04.落差の食事
なんか色々あったけど、とりあえず食堂に来ましたよっ!
はぁ~お腹すいた。
食堂は予想通りデカかった。
部屋の壁にはよく分かんない絵画が数枚と、高そうな壺やら何やらの装飾品の数々。
そのど真ん中に鎮座するは、四人家族にしては大き過ぎ長過ぎのテーブルと大量の椅子。
まぁ、伯爵ってくらいだから来賓の人もたくさん来るだろうし変ではないけど落ち着かない。
というか、今から私はこの長テーブルで一人で食事をするの?
「では私は厨房の方に行って参りますので、座ってお待ちください」
「あ、うん。案内ありがとね」
ロニーはその後すぐに部屋を出て行っちゃった。
私は大人しく席について待とう、とは思ったけど……。
「やっぱり落ち着かない!」
食堂で一人、装飾品に囲まれた広すぎる部屋で私は叫んだ。
なんなんだこの部屋は。新手の虐めなのか?
私の今までの我儘の復讐で、ロニーはこんなところに連れてきたのか!
だいたい、なんでご飯食べるところに西洋甲冑があんだよ!
私は目の前の鎧の足を蹴っ飛ばした。
しかし、非力な幼女の私の蹴りではビクともせず、逆に
痛い……。
戦略的撤退だ、標的変更! 次はお前、絵画。絵画だ!
誰が描いたか知らない。多分高価なんだろうとは思う。
けど――
「地味! あと暗い!」
何これ?
マジで何これ!
背景は黒で、基本的に黒混じりの色で果物のような形をしたモヤモヤしたものが描かれた絵に牙を向く。
ガルルルルル。
この絵の作者の目には世界がどんな風に見えているんだ。
あと、この部屋に来て一番最初に目に入ったお前!
お前は何だ、絵画以上に謎だぞ!
私は首より上の標本が盾の形をした木の板に張り付いている壁飾りを睨む。
前世でもシカやクマ等の似たようなものはあった。
けど、これは何!?
中途半端に長い鼻、大きく開かれた口の上下から2本ずつ伸びる鋭い牙と、鼻よりも長い蛇のような舌。つぶらな瞳だけどその数は四つ。体毛は白で赤い斑点がある。
この世界がファンタジーだってことは知ってた。
当然のようにロニーが魔法を使っていたのをこの部屋に来る途中に見たから。
けど、こんな気持ちの悪い生き物を壁に飾るとか、どんな趣味をしてんだ。いや、この際伯爵であるお父さんの家の食堂に飾ってあるってことは、それなりに希少な動物なんだろう。だから、装飾品としては目をつぶる。
だけど! その装飾する場所を選んで欲しい!
部屋のどこにいても目があって落ち着かないし、食欲は削がれるし、なんでここなの!
次、次は……。
私が次の獲物を探している時、いつの間にか戻ってきていたロニーと視線がぶつかった。
「お、お嬢様。装飾品に怒鳴って……。また頭でも打ったんですか?」
「ち、違うわい!」
「お嬢様、はしたないですよ」
「いや、誰のせいだと……」
うん、もういいや。
そんなことより、ロニーがいるってことはご飯だ。
貴族のご飯……、エヘヘ。
想像するだけでもよだれが出てくる。
食欲が削がれるとは言ったが、あれは言葉の綾だ。
気にはなるけど、腹ペコな私の食欲が無くなることはない。
意味不明な装飾品ばかりだけど、この部屋や私の部屋、廊下の長さ~屋敷の広さ的に考えればご飯はきっと豪華だ。
私は走って椅子に着く。
やたらフォークやナイフが多い気がするけど、もう気にしない。
もう餓死なんかしたくないもんね。
ロニーは配膳代からレストランとかで見る銀色の丸い蓋が覆いかぶさっているお皿を一つ、私の目の前に置いた。
匂いは閉じ込められているから分かんないけど、こりゃ期待値バク上がりだな。
私はすぐ隣に立っているロニーに、キラキラした眼差しを飛ばす。
「お、お嬢様。その目をこちらに向けないでください」
「……へ?」
何故か拒絶されました。
私泣くよ? もう泣いちゃうよ?
「い、いえ、申し訳ございません。そういうつもりじゃ」
また心を読まれた。
「いえ、読んでませんよ。お嬢様は顔に出やすいので」
いや、『読んでませんよ』って答えている時点で読んでるじゃん。
私の心の声に答えちゃってるじゃん。
「もうなんでもいいや。食べてもいいんだよね?」
「あ、はい。どうぞ」
「やった。いただき……………………………………マス」
銀の蓋を開けてもらって、湯気を纏って現れたのは具無しの白粥だった。
そして私の瞳から大粒の涙がこぼれた。
これはない。
こんな仕打ちはあんまりだ。
いや、贅沢言うつもりはない。
けどこれはないでしょ。
腹を空かして、極限状態。
↓
餓死が怖くて食事を取る重要性が私の中で高まる。
↓
そして連れてこられた食堂は、意味不明だけど高価そうな装飾品の数々。
料理もボリューミーで豪華絢爛、とまではいかなくても肉くらいは食べられると思っていた。
自分で言うのも恥ずかしいけど、伯爵家の令嬢の一週間ぶりの食事だ。
気合のこもった料理を期待するのが普通の感情だ。
↓
その結果、具無しの白粥。
勝手に自分でそう思い込んでいただけで、勝手に自分で落胆したんだ。
それでも、いくらなんでもこれはひどいよ。
期待させるだけさせておいて……。
「お、お嬢様? どうしたんですか?」
「……これだけ?」
私は真顔のまま涙を流していた。
そんな顔を見たロニーは冷静に、落ち着いた様子で答えてくれた。
「お嬢様は一週間の間、ほぼ絶食状態でした。摂取したものは、布に染み込ませた砂糖塩水くらいです」
「それが?」
「そんな状態で、いきなり物を詰め込むと体に悪いのです。最悪の場合、死ぬかもしれないのです」
えっ、食べなくても死んじゃうのに食べても死ぬの?
人間てそんなに虚弱な生き物なの?
「時間が経てば、ちゃんとした食事も取れるようになります。本来であれば、ちょっと味のする汁くらいからがいいんですけど、それだとお嬢様が
これでも気を使ったんですか、そうですか。
我儘言ってごめんなさい。
大人しくお粥を食べます。
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