしかして、お母さんが買ってあげようかって言っていたのに対して、私が妹が欲しいなんて言うもんだから、人身売買かなんかに興味をもったとでも思われた?

 奴隷制度があるかは知らないけど……。

 私はそんな明らかに厄介ごとに絡まれそうなことには興味ないよ。

 私が頼んでいるのは、お父さんとお母さんが夜の営みの末に誕生する『妹』が欲しいということだよ?


「ねぇ、勘違いしているかもしれないけどさ。私が欲しいのは私の妹だよ?」

「いや、そういうことじゃなくてだな……。すまない」

「え?」

「ルーナ。ごめんなさね、私はもう赤ちゃんを産めないの」

「……」


 思った以上にタブーな内容だった。

 そうとは知らずに、私は。


「そ、それならペットが欲しいなぁ?。……なんて」


 私は強引に話の話題をねじ曲げた。

 話の種類をまとめれば、新しい家族が欲しいと言っているのと相違はないはず、だよね。

 妹が欲しくて、ペットが欲しいとはならないけど、これでいい。

 ペットのお世話とかできる気がしないし、そのままこの話は終わりにしよう。うん、そうしよう。

 私のせいできまずい空気にしちゃったし、そのままは嫌だから話題変更だ!


「ペット、いいんじゃないかしら?」

「そうだな。一人じゃ寂しいだろうしな、うん。いいぞ」

「う、うん。そう?」


 まぁ、よかったよ。なんとか、空気は変えられたみたいだし。

 妹は欲しかったけど、これに関してはどうしようもない。誰が悪いってわけじゃないしね。

 ペットの件は、そのままなあなあにしようと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る