怠惰の森の不動姫

アユム

00.プロローグ

「お嬢様、もうお昼になりますよ。起きてください。明日の入学式の準備はもう済んでいるんですか?」

「ん……」

「明日の入学式の準備はもう済んでいるんですか?」」

「んぅ?……」

「お嬢様! またそんな格好して……。いい加減に起きてください!」


 メイドさんは私の寝巻きを見て頭を抱える。


「んー、あと5時間……」


 私はすぐ隣で一緒に寝ているペットのスライムに抱きついた。

 プルプル冷んやりしているスライムは気持ちがいいし、フィット感も抜群。

 こっちの世界に来て、私が手放すことのできない三種の神器の一つだ。

 そして私に触れられたスライムは、私の意思を汲んでくれたのかドーム状の膜(結界だが、効果はない)を展開し、その結界内だけを暗転させる。


「お、お嬢様? なんのおつもりですか? いい加減に――」

遮音サイレント……」


 見なくても分かる。

 多分、スライムちゃんの取った行動に間違いなく引きつった笑顔で怒りをあらわにしている。

 そう判断した私は結界内に音の遮断をした。

 遮音サイレント、この魔法は私が創造したオリジナルだ。

 静かな夜を過ごしたい、快適な睡眠が欲しいと思って創ったものである。

 こっちの人生で最初で最後の努力の成果と言っても過言ではない。

 効果はそのままの意味で、範囲内での会話は外に漏れない。逆に、外の会話はこちらに聞こえない。

 きっと私のわがままを聞きたくないであろう向こう側にとっても、winウィンwinウィンな魔法だと言える。


「#%?!$#¥」


 空気が変わった気がするんだけど、もしかして怒ってますか?

 ――というわけで、私九條氷彗くじょうひすいは転生したみたいです。

 まぁ、なんていうか最初、私もビビったよ?

 だって、”死因は餓死です”なんて神様を名乗る変な人に聞かされたんだもん。

 学校に行かなくて済む、至上の夏休み。ご飯を食べるのも面倒臭くて、部屋に引きこもり、ベッドの上でだらだら過ごしていただけなのに、気づいたら死んでるなんて普通に信じられない。

 しかも、聞いたこともない国の貴族令嬢に転生とかラノベかよって叫びたくなるのよ。

 それでも、転生しちゃったものはしかたないと割り切り、心機一転させて頑張ってみたけど自分の無知無力さが嫌になってしまったのだ。

 はぁ……、だから私は今日も惰眠を貪るのだ。

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