合流
お母さんからの通信魔法によるとどうやら向こうに見える建物群の隣の湖を挟んだ反対側の森にいるらしい。今日は晴れてて風もほとんどない。昨日までの荒天が嘘のようだ。
ここまで来る途中は大変だった。輸送船で北限の大きな街までは、窮屈だったけど楽しかった。たしかに寒いけれど飛べないほど寒くないし、入念に準備すればむしろ暖かいと思えるまま箒で移動が可能だった。しかし本当に大変なのはそこからだったのだ。目的地である尖塔群は位置的に北限の大きな街からほぼ真東。北に向かうほど寒くなるのが普通なので、これ以上寒くなるとこはないと思っていた。ところがどっこい、東に向かえば向かうほど寒くなる。その上天気も悪くなって風も冷たい。北の大地の洗礼をたっぷりと受けたのだった。
「あ、おかーさーん!」
遠く豆粒大にお母さんらしきシルエットが見える。手を振るとこちらに気がついた。
「思ったより早かったわねー。迷わなかった?」
「うん、大丈夫だったよ。お母さんの職場のおじさんに送ってもらったから。行き違いにならなくてよかったよー」
「無事合流できてよかったわ。詳しい話もききたいけど、今はマリアちゃん待たせてるから……」
「生徒さんはマリアちゃんていうの?わかった。お母さん、どっちから来たかわかる?」
「まっすぐは飛んで来た。方向は一切変えてないから真後ろに飛べば戻れるはずよ」
お母さんはそう言うとUターンしようとした。
「あー!待って待って!わたしが方角見るから!」
同じ方法で過去に何度も失敗してるのだが、それはUターンする時に方向がズレるからだった。ちょっとのズレが長い距離では大きな誤差になる。過去に何度もお母さんの大雑把な(本人は慎重にやってるつもりらしいが)Uターンで大変な目にあった。私たちは慎重にUターンした。
右手に湖の見ながら広大にひろがる森林の上を木にひっかからないくらいの低空を前後一列になって飛んでいく。湖の対岸には尖塔群が見える。すこし突き出した半島に立っているようだ。この雪に閉ざされた世界で寄り添うように立っている。
ふいに前を飛んでいたお母さんが止まった。
「ここだわ。よかった簡単に見つかって」
下は窪地になっているみたいだ。遠くからでは全くわからなかった。結構高さがあるのでゆっくりと降りていく。
「わー、なんだか秘密基地みたいだね」
「そうなのよー。昨日偶然見つけてね。この下に洞窟があったから今日は探検してみようとしてたところなの」
「探検?勉強じゃないんだね……」
「あはは、まあね。もし疲れてるなら入り口で休んでてもいいわよ?」
「ううん、全然大丈夫。今日は晴れてて暖かいしそんなに疲れてないから。探検なんて楽しそうじゃん!」
かなり大きな洞窟だった。陽の光を反射してキラキラしている。生徒さんはどこにいるんだろう。
「マリアちゃんてどんな子?」
「金髪で色白で背が低くてかわいい子よ~」
降下して雪原に近づくにつれて何か変な感じがした。
「……マリアちゃん……いない?」
「お母さん!なんか大きな足跡がある!」
上からでは真っ白で気がつかなかったが、近づいてみると雪の上に小さな足跡の他に大きな足跡が残っているがわかった。足跡は二つとも洞窟の方に向かっている。
「ウソ……こんな大きな生き物いなかったわよ?もしかしてマリアちゃん洞窟の中に……」
お母さんは弾かれたように洞窟に向かって飛んだ。
「生徒さんは、マリアちゃんはどんな魔法が得意なの?戦闘系?」
わたしはお母さんを追いかけながら叫んだ。
「いえ、マリアちゃん魔法使えないのよ!箒にも乗れないわ!」
魔法が使えない?それだとあの巨大な足跡がたとえ肉食獣じゃなくても危険だ。
しばらく飛ぶと別れ道があった。
「どうしよう、二手に分かれる?」
「そうね。15分探してダメだったら一度入り口で合流しましょう」
「わかった」
わたしは左側に、お母さんは右の道に進んだ。
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