14.超絶拒否発動!

 月日は流れ、季節は秋。

 領内では収穫祭の準備が着々と進められていた。

 一方で私は、ロニーと激戦を繰り広げていた。


「お嬢様!」

「いーやーだーっ!」


 このメイド、ロニーは収穫祭に参加する衣装の採寸をするからと言って、私の睡眠を邪魔しにきたのだ。

 私は行かないと言っているのに。

 だいたい、祭りに行く奴なんて気が合わない! 絶対に!

 あんな人混み、何が楽しいんだ!

 何が収穫祭だよ、かぼちゃくり抜いて身内だけでハロウィンしてなよ!

 こっちの世界にハロウィンあるか分かんないけど。

 どうせ、こっちの収穫祭だって日本の渋谷みたいに馬鹿騒ぎするだけなんでしょ。

 するのは勝手だけど、私を巻き込まないで!


「お嬢様はここの領主、ゾルブ伯爵様の娘なんですから参加は義務です!」

「いやだ! 絶対に嫌! 断固として嫌! 超絶拒否発動!」

「何を言ってるんですか!」


 私はベッドの足にしがみつきながら、ロニーを睨む。


「だいたい、私が居ようが居まいが誰も気づかないよ!」

「気づくに決まってるでしょ! ……申し訳ございません、取り乱しました。とにかく、お嬢様は伯爵令嬢なんです。自覚持ってください」


 本当に嫌なんだけど。これ何ハラスメントになる?

 児童虐待でロニーを逮捕します!


「何考えているんですか」


 ロニーが私にじと目を向ける。

 何ですかその目は。謝ったら引いてくれるんですか。

 私の安い頭で済むなら、秒で下げてあげるよ!


「はぁ。とにかく、収穫祭に顔だけは出さなきゃいけないんです。社交界の練習にもなりますし」

「絶対にいや……え? 今なんて?」


 社交界? 無理無理、収穫祭以上に無理!

 だいたい、自宅警備員は社交する意味がないんですよ?

 宅配の人とちょっと挨拶できれば、問題ないよ。

 最近やたらとこの話を耳にすると思ったら、私のことだったのか。

 そう気づいた瞬間、私の背筋に悪寒が走った。


「わかった。行く。収穫祭に行く」

「……」


 行くって言ったのに、ロニーが私に疑惑の目を向けている。

 解せぬ。


「じょ、条件有りだけど」

「条件ですか……。物によりますけど、聞きますよ」

「私は社交界に出たくない。死んでもお断り。わかる? だから、お父さんに社交界に出なくて済むよう、話をつけておいて」

「……無理だと思いますが、言うだけ言ってみます。そんなことより、言質を取りましたからね。収穫祭には参加してもらいます」

「うっ……」


 私は顔を歪めながら、一応頷いた。

 どうやって逃げるか。私はそれを真剣に考える。

 確かに、行くとは言ってしまったが条件有りだ。

 しかも、そう簡単な条件じゃない。

 ロニーは何か勘違いしているみたいだが、私の言う条件ってのはお父さんに言うだけじゃなくて、社交界に出なくて済むように話をつけるというものだ。

 話すだけじゃ、私は行かん!

 絶対に行かない。

 そして、私は最近最高の隠れ場所を見つけたのだ。


「では、旦那様に話をしてきます」

「話すだけじゃなくて、社交界そのものを阻止してきてね!」

「……」


 ロニーからの返事はなかった。

 だが、これも予想のうちである。

 私は社交界は当然として、収穫祭にも出たくないのだ。

 そこだけは譲れない。

 どんなものか知らないけど”祭り”とつくからには、多分人が集まる。

 想像するだけで、人に酔いそう……。

 私はロニーが部屋から出て行ってから少し時間を開けて、扉を開けた。

 ここにいたら危険。私の危機感知センサーがそう囁いてくる。

 周囲をキョロキョロと伺い、誰もいないことを確認してから部屋から飛び出す。

 それからは一直線。

 止まることなく、全速力で私は走った。

 目的地周辺です。案内を終了いたします。

 大きな二つの扉、その両脇にいるフルプレート装備で腰から剣を下ろしている衛兵。


「お疲れ様です!」


 私は扉の前で立ち止まり、二人に敬礼を飛ばす。


「「お嬢様もお疲れ様です!」」


 衛兵の人も敬礼で返す。

 嬉しいもんだね。子供だからとあしらわれず、丁寧に対応してくれるというのは。

 私はニコッと微笑む。


「お母さんは中にいますか?」

「いらっしゃいますよ」


 衛兵は扉をノックし、「お嬢様がお見えになりました」と言うのと同時に扉を開けた。


「ありがと」


 私は軽く礼を言い、お母さんの仕事部屋、別の名を安全地帯へとやってきた。


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