第8話 モフモフさんが増えました

「サーナちゃんどうしたんだい?元気ないね」

 常連のおじさんに声をかけられ私はハッとした。いけない。仕事中なのにぼーっとしてた。

「ごめんなさい。ちょっと考えことしてて。ビールの追加でしたよね」

 私は空になったジョッキを引き取って厨房に持っていった。厨房で新しく注いだビールをジルに渡しテーブルに運ぶように指示してお客さんが帰ったテーブルのお皿やグラスを片付けることに専念する。

 昼間占い師がいなくなった後、あらかたの用事を終えていたこともあってスランに帰ろうと促され家に戻って来た。占い師が言った私がこの世界に来た意味について考えてみたけど何も思い浮かぶようなことはなかった。ここに来てから特に変わったこともなかったしいくら考えても分からなかった。私はため息をついてそれ以上考えるのをやめた。

「あのー。この席座っていいですか?」

 不意に声を掛けられて私は慌てて顔をあげた。目の前に私より頭一つ分背の高い女の子がいた。肩より少し長めの髪を二つに分けて三つ編みにしている。その髪色は綺麗なライラック色だ。その上にキツネ耳とフワフワの尻尾がゆらゆらしている。

「はい。もう片付けたのでいいですよ。ご注文はお決まりですか?」

「じゃあレモンビールで!」

「こらっ!お前まだ酒は飲めないだろ」

 いつの間にいたのか女の子の後ろに立っていたスランが頭を軽く叩く。女の子はペロッと舌を出している。

「サーナ、こいつにはオレンジジュースでいい。まだ子供だからな」

「え?でも……」

 私は女の子をまじまじと見た。だって私と違ってなかなかにグラマラスだし大人っぽい雰囲気だからお酒を飲める年齢なのかと思った。この世界では16歳からお酒は飲めると聞いている。ということはこの子は一体何歳なんだろう。

「もう!お兄ちゃんがいなかったら飲めたのにー」

「サーナがお前の顔を知らないからって調子に乗るな」

「あ。やっぱりこの人がサーナさんなんだ」

 女の子とスランの打ち解けた会話についていけずぼんやりとしていた私はスランをちらりと見上げる。

「あー。こいつは俺の妹ーー」

「もうまた勝手なこと言うんだから!初めまして。妹じゃなくて従妹のメリルです」

 ニコニコと伸ばされた手に自分の手を重ねるとメリルは握手しながらぶんぶんと上下に思いきっり振った。思ったより強い力によろけた私の背中に腕を回しスランが支えてくれる。

「こらっ!危ないだろ。お前の馬鹿力でサーナを壊すな」

「スラン大丈夫だよ。これくらい」

「そうだよー。お兄ちゃんほんと大げさなんだから」

「お前なぁ。まぁいい。それよりなんでこっちに来たんだ?一人なのか?お前そろそろ出稼ぎの時期じゃないのか」

「んーその話はまた後でね。どうせ泊まっていくし店が終わってから話すよ」

「は?」

「もちろんタダとは言わないよ。ちゃんとお店の手伝いするし」

「待て。先にここに来た理由を言え。でないと泊められない」

「そんなこと言ってる暇ないでしょ。まだお客さん待たせる気なのお兄ちゃん?」

 メリルが店内と店外で席が空くのを今か今かと待っている人達や料理を頼みたそうにこちらをチラチラと見ている人達を指す。

 メリルは自分の鞄から白っぽい布を取り出しくるりと腰に巻いた。サーナが着ているのと似たようなエプロンだった。

「サーナさん、あたしあっちの方片付けるのでお客さんの案内お願いしますね!」

「あっ、おい待て!」

 スランが声を止めるのも無視してメリルはさっさとテーブルを片付けに行ってしまった。

「ああ。くそっ。あいつ後でこってり絞ってやるからな」




「おっ!メリルちゃん久しぶりだねぇ。大きくなったなぁ」

「わぁ。おじさん久しぶり!あんまり飲みすぎたらおばさんに怒られるよー」

「メリルちゃんのつまみはやっぱりうまいな」

「おじさんありがとう。他にも色々あるから食べてみてねー」

 次々と客達から声をかけられ笑顔で返しつつホールと厨房の仕事もこなすメリルにサーナは感心した。どうやらこの店で働くのは初めてではないらしくほとんどの常連客とは顔見知りのようだ。時々ナンパ目的で声をかける若者もいるが適当に話を逸らして注文を追加させているやり手だ。

 今日のメニューでよく売れているのはメリルが作った少しピリッとしているが香ばしい炒めたジャガイモとウインナーにナッツ類を和えたものだ。料理を運びながら香ばしい匂いにつまみ食いしたくなるのをサーナは何度もぐっと堪えた。

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お仕事のご褒美はモフモフでお願いします!? 七夜 @stilla

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