19.vsお父さんで弱みゲット!

 私は荷物を地面に下ろし、ベッドにダイブした。

 私の部屋のベッドのように馬鹿デカくはない。けど、人一人寝るには十分すぎるというか、これが普通サイズだ。


「はぁ~。おちつく」


 天窓から差し込む日差しが、いい感じにぬくい。

 女子高生だった頃は、テスト期間の4日間ずっと徹夜でも大丈夫だったのに、今の小さな体には負担があるな。

 ちょっと眠いかも。

 でも!

 私は自分に鞭を打ち、荷物は屋根裏に置いたままその場所を後にした。

 目的地はお父さんの書斎だ。

 ロニーから逃げなきゃいけないけど、朝出会した際に話をしたから少しは時間がある。

 その時間を有効活用しなくては。

 私はお父さんが仕事をしているはずの書斎の扉を軽くノックする。


「誰だ?」

「ルーナです」

「おぉ、ルーナか! 入っていいぞ!」


 これは戦争だ、気を引き締めなくては!

 私は両扉の片方を開け、部屋に入った。


「どうした?」


 お父さんは私が入るや否や、最高の笑顔で出迎えてくれた。

 いいお父さんだとは思うけど、ちょっと赤ちゃん扱いしすぎじゃない?

 お父さんは私を抱き抱え、ゆらゆらと揺れている。


「お、お父さん。話があるからおろして?」

「あ、あぁ。そうだな」


 なぜ落ち込む。

 何、世の末っ子はみんなこうなのか? それとも娘がこうなのか?


「で、話ってなんだ?」

「う、うん」


 急に真剣な表情になったお父さんのギャップに、私は一瞬退くが足を踏ん張る。

 ここは私の戦場だ。

 お母さんとのチョス試合のような、緩い試合ではない。

 私の今後が左右されてしまう、重要な試合なのだ!


「お父さん、話があるの」

「うん」

「社交界についてなんだけど。私、出たくない」

「……?」


 お父さんは小首を傾げて、私の言っていることが理解できていないような表情を見せる。

 ロニーから話は聞いていると思うんだけどな。


「どうして急に? そういえば、ロニーもそんなこと言ってたな」


 そんなことって。

 私の将来が左右されるってのに!


「私は社交界には出ません!」

「うーん。まぁ、ルーナがそれを望むならそうさせてやりたいがなぁ」


 お? チョロいか?

 後もう一息で落とせそうだ!


「じゃあ、逆に聞くけど、社交界に私が出なくちゃいけない理由はなに?」

「そのままの意味だな。王侯貴族が集い社交をする場だ。友達等の人の繋がりを作ったり、私の娘自慢をしたり。あと、婚約者、を、さがじだり……」


 最後の何? 妙に力んでいたけど、これは私を嫁に出したくない的な感じ?

 ふふふ、弱み見ーつけた!


「お父さん。私には礼儀作法はありません。勉強もしてません。そんな不出来な娘を社交の場に出したら、お父さんの顔に泥を塗ることになっちゃうよ?」


 私は何を威張って言ってんだ。

 ただの駄目娘じゃん――とこの戦いが終わった私は思った。


「礼儀や勉強については、まだ早いと思っているから、心配はいらないよ。今は私たち親の真似程度はしてくれているから、それでいい。でも、そうだな。ルーナ、社交界デビューは何歳からか知っているか?」

「えっ?」


 知らん。

 興味ない、むしろ関わりたくないことを自ら調べる時間があるくらいなら、私は私の価値を高めるためにチートを探すよ!

 まぁそんな時間があるなら寝るけど。


「10歳からだ」

「へー」


 微妙に時間ないな。

 7歳になってかなり経ったから、もう3年ないの!?


「だから、それまでに家庭教師をつければその辺の礼儀等はどうにかなる」

「……」


 い・や・で・す・わ・!

 家庭教師とかついたら、私は精神的ストレスで倒れちゃうよ!

 ただでさえ、ロニーに構ってあげないといけないんだから。


「それに、ルーナも早く婚約者欲しいのだろ?」


 お父さんの顔が分かりやすいくらい歪んだ。

 これで弱み確定だな。

 いつか、ここぞという時に使うため、この弱みは持っておこう。

 そして、それは優勢な状況の今じゃない。


「そういうのよく分からないから、私はいらない」

「そ、そうか?」


 お父さんの表情が明るくなりました。


「そ、そうだな。ルーナにはまだ早い話かもな。そうだな、うん」


 嬉しそう嬉しそう。

 お母さんもそうだけど、ウチの両親はなんか素直で可愛いな。


「でも、社交界は貴族の義務みたいなもんだからなぁ。ルーナの気持ちは頭の片隅に置いておくよ」

「わ、わかった……」


 これ以上は無理、ここが引き際かな。

 本当なら片隅じゃなくて、脳細胞全部にインプットしておいて欲しいけど。

 お父さんの弱みもゲットできたし、社交界に参加したくないという意思表明もできた。

 今回こそ、私の勝ちでいいよね?

 私は最後に軽くお父さんにお礼をして、しばらくの拠点となる屋根裏部屋に戻った。

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