第5話

僕は花を摘んで、そして花びらをむしり取った。


 君の部屋は、花びらでいっぱいになる。花の強い色と強い香りでいっぱいになる。君の夢でいっぱいになる。僕の罪でいっぱいになる。かけがえのないたった一人の幸福のために、数え切れないほどの花達を犠牲にした僕に罪が重く伸し掛る。


 これは罰だ。自らの行いが招いた罰なんだ。彼のせいではない。僕の犯した罪によって、僕は彼を殺めなければならない。そうだ。そうなんだ。もうこれ以上、彼と花達を傷付けてはいけない。


 僕は………彼の口と鼻を花びらで覆い被せ、手で押さえ付けた。


 悶え苦しむ彼が、僕の心を苦しめる。心を掻き乱す。彼が呼吸をしようとする度、僕の手の平に熱い息遣いを感じる。彼はまだ生きようとしているのではないか。そんな考えが頭をよぎる。時間が遅くなる。決意が揺らぎ、うごめく。


 時は残酷に、僕に降りかかる。


 もう何時間経ったのだろうか。君はもう。動かなくなっていた。体がどんどん冷たくなっていって。僕の手は、君の冷たい涙に溺れていた。

 僕は、彼を花で窒息死させた。


 その事実が重くかかる。僕は何も考えず、花びらに火をつけた。辺りが真っ赤になる。燃えていく花達。燃えていく君。燃えていく僕と君の思い出。


 全てが灰になる。悲しみに満ちたこの部屋は、空に還る。煙は昇り、揺らめく火が消えていった。


 彼が培ったもの全てが、空に還った。


 月明かりが道を作り僕を照らしている。罪を償わなければならなかった。

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