生還
夢を見た。わたしが箒に乗ってレイ様と旅行に出かける夢だ。森を抜け、湖を越え、困難を二人で力を合わせて解決する。時には他の人にも助けてもらったりもする。夢の中でわたしは自由だった。自由だったが、心のどこかではこれが現実ではないことを知っている。そんな夢だった。
「……アちゃん……マリアちゃん」
わたしを呼ぶ声が聞こえる。マヤ先生の声だ。目を開けるとわたしは見慣れた尖塔のわたしのベッドの上にいた。あちこち痛いし少し悪寒がする。特にモンスターに掴まれた方の足首は少し動かすだけでも痛みが走る。
「……マヤ先生?」
マヤ先生はベッドの横から心配そうな顔で覗き込んでいた。部屋を見回してみると、レイ様は暖炉の近くの揺り椅子にすわりで寝ているみたいだ。
「よかった、気がついたのね!ごめん、マリアちゃん。わたしは先生失格ね」
「あの……わたしはどうなったんですか?」
「わたしが倒れてた二人を連れてかえってきたのよ」
マヤ先生が助けてくれたのか
「えと……モンスターがいませんでしたか?マヤ先生大丈夫でした?」
「ああ、モンスターね……」
マヤ先生は目線をそらして頬をかく。話すのを躊躇していたようだが、しばらくすると観念したように話しだした。
「わたしが駆けつけた時はモンスターは……なんていうか……その気になってたというか……あれよ!とにかくあのモンスターは非常に不届きな輩だったのよ。それを見たら、わたし思わず怒りが頂点に達しちゃって思いっきり……その……魔法で……ね?」
「魔法で……?」
あの記憶の最後の方に空が明るくなったのはマヤ先生の魔法だったのだろうか。
「いやいやいやっ!誤解しないで欲しいの。わたしだっていつもはもっとお淑やかなのよ?でもちょっと迷路みたいな洞窟で迷っちゃってイライラしてたし、二人を見つけられなくて焦ってたし、モンスターは変態野郎だったし……」
マヤ先生は先回りをして弁解をはじめてしまった。
「えーと、つまりモンスターは……」
「わたしが魔法で消し炭に……しちゃったのよ」
「……ケシ……ズミ」
モンスターの末路はあまり深く考えないほうがよさそうだ。
でも、本当に危ないところだった。何かが少しでも違っていたら、わたしはもう目覚めなかったかもしれない。今更ながら恐怖が蘇ってくる。
「マヤ先生……この度は助けて頂いてありがとうございました。動くなといわれていたのに……わたし」
わたしはベッドから体を起こしてマヤ先生に頭を下げた。
「ちょっと!そんなことしないでいいの!むしろ謝らないといけないのはわたしだわ。怪我させちゃったんですもの。保護者代理としてはわたしがマリアちゃんを守らないといけなかったのに」
マヤ先生は「ごめんなさい」と言って軽く頭を下げた。そして優しく微笑んだ。
「マリアちゃんは何も悪くない。悪いのは全部あのクソ野郎……いえ、けしからんモンスターがいけなかったよ!」
マヤ先生はわざとらしく怒ってみせながらそう言い、ウインクした。とりあえずマヤ先生はすべてをあのモンスターのせいにして丸くおさめようとしているみたいだ。
「フフフ、そうかもしれません。あのモンスター、確かにちょっと臭かったですし、目もいやらしい感じでしたし」
「そうよそうよ」
わたしとマヤ先生は笑いあった。
「ところで、レイ様にはお怪我はありませんでしたか?レイ様にも助けていただいたのに、わたしのせいで」
「レイは全然大丈夫よ。雪玉がぶつかってゴロゴロと遠くまで転がっていって雪だるまになっただけだわ。今は寝てるけど、さっきまでは起きててマリアちゃんにいいところみせようとしたら失敗して守れなかったーって、凹んでたわ。まあ、あの子にとっても今回のことはいい経験になったんじゃないかな?」
怪我はなかったようだ。よかった。
「マリアちゃんはまた少し寝た方がいいわ。熱が出てるわよ。雪まみれになって風邪引いちゃったのかもね。あと頭のタンコブと右足首のあたりが腫れてるわ。私がもってきた湿布をはっておいたから。風邪薬もあるからあとで飲んでね」
「はい」
返事ともにグゥっとお腹がなった。
みんな無事だということがわかって安心したら急にお腹が減ってきた。
「あら、お腹すいたかしら。食べれるなら寝る前に何か食べたほうがいいわね。薬も食後に飲めるし。それじゃあレイも起こしてみんなで食事にしましょう」
この日はそのままみんなで軽く食事をし、薬を飲んで湿布を貼って寝た。
レイ様は終始謝り通しだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます