17.採寸だけで終わらない
私はロニーが先導してお母さんに手を引かれながら、一つの部屋に連れてこられた。
様々な色や形、種類の衣服が部屋を囲むように置かれている。
そして中央、扉を開けて最初に視界に入ってきたのは、上半身だけのマネキンに着せられた服だった。
派手さはなく、落ち着いた雰囲気でお母さんの銀髪ともよく合いそうな空色の服は貴族っぽくはなく、然れど品のある物だった。
「奥様の衣装はこちらです」
「うん、いい感じね」
まぁ、ぶっちゃけた話、お母さんは何を着ても似合っちゃうんだろうね。
バランスのいいスタイルだし、胸大きいし……ゴホン。
ぽわぽわな癒し系だし、胸大きいし……ゴホン。
はぁ、そのでかいので服のバランス乱れまくれ!
「とりあええず試着してみましょうか」
「そうね。ルーナ、私も衣装着るから、あなたもあとでちゃんと衣装の採寸と試着するのよ?」
「は、はい……」
どうしよ、めちゃくちゃ逃げたい。
私は予知能力が覚醒したのかもしれない。
未来が読める、読めるぞ!
お母さんの試着がなんの問題もなく終わった後、私は服を脱がされ採寸されたのち、着せ替え人形と化す未来がくっきりはっきりと見える!
そんな
結果は分かりきっていたけど、普通に似合ってましたよ、はい。
で、次は私ですか。
「お嬢様、体の採寸をしますので服を脱いでください」
私、思うんだよね。別にわざわざ新しいの作らなくてよくない? と。
「お嬢様?」
「ルーナ?」
私が服を脱ぐのに躊躇していると、二人がじりじりと詰め寄ってきた。
いや、服を脱ぐことに抵抗はない。
なんていうか、予知した服を脱いだ後に抵抗がある。
でも、お母さんはともかくロニーを怒らせると怖いから、とりあえず服は脱ぐ。
お母さんが実の娘に対してハァハァしているのは、ほっておこう。
多分、どこの家でも娘の着替え中に親は興奮するものなのだろう。
前世ではそんなことなかったけど、前世の親は放任主義だったし今の親との距離感もだいぶ違う。
きっとそうだよ。親が娘の着替え中にハァハァするなんて、普通なわけないよね。
「……お母さん」
「ルーナは本当に可愛いわね」
もう、下着でこれなら、衣装とかどうでも良くない?
最悪、麻袋かなんか被っていくよ。だから――
「ではお嬢様、お手を上げてください」
ロニーがメジャーを手に、私の前に屈んだ。
はぁ……。私は折れた。
両手を横に上げ、T字に立つ。
そこでロニーが私の腕の長さや、胸部、腰回りやお尻、足等々を測って紙にメモしていく。
この作業はそれなりに恥ずかしい。
そうして採寸は終わった。
本来ならば収穫祭に着ていく衣装作りのための採寸をすればいいだけだから、これで終わりでいいはずなのだが、そうもいかない。
ここからは完全にお母さん
そう、私は着せ替え人形と化すのだ。
…――かれこれ5、6時間が経過して、やっと地獄から私は解放された。
はぁ、超疲れた。
途中でお母さんが部屋をダッシュで出て行った時は、やっと終わると思ったけど、お父さんを連れて戻ってきた時は少し引いてしまった。
最初の方はまだ良かったんだよ、普通な衣装で。
でもね、少しずつおかしな方向へとシフト転換していってさ、最終的には不思議の国のア○ス風だったり、ロニー達本物のメイドよりも派手でフリフリなメイド服だったり、女騎士風だったり、男装させられたり……。
なんでこんなものがあるの? って何度思ったことか。
採寸も何もしてないはずのに、私にピッタリのサイズだったし……。
それに、一つ一つの着替えに異常なまでの時間をかけ、髪をいじり、軽く化粧までさせられた。
挙げ句の果てには、ポーズ指定まで……。
まぁ、したけどさ。死んだ魚のような目で。
ここはあれですか、コミックマーケットのコスプレブースかなんかですか?
ロニーは止めてくれると思ったのに、お母さんの次にハイテンションになっていたし。
お父さんは着替えるたびに頬擦りしてくるし。
まぁ、ロニーも女性だしファッションやオシャレの一つや二つは興味があるとは思うよ、うん。
でもさ、やりすぎって言葉知ってる?
何事にも限度があるんだよ。それに、後半はどう考えてもファッションでもおしゃれでもない!
ロニーは私を着替えさせながら、
「お嬢様、これは今流行の服なんですよ」
とか言ってたけど、騙されるか!
私が世間知らずの引きこもり令嬢だからと言って、馬鹿にすんじゃない!
私は自室のベッドに顔から倒れ込んだ。
私にとっての早朝に起こされて、嫌な話いっぱいされて、逃げた先では遊べると思った矢先そこにも伏兵がいて……。
ついてないよなぁ。
その日、私はご飯を食べることなく早々にして眠りに落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます