11.マヨネーズ 完成?

「マヨネーズ……マヨネーズ……マヨネーズかぁ」


 レシピは知らない。けど、味や見た目は知っている。

 それと、某CMコマーシャルを見た感じ卵は使うよね。

 それから、それから……。


「あとは分かんないんだよおおぉぉっ!」


 私は頭を抱えて蹲った。

 思い出せ! って思っても、そもそも知らないんだから思い出すものがない。

 原材料の表記を見とけば良かった!

 あーもう! 唸っていても何も出来やしないよ!

 と、とりあえず、卵。卵があれば多分できる! きっとできる!

 幸いなことに、こっちの世界の人はマヨネーズを知らない。

 だから完璧なマヨネーズ じゃなくても、できたものをマヨネーズ と言い張れば良い。

 もう、私に残された道はそれしかないのだ。

 私は冷蔵庫っぽい銀の箱の扉を開けた。

 中から冷気が漏れているし、食材らしきものも入っている。

 冷蔵庫で間違いないだろう。

 そこから十個一ケースの卵の詰まった紙パックのようなものを取り出した。

 それから、調理台の下にある調理器具からボールを、天井からぶら下がってる調理器具から長くて大きな木のスプーンを手に取る。

 それらを調理台の上に乗せ、私は走って準備室へと駆け戻った。


「調理台、想像以上に高いよね……」


 踏み台になりそうな木箱を取り、再び厨房へと戻る。

 これで準備オーケー、のはず。


「はぁ……」


 この手際、これは果たしてチートなのだろうか?

 踏み台に上がり、調理台の上に自分で準備した物達を眺めながらそんな考えがよぎった。

 料理ができる大前提のチートとか、私じゃ無理じゃない?

 まぁ、やるけど。

 まずはボールに卵を三つ割り、木のスプーンでかき混ぜる。

 そこからは完全に自分の想像力だ。

 卵をかき混ぜ続けたら、マヨネーズみたいにドロドロの半固形になるかな?

 私は細い非力な腕で十数分、卵をしばらく混ぜ続けた。

 その結果、少し泡立っただけ。

 この方法は違うのか。もしあってたとしても、二度としたくないけど。

 めちゃくちゃ腕疲れたし。

 次は卵そのものを固形にしてみるか。

 私は踏み台から飛び降り、コンロっぽいものがあるところへ移った。

 それから、鍋に水を張り沸騰させてから卵を三個投下。

 数分茹でたのちに卵を回収し、茹で卵の完成!

 そこで出来た熱々の茹で卵を、流水に当てながら殻を向く。


「そういえば、小学生の調理実習以来に茹で卵作ったな」


 殻を剥いた卵を、新しいボールに入れ元いた調理場に戻る。

 そして、茹で卵をスプーンの腹で潰す。潰して潰して潰しまくる。

 原型がなくなるまで、ぐっちゃぐちゃに混ぜる。

 結果、潰した茹で卵ができた。

 いや、だろうね。逆にそれ以外ができたら、私は魔女に転職するよ。

 マヨネーズ作りって難しくない?

 もう、固めかた分かんないし味から決めてこ……。

 多分だけど、塩は入っているよね。

 私は塩をひとつまみ、たくさん混ぜた方の生卵のボールに入れる。

 あと、少し酸味があった気がする。

 お酢ってあんのかな?

 私は塩等の調味料の置いてあった場所に行く。

 塩、胡椒、砂糖、油、赤黒い液体、よく分かんない実、不気味な何か、その他諸々……。

 多分だけど、無いな。うん。

 私はお酢の代わりになりそうなものを探した。

 その結果、レモンを見つけた。

 それを包丁で半分に切って、ボールの上で両手で力一杯絞る。

 それらを混ぜて少し味見。

 ……すっぱ。

 完全にレモン入れすぎた。

 食べ物を無駄にしたくないけど、これを食べられる自信はない。

 潰された茹で卵のボールが私の視界に入った。

 混ぜてみるか。

 酸っぱさを減らすために塩と胡椒を少し足す。

 生卵が強いなぁ。茹で卵増やすか。

 私は残りの卵の四個を鍋に入れ、茹で卵を作り、それらを潰しながらかき混ぜる。

 塩と胡椒で味を整えながら、混ぜていく。

 あと、マヨネーズ特有の油分。

 あれって、普通の油でいいのかな?

 結局は自作だし、なんでもいいか。

 調理用油をボールに少しずつ入れ混ぜる。

 すると少し変色し始め、色が白っぽくなってきた。

 私の口元がニヤつく。

 これだよこれ、マヨネーズの色じゃん!

 茹で卵のおかげか、混ぜている感じがマヨネーズっぽくなっている。

 それからまた十数分間、疲労で震える腕に鞭を打って混ぜ続け、一口味見。

 結果、マヨネーズではなくタルタルソースっぽいものができました。

 ……こ、これって成功だよね? 成功でいいんだよね?

 作りたいものとは違ったけど、私的にはマヨよりもタルタル派だし。

 上出来なんじゃないかな?

 そうだよ、上出来だよ。マヨネーズの上位互換を作ったんだから。

 天才すぎる自分を褒めてあげたいよ、エヘヘ。

 これぞチート。私のチートじゃ!


「フハハハハッ、料理界に革命児の爆誕だ!」

「……お嬢様」

「――っ!?」


 私は錆びた機械のようにギギギと声のする方へ振り返った。


「おトイレはここじゃないですよ?」

「……知ってます」


 ロニーがいました。

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