元ヤン

 一体なんだこれは。

 マヤは怒りに燃えていた。洞窟内で道に迷いまくった挙句、(完全に道に迷ったので)魔法で洞窟の天井をぶち抜いて出てきて見れば、娘とマリアちゃんが訳のわからぬモンスターに襲われているではないか。迷子になっただけでも焦りでイライラしていたのに、あろうことかモンスターは倒れて衣服の乱れたマリアちゃんを見て、あるモノをおったてていたのだ。

「もう、あったまキた……」

 マヤは静かに杖を取り出し、箒の上に両足で立った。あまりの怒りのせいか、全身から湯気が出ているようにも見える。

「こんっの!ナニさらしてんだテメェエェェェッ!」

 マヤの杖の先からモンスターめがけて渦巻く炎がほとばしる。光はマリアに触れようと伸ばしていたモンスターの右腕を焼き切った。

「グェエアアァァアッ!」

 いきなり右腕を失ったモンスターは訳も分からず、その場でのたうちまわる。混乱したモンスターはもう片方の腕をマリアめがけて振り上げた。

「させるかっての!」

 マヤは箒に乗りなおし、モンスターめがけて弾かれたように急加速した。一瞬でモンスターとの間合いを詰める。

 マリアを叩き潰さんとするモンスターに、マヤは超高速機動からの蹴りをお見舞いした。モンスターの脇腹にマヤの金属製のヒールがつきささり、モンスターはゴムまりみたいに吹っ飛んだ。モンスターは木を何本もなぎ倒し、雪溜まりに。

「ったく……変態ゴリラが……」

 マヤの眉間には深いシワが刻まれ、スカートから露出した脚には精悍な筋繊維が顕になり、稲光りを写し取ったような血管が何本も浮き出ている。

「こんな無垢な子にテメエみてーなクソが触れることが許されるわけねぇだろうが」

 マヤはマリアの横に降りたち、マリアの乱れた衣服をなおしてやる。

 モンスターは再び立ち上がりこちらに向かって歩いてくる。マヤはため息をつき、頭を振って立ち上がった。

「やれやれ、いけないわね。このまま大人しく消えれば見逃してあげます……あ?」

 振り返ったマヤの目に映ったのは、こめかみから血を流しながらも先ほどまでよりも元気になった股間のモノを揺らしながら近づいてくるモンスターの姿だった。息も荒いがその表情は恍惚としている。

「……この変態野郎が。人の話を聞けっつーのに」

 マヤの額には追加で血管が浮き上がった。

 モンスターはそのモノの先端からトロンとした液体を出しはじめている。

「ありえねぇ」

 モンスターはじりじりとマヤとの距離をつめながらも、さらに自身のアンテナを膨張させていく。そしてはち切れんばかりに高まった時、激しく腰を振り回してアンテナの先端からとろみ液を撒き散らした。マヤはマリアを庇って避けることができない。液体がマヤの頬に付着した。一瞬ひるんだマヤめがけて、モンスターは飛びかかった。

 マヤは腰を落として周囲に魔法陣を展開し、迎撃準備を整える。

「この猿野郎ッ!」

 マヤの全身の筋肉が隆起して、押しつぶそうとのしかかるモンスターを垂直に蹴りあげた。ハイヒールがモンスターの腹部に突き刺さりは上空高く舞い上がった。が、モンスターは重傷を負っていながらもすれ違いざまにマヤに向けて白い体液を飛ばした。マヤは避けようもなく全身にその液体を浴びてしまった、かに見えたが直前でマヤは体を炎で包み体液は蒸発霧散させた。

「くっさ……」

 マヤは宙に浮いたモンスターに杖をむけ照準を定めた。怒りで杖を持つ手が震えている。こんなに神経に触る相手は久しぶりだった。仕事柄、戦闘自体はよくあることだったがこういう生理的に不快な敵はもうずっと相対することはなかった。なのでこの手の相手に対する免疫が低下していたのかもしれない。そんなわけもあってマヤはもう力加減とかどうでもよくなってしまった。

「あー、もうテメーはダメだ。消えてくれ」

 杖から炎が四方八方にほとばしりはじめ、周囲の雪を溶かし木々を焦がしていく。

 モンスターはマヤの杖のめがけてまっすぐ落ちてくる。その顔は喜色を浮かべていた。

「ちっ……なんで笑ってやがんだよ!燃えつきろ!変態ゴリラがっ!」

杖の周りに一瞬で幾何学模様が展開していったかと思えば、杖の先から眩い光が放たれる。高熱の光の柱が現出し、モンスターは嬉しそうに消し炭になった。

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