第17話 お嬢様がしたいこと
「ど、どうかしら?」
「そ、その……」
待ち合わせ場所である駅前で聖麗奈さんと合流したところまではよかった。
上目遣いで、もじもじと僕の反応を気にするお嬢様を前にして、僕はフリーズしてしまう。
今朝のレースパジャマも最高にたすかったのだが。
本日の聖麗奈さんは清楚な水色ワンピである。淡い銀髪とあいまって、深窓の令嬢感がハンパない。
周りの人たちもさっきから聖麗奈さんをチラチラ見ている。
「守りたい、このお嬢様」
「えっ?」
聖麗奈さんは不安そうにオロオロする。普段の堂々としたお嬢様仕草とのギャップがまたそそられる。
永遠に眺めていたい。
(まじで、かわいい生き物なんですっ!)
先日、妻発言をされたときに素っ気なくしたことを後悔するぐらい、見とれていた。
「ごめん、聖麗奈さんが綺麗すぎて、言葉を失っていた」
「しょ、しょうでしゅか」
(お嬢様噛みまくりですよ)
今の聖麗奈さんを学校の人が目撃したら、どう思うか、その2。
「こ、心春さんもかっこいいですわ」
不意打ちだった。満面の笑みに魂を持って行かれそうになる。
「じゃ、行こうか?」
「はい。今日はお願いしますわ」
そう言うと、聖麗奈さんは僕の腕に体を絡ませてくる。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~???????」
弾力のあるブツが腕に当たり、僕の体がとろけそうになる。
あまりにも極楽すぎて。
「僕は夢を見てるんだろうか?」
「はい?」
「だって、聖麗奈さんが急に……」
「デートのときは、こうするものだと教わりましたの」
「だ、誰から?」
「
学校で聖麗奈さんに話しかける子のうち、変態じゃない方か。
「聖麗奈さん、うちの学校、変な人が多くて大変じゃない?」
「個性豊かな方がいらっしゃって、勉強になりますわ」
「そういう感じ方もあるんだ」
聖麗奈さんにはお嬢様学校の方が似合うと思いつつ、口には出さない。
朝比奈家からの支援も受けられないうえに、おばあさんの件もある。行きたくても行けないかもしれないから。
「ところで、今日はどこに行きたい?」
いちおう、自分でも案は考えてある。というか、芽留がお節介を焼いて、デートプランを作ってくれた。僕に任せると不安らしい。
「じつは、わたくし、よくわかりませんの」
「わからない?」
「わたくし、お休みの日に同年代の人と出かけたことありませんのよ」
信じられないと言おうとして、思いとどまった。
学校でも、一部の人を除いて、聖麗奈さんに話しかける人は少ない。
僕たちの学校は、公立の中高一貫校。それなりの偏差値がある伝統校ではあっても、お金持ち学校ではない。
そんななかで、聖麗奈さんは少数のお嬢様枠と見られている。
一般の生徒からすれば、高嶺の花すぎて、誘いにくいのかも。
「おばあさまのこともありますし、放課後もまっすぐ帰っておりますの」
「なら、僕が初めてなんだ」
「ええ。心春さんにわたくしの初めてを捧げますわ」
通りがかりの女子大生が僕を睨んだ。その言い方、勘違いされるし。
「だったら、余計に遠慮しないで、したいことを言ってほしいかな」
責任重大だ。芽留には悪いが、デートプランは使わない。
「で、ですが……」
「僕は聖麗奈さんに喜んでほしいんだ」
聖麗奈さんは熱に浮かされたような顔をする。
「心春さん、本当に素敵な方ですの」
ストレートに褒められると、恥ずかしい。
「本当にどこにでも付き合うから」
「わがままを言って、よろしいかしら?」
そう言うと、聖麗奈さんは胸に手を当て、何度か深呼吸を繰り返す。
そんなに大それた場所なんだろうか?
(ま、まさか、大人の階段を上がっちゃう⁉)
まだ、午前中なんですけど。
僕まで、そわそわしてきた。
聖麗奈さんは頬を赤らめ。
「遊園地に行きたいのですわ」
「へっ?」
「……遊園地ですの」
「はい?」
「やっぱり、高校生にもなって、遊園地だなんて、恥ずかしいですよね」
聖麗奈さんはバツが悪そうに髪をいじる。
僕は自分の失敗を悟った。
「べつに、遊園地は高校生も普通に行くよ」
「そうなのですか?」
「うん……………………たぶん」
他人との交流をできるだけ絶っている僕には断言できません。
「まあ、他人の目は気にせず、今日だけはしたいことをしようよ」
最初からこう言っておけば、よかった。
「そうですわね」
聖麗奈さんが素直な子で申し訳なくなる。
「わたくし、考えすぎていたかもしれませんわ」
「ん?」
「わたくしは亡きお母さまの言いつけを大事にしておりますの。ですから、お嬢様たらんと背伸びしております」
「聖麗奈さんが頑張ってるのは、僕も知ってる。背伸びでもいいじゃん」
無理して背伸びしているようには感じられないのだが、彼女の言葉を否定したくなかった。聖麗奈さん本人が『背伸び』と表現しているのに、第三者がああだこうだ言いたくない。
「そう言っていただけると気が楽になりますわ」
聖麗奈さんも15歳。気丈に振る舞ってはいても、大変なのだろう。介護は大人でもつらいと聞くし。
「遊園地は子どもの頃に両親に何度か連れてきていただいておりましたの」
「そうなんだ」
「楽しい思い出があるのですが、今のわたくしは立派なお嬢様らしい品格を身に着けたいと思っております」
「う、うん。それと遊園地がどういう関係があるの?」
「わたくしにとって、遊園地は幼かった日の象徴。お嬢様と対極にあるものなのです」
「だから、行きたいと思っていても、言い出すのに抵抗があったの?」
「そうですの!」
我が意を得たりとばかりに、聖麗奈さんはうなずく。
「じゃあ、今日は子どもに戻って、楽しもうよ」
「はい、ですの」
うれしそうに体を絡ませてくる聖麗奈さん。
(今日の聖麗奈さんは子ども、子ども、子どもなんだ)
子どもどころか、大人以上の膨らみを腕に感じつつ、僕は歩き始めた。
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