01.目覚めたら美少女でした

 知らない天井だ……。

 私はついさっき餓死したらしい。

 いや、真実はわからないけど、さっきそう言わされて気付いたらこんなことになっているんだから信じざるを得ないというか、ね?


「お、お嬢様!? 奥様、お嬢様がお目覚めになりました!」


 ん? おじょうさま? どこ?

 いるなら是非見てみたいんだ……けど……。

 周囲をキョロキョロとしていた私は言葉を失った。

 まるでお伽話から出てきたかのような綺麗な金色の長い髪とサファイアのような大きく綺麗な瞳、マシュマロのような白い柔肌に幼い体ながらもスラッと伸びた四肢。

 そんな幼女が隣にある窓越しに座ってこちらをみていた。

 うわぁ、何あの娘!? 死後の世界に舞い降りた天使か?

 めっちゃ美少女じゃん。同じ人間を名乗るのが恐れ多いんだけど。

 ってか、ずっとこっち見てるな。

 私の後ろになんかいるの?

 疑問に思い後ろを振り向くも何も無い。明らかに高価そうな家具がいくつも置かれてはいるけど。

 再び少女を見るが、まだこちらを見ている。

 うん、可愛いすぎる。同性なのに惚れてしまうぞ。

 自然と頬が緩まる。

 あれ? 今笑った? 笑ったよね?

 少女の?は少し色づき、トロンとした目で私をまっすぐ捉え微笑んでいる。 

 クソ可愛いかよっ。

 我慢の限界がきた私は、その少女に接触を試みることにした。

 と言っても、いきなり馴れ馴れしくして嫌われたくないから、初めは手を振ってみる。

 ど、同時……だとっ!?

 少女も驚いているみたい。

 これは運命かなんかだろうか。以心伝心っていうの?

 いや、驚いた顔も可愛いな。

 はぁ……。


少女これ私やん」


 ため息と同時にそんな言葉が漏れた。

 思わずエセ関西人っぽくなっちゃったよ。

 え? 何、どゆこと?

 うすうす勘付いていたけど、ベッドの横、私から見て目の前にあるのは窓じゃなくて鏡じゃん。

 私の動きと連動して、鏡に映る美少女は動いている。

 髪を触ったり、頬を触ったり、口を開けて舌を出してみたりetc……。

 私がお嬢様なの? 

 異世界転生した上にお嬢様? 令嬢? なんて何番煎じだよ。

 だいたい、元の私の面影が一ミリもないんですけど。


「ルーナ!?」


 突然部屋のドアが開かれたと思ったら、これまたすごい美人なお姉さんが現れた。

 同じ髪色だし、私のお姉ちゃんかなって――おっぱいでか!?

 私も将来このくらいになれるよね?


「ルーナ、体は大丈夫? どこか違和感があったり痛いところとかは無い?」


 ”ルーナ”って私の名前かな。


「うん。特にそう言ったことはないよお姉ちゃん」


 私はな胸や体の節々を触ってみせたけど、やっぱり痛いところなんて……。

 お姉ちゃんが驚きつつも両手を赤くなった頬に添えて私を見ている。

 もしかして、お嬢様語録的に”お姉ちゃん”はまずったかな。


「ごめんなさい、今のは無しで!」

「えっ?」

「お姉様、でいいんだよね?」

「まぁ! 突然、冗談なんて言ってどうしたのかしら。ふふふ」


 へ?

 どの部分が冗談なのだろうか?

 私がポカンとした顔でお姉ちゃんを見ていると、お姉ちゃんもポカンとし始めた。


「お姉様……じゃなかった?」

「……えーっと、それは冗談なのよね?」

「どの部分が?」

「嬉しいのだけど、私は姉ではなく母親よ?」


 ……。

 …………。

 ………………ふぇ?

 母親、ははおや、ハハオヤ、mother?


「やっぱりまだ治っていないのね。無理もないわ」


 混乱している私に哀れみの視線を向ける母親を名乗るお姉ちゃんが、まだ寝ているように強要する。

 思った以上に力の強い母に、私はなすすべなく横になり布団を掛けられた。

 この人がマイマザーですか?

 私はこの人がいったい何歳で産まれた子なんだろう。

 若過ぎやしないだろうか。


「お母さん?」

「えぇ、そうよ。少し記憶障害が残っちゃったのかしらね……。でも私はルーナが目を覚ましてくれただけで、心の底から嬉しいわ」


 お母さんは横になる私に慈愛のこもった優しい笑みを浮かべた。


「私の天使が目を覚ましたってのは本当か!?」


 次に現れたのは金髪美系のダンディーなおじさんだ。

 ただ、急いで来たのか髪は乱れ、呼吸も乱れ、目をギンギンに開いているせいで台無し感が否めない。

 多分だけど、この人がお父さんだろう。


「あなた。ルーナの目は覚めたみたいだけど、少し記憶に障害があるみたいで」

「何っ!?」

「私のことを”お姉さま”って……」


 なんかお母さんの声音が嬉々としている。

 若く見られたというのが嬉しかったのだろう。実の娘からだけど……。

 娘の記憶がなくなって、前世の私(九條氷彗くじょうひすい)が表に出て混乱しているってのに、だいぶ呑気な母親だな。


「ルーナ、私のことは分かるか?」

「ごめんなさい。分からないけど、お父さんですよね?」

「そ、そうだが……」


 お父さんは何か悲壮感漂っている。


「でも良かった。目を覚ましてくれただけ、本当によかった」

「う、うん」


 一体、ルーナの身に何があったのか知りたいような、知りたくないような。

 何はともあれ、私の魂が超絶美少女なお嬢様? に受肉しちゃったのは疑いようもない事実なのだろう。

 それならば、情報収集からコツコツと初めていくしかない。

 私が誰で、ここがどんな所なのか。そして、前世みたいなヘマをしないよう自堕落に生活しつつ、長生きできる方法を模索していかなきゃな。

 横になる私を両親が見守っている中、私は一人決意した。

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