昨日までの成果

 初めての外出から数日がたった。わたしとマヤ先生はもう何度か外出をし、湖のまわりの森を中心に探検している。

 午前中は二人でフィールドワーク。午後になったらわたしはノートに成果をまとめ、マヤ先生は針仕事や昼寝というのが日課だった。マヤ先生は見事な裁縫魔法で(といっても魔法を使ったと思われるのは針に糸を通す時だけだが)、先生自身の予備の服を全部わたし用になおしてくれている。

 図鑑で見たことのある大体のものは実物を見ることが出来たが、目標である永久氷晶の発見にはいたっていない。

 これまで見つけた一番価値がありそうなものはスノーホワイトローズという花も葉も幹も真っ白な植物だろう。冬の雪が降ってからでないと地面から出てこない。ほぼ雪の中でのみ生育するので見つけるのがとても難しい。そしてその花は咲いている時に摘めば、枯れることなく咲き続ける特徴がある。なので縁起ものとして価値が高いという一品なのだ。偶然わたしが落とし物をしてしまって取りに雪原に手をつっこんだらみつかった。初めて実物を見たが花は半透明の白だった。全体的に透明感がある。図鑑で見たときは花のイラストはそういう表現なのかと思っていた。透き通る花は儚げでとても綺麗だ。今までのマヤ先生の発言からわたしはマヤ先生が根こそぎ持って行こうとするのではないかと思ったが、花を四つ摘んだだけだった。マヤ先生いわく「縁起物は欲張るとバチがあたるのよ」だそうだ。

 図鑑には載っていなかった新しい植物の発見もあった。後日リン先生と一緒に検証をしないといけないが、まだ誰も文字に記録していないものを世界で初めてわたしとマヤ先生が発見したのだ。誰かが示した物をの追うのではなく、自分で新しい物を発見するのがこんなに興奮することだなんて思いもしなかった。リン先生が研究や実験に没頭する気持ちが少しわかった気がする。なんの研究かはわからないが、リン先生もあの尖塔の狭い部屋の中で誰一人としてたどり着いたことのない地平を目指しているのだろう。

 そして昨日は大発見があった。なんと未発見の洞窟をみつけたのだ。それも氷でできた大洞窟だ。

 わたしたちがその洞窟を見つけたのはまったくの偶然だった。

 昨日、探索の途中で地上におりて休憩中していた。マヤ先生がコーヒーを淹れている間、わたしはユキウサギの群れの観察していた。ユキウサギがあまりにも可愛かったので、ついつい観察に夢中になってしまった。ユキウサギに気がつかれないように物陰に隠れつつ近づいていったのだが、夢中になるあまりに崖から分厚くせり出していた雪を踏み抜き、そのまま崖から転げ落ちてしまった。崖は数百メートル以上の高さがあり、わたしはまっさかさまに落ちた。だが、わたしが地面に叩きつけられる前に気がついたマヤ先生が空中でキャッチしてくれたのだ。なので幸いわたしはなんともなかった。マヤ先生の淹れたてのコーヒーは宙を舞い、凍ってしまったが……。

 落ちた崖の下の谷底は広く、無数の背が高い木が生えていた。そして、谷底の突き当たりにおぼろげに光る巨大な氷で出来た洞窟の入り口があったのだ。少しのぞいてみたところ、結構深いことがわかったので日を改めて探検してみようということになったのである。

「昨日マリアちゃんが崖から転げ落ちたときは心臓が止まるかと思ったわ。呑気にコーヒーを淹れててマリアちゃんに何かあったりしたらボディーガード失格だもの」

「はは……すみませんでした。つい夢中になっちゃって……でも怪我の功名といいますか、実際には怪我はありませんでしたけど、新発見もありましたし!」

 わたしはちょっとおどけてVサインを作ってみたが、「怪我があったら困るわよ!」と一蹴されてしまったのだった。

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