第7話 当たるも八卦当たらぬも八卦
「んー。このパンおいしい!」
「よかったな。急いで食うなよ。喉詰めるから」
市場で買ったパンをほうばっている私にスランが途中で買った紅茶を差し出してくれるのを受け取る。天幕を出た後、日用品や私の普段着用に服を買ったりしているうちにお腹が空いてきたので市場の近くにある広場のベンチで朝食を取ることにした。
私はさっそく市場で手に入れたパンを籠から取り出す。果物や木の実が入ったパンやクリームやジャムが入ったものと色々あって選ぶのに迷ってしまう。買う時もかなり迷ってスランに急かされてしまったくらいだ。
次はどれにしようか迷っていると横からスランが手を伸ばして小ぶりのパンを掴むと私の口に放りこんだ。パンを落さないように慌てて手で押さえる。
「これもおいしい!買ってよかった」
「お前、ほんとによく食うよなぁ。来た時より丸くなってないか?」
「そうかなぁ~。丸顔だからそう見えるのかも」
そう言われて自分の身体を見るが特に変化が見えなくて首を傾げる。スランもそれ以上は何も言わなかった。
「それにしても朝市ってこんなに色々売ってて面白いね。今度から私もスランについて来ようかな」
「朝弱いくせに無理だろ。第一サーナと来たら余計なものを買わされそうだ」
「朝早く起きるの苦手なんだもん」
「俺の尻尾も全然離さないしな」
「だってスランの尻尾すごく気持ちいいんだよ。ずーっと触ってたいくらい」
「……あ、そう」
パンをほうばる時と同じくらいうっとりと言って尻尾を見つめる。
「今は触らせないぞ。触るなら帰ってからだ」
「はーい」
「さて。そろそろ行くか。早く行かないと終わっちまうからな」
スランの言葉に慌ててパンを紅茶で流し込み立ち上がる。スカートについているパン屑を払いスランについて歩き出した。
賑やかな人込みを抜け市場の終わりに差し掛かる頃、目当ての店に着いた。先ほど髪飾りをくれた店の天幕より更に狭い灰色の天幕の周りに十人ほどの客が並んでいた。並んでいるのは老若男女問わずで皆そわそわと落ち着かない様子だ。
「げっ。もう並んでるのか」
「すごいね。人気があるんだね」
私はスランといっしょにいそいそと最後尾に並んだ。今日はこの店に来たくて早起きしたのだ。ここは当たると評判の占い屋だった。スランの店の近くにも占い師はいるがそれほど的中率は良くないらしい。この朝市に来る占い師は人気が高い為、数か月に一度しか来れずしかも気まぐれな性格でその時々によって占ってもらえる人数が変わるらしい。
元の世界でも友達とよく占ってもらったことがあったから私はスランに連れて行って欲しいと頼んだ。
「そんなに好きか?」
スランはあまり占いに興味がないようで私の気持ちが理解しがたいらしい。
「何を占ってもらおうかなぁ。ねぇ。何がいいと思う?」
「なんだよ。なんか占って欲しいことがあるんじゃないのか」
「んーないこともないけど」
今一番知りたいのは元の世界にどうやったら帰れるか、それくらいだ。あれから時々路地裏に道が現れないか探してみたが見つかっていない。最初の頃に比べるとそれほど帰りたいと思わなくなけれども。家族や友達が心配しているだろうから一度は帰った方がいいだろう。
「次の方どうぞ」
いつの間にか前の人達が追わっていたらしく受付の男性に呼ばれ天幕に入るように急かされた。もうすでに日が昇っているというのに天幕の色のせいで中は暗かった。室内には余計なものを置きたくないのか占い師が座っている椅子、水晶と蝋燭をが置かれただけの小さな机しかない。占い師は黒いフード付きのローブをすっぽりと被っていて蝋燭の灯りでは顔があまりよく見えず性別もよく分からなかった。
向かい側に椅子が1脚しかないのを見てスランが私に座るように促し少し後ろに立った。
「さて。君は何を知りたいのかな?」
占い師が口の端を少し上げ問いかけてくる。
「ええとですね。実は私、迷子でして……」
「そのようだね。随分と遠くから来たようだ。帰り道を知りたいと?」
「……はい」
「そうさねぇ。帰れないこともないようだがーー」
「え!?帰れるんですか!? どうやって!?」
「まぁまぁ。落ち着いて。焦りなさんな。どちらにせよ今すぐではないよ」
勢いよく立ち上がった私をスランが押さえ座らせる。
「君がこの世界に来たことには意味があるようだからね」
「私が来た意味……?」
「それが叶わないうちはここに留まることになるだろう」
「……いつまでですか?」
「残念ながら私に君の運命すべてを見通すことは不可能だ。ただ分かるのは」
占い師がその先の言葉を紡ごうとした時、天幕の外で何かが倒れる大きな物音がした。天幕の外に飛び出したスランに慌てて私もついて行く。
「だから!あのペテン師に会わせろっていってるだろうが!」
「お客様、落ち着いてください!」
外では何故か受付の人が隣の天幕の荷物に倒れこんでいた。そしてその男性を怒鳴り散らしている男性がいた。荷物の中には木箱もいくつかありそこに倒れたせいで破損していた。さきほどの音はこの木箱に当たった音だろう。
「あいつはこの中にいるんだな!?」
怒鳴り散らしていた男性はスランと私を突き飛ばすと天幕に入った。よろけた私はスランに支えられて天幕の入口から離れた。中の様子が気になったけど怖くてとても入る気にはなれない。大丈夫だろうかとハラハラしていたら男の人が出て来て
「くそっ!逃げやがった!」
と言って人込みの方に走り去っていった。念の為にスランが一人で天幕に入りすぐに出てきた。
「占い師はいない」
先ほどまで確かに天幕にいた筈の占い師は私達の目の前から姿を消していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます