第8話 お嬢様とシコ

 翌日の放課後。

 僕と妹は、朝比奈さん・おばあさんペアと一緒に神社にいた。


 朝比奈さん家の近くにある、古くからの神社。都内にもかかわらず、広大な土地を持っている。


 神社の中に庭園まである。ツツジがピンク、白、朱色などの花を咲かせている。

 この神社は、ツツジが有名だとか。今は5月の下旬だけれど、ツツジの見頃は5月半ばまでらしい。枯れてはいないものの、肉体的なピークをすぎている。少し哀愁を感じた。


「お兄ちゃん、せっかくの芝生なんだし、寝っ転がっていいカラ?」

「うーん、横になるのはいいけど、クルクル回転すんなよ」

「それ、子どもの頃の話でしょ〜。今は胸が邪魔で、コマみたいに回れないし〜」


 妹を車椅子から下ろすと、芝生の上に座らせる。体育座りの格好になった。


「茜さん、わたくしは何をすればよろしいですか?」


 ジャージ姿のお嬢様が尋ねてきた。


「まず、体操から始めよう。芽留はおばあさんの話し相手を頼んだ」


 オーソドックスなラジオ体操をする。

 ラジオ体操はウォーミングアップに良い運動だ。さすがの朝比奈さんもラジオ体操は普通にできている。


「今日は身体運用の基礎トレーニングをやっていこうと思う」

「はい、お師匠様」


 妹の事故以来、修行をやめてしまった僕が、師匠扱いされるとは。

 師範のお姉さんに見つかったら、「生意気だ」と言われるの間違いなし。後ろから絞められたことは何十回もあって、軽くトラウマになっている。痛いだけでなく、爆乳を背中に当てられて、我慢するのがきついんだ。


「昨日は芽留を起き上がらせようとして転んでしまった」

「ええ、恥ずかしながら」

「でも、体幹を鍛えていけば、大丈夫だから」


 朝比奈さんの顔がぱあっと明るくなる。


「どうやればいいんですの?」

「それを、これからやっていこうと思う」

「お願いしますわ」


 今日は初夏の気温。体操しただけで、暑くなる。

 朝比奈さんもジャージの上を脱ぐ。

 ジャージを胸の前で抱えた朝比奈さんに僕は言う。


「あっ、芽留の車椅子にかけていいから」

「お言葉に甘えさせていただきますわ」


 ジャージを置いて戻ってきた朝比奈さん。Tシャツ姿だったのだが。


(うわっ、すげぇ)


 生まれがガチなお嬢様のTシャツ姿。しかも、体の起伏もゴージャスときた。


「朝比奈先輩、ジャンプをすると鍛えられますよ〜」

「芽留さん、承知しましたわ」


 ぴょんぴょん。朝比奈さんはその場で何度もジャンプする。

 超裕福な双丘が揺れる。


「うわっ。おっぱいで発電できそう〜」


 芽留の言葉が風に乗って運ばれてきた。


(これが本当の自家発電だな)


 口には出せないけれど、心の中で乗ってみた。


「芽留、あんまり適当なこと言うな」

「メルだって元テニスの選手なんだよ〜。ジャンプは下半身の強化になるもん〜」

「はいはい。でも、練習メニューは僕が決めるんだよな」

「ぷぅ〜。おばあちゃんと遊んでるもん〜」

「おばあさんも芽留をかわいがっているし、そっちの方が助かる」


 ジャンプを終えた朝比奈さん、息が弾んでいる。

 呼吸が落ち着くのを待って、僕は話を切り出した。


「これから、四股しこをやってもらう」

「し、四股ですか……」


 朝比奈さんは目を点にする。無理もないだろう。


「お兄ちゃん、シコるって、まだ昼間だし、公共の場なんだよ〜」

「四股って、相撲すもうだよ」

「へっ?」

「だから、相撲。お相撲さんが土俵入りのときに、四股を踏むだろ。あの四股だ」

「そっ、そうだよね〜。最初からわかってたよ〜」


 我が妹ながら調子がいい。


「シコとは、どういう意味でしょうか?」


 朝比奈さんがキョトンと小首をかしげる。

 経済的には平均程度であっても、朝比奈さんは育ちがいい。とてもじゃないが、説明できない。


 というか、妹が下ネタに走って、お兄さんは悲しいです。

 兄と裸の付き合いをしていても、けっしてエッチなしていませんし。


「相撲取りがやるでしょ。両足を開いてから、片足を大きく上げて、土俵を踏む。あの動きだよ」

「ええ。わかりますわ」


 朝比奈さんは赤くなって、のぼせたような顔をしている。


「あの、お相撲さんみたいなことはしなければなりませんの?」

「もしかして、嫌だった?」

「股を開くのに抵抗がありまして……」


 朝比奈さんは胸の前で腕を組み、モジモジする。

 僕に下着姿を見られても、堂々としていた彼女が恥ずかしがっている。

 羞恥の基準はわからないけれど、たしかに女子がするには抵抗あるポーズかもしれない。


 なお、照れているお嬢様もかわいい。


「強制はしないけど、四股はすごく良いトレーニングになる。だから、相撲取りもたくさんやってるわけで」

「お兄ちゃん、具体的にはどんな効果があるの〜?」


 芽留が質問をする。朝比奈さんが聞きづらいと思って、自分がしたのかもしれない。


(芽留は気配りができる自慢の妹だからな)


「四股は、下半身がかなり鍛えられる。体幹も強くなる。だから、多少押されたり、引っ張られたりしても、体がブレなくなる。昨日みたいなハプニングはなくなるはず」


 ちなみに、僕も剣術の師匠に四股をやらされた。技をする流れの中で、四股の形になるものも多く、四股は重要だと師匠は言っていた。


「お相撲さんたち、巨漢のボーイ同士で、がっぷりぶつかり合うもんね〜。かなり激しく突っつき合うし、鍛えておかないと…………薄い本も成り立たないよね〜」


 真面目に言っていると思ったら、最後が残念だった。

 妹がBL本を持っているのを見たことないし、きっと冗談のはず。


「わかりましたわ。お相撲さんになったつもりでがんばります」


 朝比奈さんは真面目だった。


「じゃあ、僕と同じように動いてみて」


 僕にあわせて、朝比奈さんも股を開く。

 クラスの人たちが見たら、卒倒しそう。特に、取り巻きのふたり。


 続けて、僕は右足を上げ。


「足を上げた状態で、何秒か維持できたらいいんだけど……」


「いきなりは厳しいから、やらなくていいよ」と言う前に。

 朝比奈さんは足を空中で止めていた。

 プルプルと体が震え。

 双丘もつられて動き。

 思わず、見てしまうも。


「危ない!」


 朝比奈さんが転びそうになるのに気づくや。


 残った足を使って、彼女の方へジャンプ。

 間に合った。朝比奈さんの腰に腕を回し、転倒を防ぐ。


「ふう、よかった」

「茜さん、ありがとうございました」


 お礼を言う彼女の吐息が首筋を撫でる。


(えっ?)


 僕たちは抱き合っていた。

 僕と朝比奈さんの身長差は15センチ強。僕の腹に押されて、彼女の双丘が形を変えている。


(なにこれ? めちゃくちゃ柔らかいんだけど)


 芽留を抱っこしているから、女性の胸の弾力は知っているけど。人によって、こんなにもちがうとは。


「あっ、ごめん」


 僕は慌てて離れた。


「わたくしこそ失礼しましたわ」

「……そ、その、気にしないの?」

「茜さんの殿方でしたら、不快だったかもしれませんわね」


(僕はセーフなのか?)

 そうは聞けなかった。


「それより、四股って、思ってたより大変でしょ?」

「ええ。股を開くだけでも良い運動になりますわ」

「まずは、1日10回から20回を毎日やってみようか?」

「わかりましたわ」


 朝比奈さんと一緒に、四股を何度かしているうちに、体が火照ってきた。

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