18.一人暮らし始めます?
とうとう衣装が完成してしまった。
いや、とうとうと言うほど日にちは経ってない。
二日? 三日? くらい。何時間労働で完成させたんだろう……。
私は分かんないけど、一から手作りの服ってこんな早く完成するものなの?
このままじゃ、収穫祭に行くことは免れない。
今の時刻は朝の7時、当然朝弱いので寝てません!
一日二日程度の徹夜くらいは余裕なのだよ。
それもこれも、今日やらねばならないことがあるからね。
~昨日の出来事~
「おやすみなさいませ、お嬢様」
「うん、おやすみー」
今日、私はお母さんのところに行って”チョス”をした。
負け越したけど、少しは勝てたから満足のいく結果だったと思う。
それはそうと、お母さんはかなり姑息な手を使うようになってきたんだよな。
採寸の時に行われたコスプレ大会の話ばっかりして、私の集中力を削いでくるとは卑怯だよ。
ま、そんなこんなで今日も私は安らかな睡眠を迎えることができたんだけどね。
「あ、お嬢様。言い忘れていました。収穫祭で着ていかれる衣装が完成いたしましたので、明日最終チェックを行います。それではおやすみなさい」
「……」
おやすみできなさい。
ということで、今日、私は数日分の食糧と飲み物、暇つぶし用の本を持って屋根裏へと引っ越しします!
いきなりあんなこと言われたもんだから、昨晩から急いで準備をしたんだよ。
ご飯は久しぶりに行った厨房から、ほんのちょびーっとだけ分けてもらい、本は自室の本棚から。
それなりの大荷物になっちゃったけど、このくらいの量がなきゃ逃げ隠れられない。
お母さんの部屋にもお父さんの部屋にも逃げ込めない。
あそこは、安全地帯のような敵地だ。いつ、隠れ住んでいることをロニーにバラされる分からない。
だからこそ私、ルーナ・フォン・ゾルブ7歳。今日から一人暮らしを始めます!
私は風呂敷に必要な物を入れ、ゆっくりと音を立てないように扉を開いた。
「お嬢様、どちらへ?」
即効バレた。
このやり取り何度目だよ……。
わざわざ、一番忙しそうに屋敷中を従者がうろつくもっと早い時間は避けたってのに、なんでロニーはいっつも私の行くところにいるのよ。
返事はどうしよ。トイレ……ではないよな。嘘、以前に行動も荷物も不審すぎる。
「お、お母さんのところに」
「そうですか、奥様の」
「そうなんです、奥様のところに行くんです」
私は無理に笑顔を作り、歩き出す。
「お待ちください」
止められた。
「その荷物はんですか?」
荷物取り上げられた。
「これはなんですか?」
荷物見られた。
……。
万事休す、 全て見られちゃったよ!
「あ、あれだよあれ。お母さんと一緒に食べながら、チョスやろうと思って」
「そうですか」
そうです、そうんなんです!
だから荷物返して! 私を見逃して!
言っても収穫祭が終わるまでの間、屋根裏に住むだけだから! ね?
「まぁ、言いたいことはありますが、分かりました」
言いたいことあるんかい。
読心術使いのロニー、恐るべしだな。
でも、様子から察するに私が屋根裏に隠れ住むとは思ってないみたいだ。
「後ほど、完成した衣装の試着をしてもらいたので、その時呼びに参りいます」
「う、うん」
「採寸時のように、長くは引き留めませんからそんなに構えなくても大丈夫ですよ」
「そ、そう。ありがと」
かなり怪しまれていたな。
逃げること……バレてるなこりゃ。
私は一つ目の曲がり角までいつもの調子で歩き、曲がってすぐダッシュで屋根裏へ向かいに最上階に続く階段を登った。
そして、屋根裏に行ける天井からぶら下がっている梯子の紐を引っ張って、それも登る。
この空間が私がしばらくお世話になる場所。
想像していた屋根裏とはかなり違った。
私が想像していたのは、狭くて埃のかぶった汚い物置だ。
それがどうだ、蓋を開けてみたらそれはそれは綺麗な空間が広がっているじゃないか。
綺麗な木目の見える床や壁、可愛い天窓、灯りも派手な屋敷内の至る所にある魔道具ではなく屋根裏の雰囲気にあっている落ち着いた感じ。
ちょっとしたコテージ、ログハウス感があって、元ド庶民の私にとって私室より居心地がいい。
それと、いくつかのベッドやタンス、流し場まで完備。
最高かよ!
ここは将来私の部屋にしたい。部屋を出なくても、トイレもシャワーも食事もなんでもここでできる。
プロの自宅警備員が住むには、完璧な空間じゃん。
ただ、うん。やっぱりと言うべきか。
「なんか、生活感ありすぎじゃないかな……」
もしかしなくても、昨日今日ここで寝起きしている人がいる。
掃除が行き届いていて、埃は落ちてない。
なにより流し場にクシや歯ブラシ、化粧品類まで置いてあるし、ベッドの上には洗濯物が畳んで置いてある。
従者用の居住空間というべきか、私が”隠れ住む”という目的からはだいぶ反しているな、うん。
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