洞窟探検

「それでは今日から本格的にあの洞窟の調査を開始しましょう!」

 今朝マヤ先生はそう宣言した。

「マリアちゃんに頼まれていたバッグが完成しました!ついでにマリアちゃんの服も完成です!」

 探索に慣れてきたところで問題が発生した。色々と調査に必要な荷物を持って行こうとしたのだがわたしはこれまで外出することがなかったので、バッグというものを一つも持っていなかったのだ。

 メモもたくさんとりたいし、できればサンプルも採取したい。植物用に鉱石用、それをもちかえるようの入れ物などの道具も一式。さすがにポケットには入りきらない。マヤ先生は「わたし荷物を入れてきたバッグを使っていいよ。勤め先からの支給品だからあげられないけど……」と言ってくれたが、汚してしまうかもしれないので気が引けた。なのでわたしのクローゼットの中から着なくなった服をマヤ先生に仕立て直してもらって、バッグを作ってもらうことにしたのだった。ついにそれが完成したらしい。

「じゃじゃーん!これです!」

 シックな大人っぽいバッグをお願いしたはずだった。

「えと……これです、よね?」

 わたしはマヤ先生の掲げたバッグを見て確認せざるをえなかった。

「かわいいでしょ?つけてみて!」

 しかし出来上がったのはロリロリしいフリルのたくさんついたバッグだった。材料となった服は黒い服や黒い糸が多かったのでかろうじて刺繍があまり目立たない。マヤ先生はわたしがカバンを身につけた姿を見て「やっぱり!ゴスロリっぽいのが似合うと思ったんだー!」と言った。

「ご、ゴスロリってなんでしょうか?」

「ロリータの一種だよ~。わたしが若い頃の王都で流行ってたの」

「ろ、ロリータ……そういったものがあるのですね……」

 マヤ先生の中でもこれは一応ロリロリしいものとして認識されているようだ。

「ふふふ、さらにこんなものも作ってみたんだ!」

 マヤ先生はバッグの他にもフリルのついた黒くてクラシックな仕立てのドレスも用意していた。スカート部分が不自然に膨らんでいる。

「あ、あの……まさかこれを……」

「さあ着てみて!これを作るのに時間かかっちゃったけど、力作なんだ!」

 断れる雰囲気は皆無だった。とにかくこのスゴい服を着るしかないみたいだ。うう、どうせなら探検記に出てくるような調査団みたいに、ポケットのたくさんついたジャケットやパンツで気分を盛り上げたかったのに!

「ぅおおお……」

 着替え終わって鏡にうつった自分を見たとき、思わず呻き声のようなものがもれてしまった。派手すぎる。というか情報量が多すぎる。

 マヤ先生といえば、わたしのゴスロリファッションを見てご満悦の様子だった。

 当のマヤ先生の格好はというと、細かい刺繍の入った生地を使った赤いワンピースに黄色と黒の縞模様のフェイクファーで出来たロングコート。魔法の国のさらに南方に住むという巨大なネコの魔獣、トラの模様だ。ワンピースのスカートには大きくスリットが入っていて、ヒョウ柄のインナーがのぞいている。

 今日も無駄にセクシーだった。もう見慣れたとはいえ比較にならないほど派手だ。

 うん、アレを着させられるならまだゴスロリとやらのほうがいいかもしれない。というかマヤ先生はあんなに露出の多い服なのに何故寒くないんだろうか?いつも口では「寒いねー!」と言ってはいるが、寒さがこたえてる様子は全くなかった。寒さに強いとか体が丈夫とかだったとしても限度というものがある。わたしは着込んでいても数時間の探索して帰ってくる頃には水の様な鼻水が出てくるというのに。一体どうなっているんだろう。何かの魔法なのか、それとも王国出身の人はみんな寒さに特別強い体のつくりでもしてるのだろうか?

 わたしが考えにふけっていると、マヤ先生は何かを思い出したかのようにフッと顔をあげた。

「あっ、今日はマリアちゃんに紹介したい子がいるの。ほら、最初に会った日にわたしの授業で友達も作るっていったでしょう?」

「あ、はい。そういえばそうでした」

 すっかり忘れていた。そんなことも言っていた気がする。

「その子っていうのは、まあ……わたしの娘なんだけど、昨日から学校が休みにはいってね。声をかけたら来るって言ってたから今日の夕方あたり合流できると思うわ。今日は盛り沢山ね!」

「えっ、娘さんですかっ?」

 マヤ先生って娘がいたんだ……。そもそもマヤ先生って今いくつなんだろうか。そういえばリン先生の歳も知らない。話から察するにリン先生よりマヤ先生の方が年上のはずだ。娘っていくつなんだろう。マヤ先生の見た目から察するにわたしより大きい娘がいるとは思えない。

 どうしよう、わたしは自分より年下と話したことがないのだ。いったい何を話したらいいんだろう。

 先生はサラッと言った言葉は、わたしの頭に様々な考えを一気に湧きあがらせた。しかし、マヤ先生はそんなことお構いなしで、いつものようにわたしを箒に乗せて窓から外に飛び出したのだった。

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