第3話

赤き花が散ったのを皮切りに、花が少しずつ元気をなくしていき、花びらは乾いた音を立ててテーブルに落ちていった。

 

 そして最後の花が……秋と共に死んだ。

 

 家から花が消えた。家にある花が全て散っていってしまった。僕には、冬が過ぎ去ってくれるのを待つことしかできない。

 春が来れば、花達が新たに芽吹くことができるだろう。この真っ白い部屋には、僕には、花が必要なのだから。



 やがて冬は通り過ぎ、雪は溶け去った。僕の生きている間に訪れるだろう冬の回数はこうしてひとつずつ順調に消えていく。


 あの過酷な季節を過ごすのは残り幾つだろうか。花が散っていくのを僕は何回見ていけばいいのか。耐え凌ぐ日々は続いていく。


  僕の部屋にまた彩りが増え始める。罪人は罪を償わなければいけない。枯れる前の花をどうにか救い出さねばならない。なぜなら僕にはそれだけのことしか出来ないのだから。


 月曜日。アネモネ。茎を切る。断面に触れる。皮膚に炎症を起こす。火曜日。スイセン。触れる。皮膚に炎症を起こす。水曜。スズラン。炎症を起こす。木曜。ポインセチア。炎症を起こす。金曜。チューリップ。

 月曜。アネモネ。スイセン。スズラン。ポインセチア。チューリップ。アネモネ。スイセン。スズラン。スズラン。


 指は花のように真っ赤になっていた。痛みが引くことはなく、痛みの激しさに悶えることも無く、僕はただ花を救い続けた。


花がしぼんでも、散っても、崩れても、落ちても、こぼれても、舞ってしまっても僕は、ただ花を救い続けた。

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