08.家族とご飯
レストランとかで見る銀色の丸い蓋が覆いかぶさっているお皿を一枚、ロニーが私の前に置いた。
開けなくてもわかる。
だって、感覚的にはついさっき同じ光景を見たばかりだもん。
「ロニー」
「なんでしょうか?」
「私のご飯はこれだけ?」
「はい」
やっぱりと言うべきか、銀の蓋の中には具無しの白粥が湯気を立てて私を待っていた。
私はこの家では嫌われているのだろう。
そう思った。
きっと、記憶を無くす前の行動があまりにも酷かったんだと思う。
じゃなきゃ、こんな仕打ちは受けない。好かれていたら、お粥はお粥でも具沢山のはずだ。
食堂には料理人から従者がたくさん集まり、部屋をぐるっと囲むように立っている。
私たち一家の食事を見て楽しいのか?
いや、違うな。
これは一種の見せ物だ。ゲームの無いこの世界は、おそらく娯楽が少ない。
だから、私をからかいに……。
これは親もグルと見るべきか?
私は両隣を見た。
二人は私の真隣で上品な振る舞い且つ、美味しそうに食事を始めている。
私の前には具無しの白粥、両サイドには貴族たらしめる夕食。
もう、泣いていいかな。
何この拷問。それでも人の心を持っているのか!
一週間絶食して、やっと目を覚ました娘の私はお粥。
一方で両親は、私がお昼に想像していた豪華絢爛な
私の体を思ってくれてのこの食事。そう説明受けた。
なら、私に気を使って離れて食え!
真横でうまそうに食事するな!
右隣に座るお父さんがワイングラスに手をかけた。
なんか回し始めたんだけど、それ意味あんの?
お父さんはワインの香りを嗅ぎ、そしてグラスに口付けする。
「うまいな」
チッ……。
もう帰っていい?
別にお腹空いてないし。
出されたご飯を残すのは、餓死を経験した私の流儀に反するから食べる。
けど、ここで食べなくてもいいよね?
そんな時だった。
「ルーナ、私のお肉食べる?」
私の食卓に女神が舞い降りた。
私が食べやすいよう、小さく一口サイズにカットされフォークに刺さった肉が差し出されたのだ。
「はい、あーん」
流石は私の自慢のお母さんだ。私の心情を理解してくれたんだろう。
すごく嬉しいよ、お母さん。
ロニーの横槍が入る前に、私は素早く動き出す。
私は口を大きく開けて差し出されたお肉に食いついた。
「どう? おいし?」
「……」
肉を咀嚼した瞬間、私は女神からの簡単な質問にすら答えられなかった。
噛むたびに溢れてくる肉汁。ソースは黄色、柑橘系の味で爽やか。それでいて、少し胡椒のスパイスも立っている。
私は目が覚めてから塩味のお粥しか食べていない。
だからか、『味』というものがドストレートに私の舌に直撃した。
衝撃だった、脳に電気が走った気がした。
なんの肉か聞いてもどうせ聞いたこともない名前を言われると思ったから聞かなかったけど、この肉の名前は知りたい。
うま過ぎるよ。
「奥様、お嬢様に今刺激の強い食事はお控えください」
案の定、ロニーがこっちにきた。
だが断る!
というか、もう口に入れちゃってるから遅い。
当然吐き出す気もない。
そもそも、ロニーには言われたくない。
賄賂なんかもらって、そっちはさぞウハウハだろうね。
こっちは白粥だけだってのに。
一欠片の肉くらい多めに見て欲しいもんだよ。
こっちだって賄賂は見て見ぬ振りしてあげたんだから、些細な幸せを奪わないで欲しい。
「ロニー、別に大丈夫よ。それにルーナだってお粥だけじゃ物足りないわよ」
「しかし奥様」
「ルーナは大丈夫よね?」
「うん、超大丈夫」
「……そうですか」
フンッ。
私はロニーに少しばかりドヤ顔を向けた。
どうだウチの女神は。鬼のロニーを簡単に言い負かすレベル、最強なのだよ。
「ルーナ、私のも食べるか?」
「うん!」
次はお父さんから声がかかった。
手のひら返しがすごいって? ワイン飲んでいた時に舌打ちしてたじゃんって?
それはそれ、これはこれだよ。
私の好きな言葉で、世界一便利な言葉だ。
お父さんはお母さんがくれたお肉にかかっていた黄色のソースとは別の赤いソースの部分を切り分けて、私の口元に持ってきた。
ロニーがまたなんか言う前に、私はお父さんのフォークに刺さった肉に食いつく。
うまし!
ソースが違うだけでこうも味が変わるのか。
ほっぺたが落ちてしまうよ。
これが幸せ、か。
お父さん、それとお母さん。
さっきは疑ってごめんなさい。
その後、私はしっかりと白粥をたいらげた。
食事中、少し気になったんだけど、なんで従者や料理人の人たちは私が一口食べるたびにざわざわしたんだろう。
ロニーが私の口元を拭った紙に関しては、なんか取り合いになっていたし。
あんなゴミを欲しがって、何がしたいんだろう。まさか、私を呪う道具かなんかを作る為にDNAを……それはないか。
まぁ、ロニーが誰にも渡さずポケットに入れてたところを見たから安心だ。
ロニーなら私を呪うよりも直接攻撃してくるだろうし、多分後で捨ててくれるだろう。
目の前の様子を見て心配になったけど、ウチの屋敷の従業員はみんなこんな変人じゃないよね?
もしかして、私が知らないだけであれも賄賂かなんかに繋が――うん、それはない。
ってか、そんな発想をした私の思考って一体……。
そして翌日。
「だから言ったじゃないですか」
早朝、私の部屋にロニーの冷たい声が刺さった。
端的に言うなれば、昨晩の食事の刺激が強かったせいか胃がびっくりして、腹痛を起こしていた。
あまりの腹痛に私は大好きな睡眠もままならず、朝早くに目が覚めてしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます