09.チート化計画始動

 こっちの世界で目が覚めて、一ヶ月弱が経過した。

 それなりだけど、記憶がなくなる前の私の話はあらかた聞いたし、そろそろ私は将来に向けて動き出そうと思う。

 目標は変わっていない、プロの自宅警備員だ。

 毎日だらだら自堕落な生活を送る。

 前世で餓死した反省を生かして、食いっぱぐれない程度の資金を得る。

 これらが当面の目標だ。

 前者は既にできているから、問題は後者、資金だ。

 実際あてはある。というか親を資金源だと思ってる。

 なんたってお父さんは伯爵様だし、私一人がスネをかじり続けても、あんまり懐にダメージはないだろう。

 しかも、私にはお兄ちゃんがいる。後継者問題に巻き込まれる心配はない。

 となると、やっぱ自分の価値を証明する必要がある。

 私がずっとダラダラと家で過ごしていても、私が必要だと思わせるだけの何かが。

 チート……かな。

 真っ先に思いついたのはそれだった。

 だって、異世界転生と言ったらやっぱりチートでしょ?

 これは、もうそういう方程式ができていると思うんだよね。

 この二つを切ることはできない。なんせ、イコールで結ばれた仲だし。

 だから、私は現代知識を持って異世界チート無双をしようと思ってるんだよね。

 何はともあれ、まずは手頃なチートからだ。

 そのチートの名は『料理クッキング』。

 こっちの世界に来てから、それなりの種類の料理は食べてきた。

 最初の数日間はずっとお粥だったけど……。

 その瞬間、私の脳裏に苦い記憶が蘇った。

 ロニーに対抗したい、塩以外の味のするご飯が食べたい、正直なところ肉食いたい。

 そんな浅はかな言動のせいで、私はかなりの腹痛に苦しんだのだ。

 あの時は若かったよね。未熟って感じ。

 でも、そんな辛かった過去より今が大事。料理だよ料理。

 話を戻すけど、こっちの世界のご飯は、基本的にはどれも美味しい。

 美味しいのだけど、私の記憶にある見慣れた料理は一つもなかった。

 お米はあるけど、お米メインの食事は一度も出てこなかった。

 どちらかと言うと、副菜的な位置にいたと思う。

 当然、お米だけじゃない。和食系の料理は一つもないのだ。

 料理がメインの異世界モノの主人公はこういった時どうしたか。

 物珍しい料理は流行る。そして儲かる。

 ガッポガッポなり……えへへへ。

 そして、誰もが一番最初に手をつける物。それは、マヨネーズだ。

 用途は数多、何にでも合う万能調味料。

 それこそが天下のマヨネーズ様。

 私だって女子高生だったとはいえ、女の子。料理だって得意……のはずだよ!

 根拠はないけど、得意料理だってある。私の得意料理は炒飯チャーハン

 いつかこっちの親にも私の得意料理を食べさせてあげたいものだね、うんうん。

 と言うことで、厨房に向かおう!

 私は窓の外を見る。

 すっかり陽は沈み、時間も深夜0時を回っている。

 こっちの世界の月は大きいのが一つと小さいのが一つの計二つあるけど、色は前世の記憶と対して変わらない。

 この時間なら、多分大丈夫だろう。

 月明かりが地上を支配する時間『夜』、それは吸血鬼ニートが最も活発に動く時間である。

 故に私の天下の時間なのだ。


「誰にも邪魔はさせないぞー!」


 私は自室の扉を勢いよく開いた。


「お嬢様、おトイレですか?」

「……」


 私の専属鬼メイドのロニーがいました。


「……ずっとここにいたの?」

「まさか」


 じゃあなんでここにいるの――とは怖くて聞けない。

 立場上は私が主人のはずだけど、何故か手綱は常に向こうに握られている。

 解せぬ。


「で、どちらに行かれるんですか?」

「……ト、トイレに」

「左様ですか。トイレで誰が邪魔するのかは不明ですが、暗いので足元に気をつけてくださいね」

「あはははは、わかった。ありがと。それと、おやすみなさい」

「はい」


 笑ってごまかす。

 別に見られて困る物ではないけど、夜中に出歩いて一度怒られたことがあるから、致し方ない。

 だから、嘘ついたことは許してね!

 私はその場から走って脱した。

 流石のロニーもトイレと言い張る私にはついてこまい。

 それにさりげなく『おやすみなさい』と言ったことで、私はもう寝ますよというアピールもできた。

 フフフ……。

 厨房に向かう道すがら、私は口の端をニィッとあげた。

 私のチート化計画の幕開けである。


 余談だけど、チートとニートって響きが似てるよね。

 これもイコールで繋げちゃってもいいじゃない?

 それができれば、料理なんかせずとも私はチートを自称でき……ても意味ないか。

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